ロマンチック・(オート)ロック/把手のない家
彼はわたしの王子様。
いつもわたしは見ているの。
部屋の隅からひっそりと。
それでも時には大胆に。
溶かしたチョコを固めたら。
綺麗な包みで閉じ込めて。
想いよ届け、14日の午後3時。
(それはわたしの初恋だった。16年間生きてきて初めての恋。高校に入って初めての恋。わたしは嬉しかった。彼はクラスの人気者だった。対してわたしは、廊下側の一番後ろの席で、静かに座っているだけの日陰の人。誰にでも優しい太陽のような彼は、日陰のわたしにも優しくて、気づいたらわたしは、彼の魅力に酔っていたみたいだ。ろくに友達とも会話できないわたしは、でも、彼にだけは積極的になれた。話しかけると笑ってくれた。宿題を借りると茶化してくれた。日に日に想いは大きくなって、わたしの中で、育まれていく恋のつぼみが、いまかいまかと、開花するときを待っている。だから、2月14日に、早起きをした。そして渡したんだ)
彼はわたしの王子様。
いつもわたしは見ているの。
部屋の隅からひっそりと。 / 把手のない家。扉もあかない。
チョコを受け取り驚いて。 / 窓から差し込む光を頼りに、今日もわたしは本を読む。
太陽のような笑顔をした。 / ねえ、あなたももう小学生よ。友達を作らないとね。
何? 俺のこと好きなの? / でも本があれば良かった。醜いあひるの本があったら。
俺もさ、実はお前のことが――。
ばたん! / ばたん。
(あの子は本ばかり読んでいる。両親から事あるごとに言われ続けるうちに、本を読む、ということが悪いことなのだと知るようになった。
本を読む子は将来犯罪者になる。あのあひるの子が、美しい白鳥に育ったように)
彼はわたしの王子様。
いつもわたしは見ているの。
けれどもわたしは知っちゃった。
わたしは彼のお姫様。
彼もわたしを見ていたの。
きもちわるい。
(がたがた、がたがたと。
好きだったのに。好きだったはずなのに。
好かれていると知った途端に、湧き上がる嫌悪感。
あなたは白鳥を好きになるような人だったんだね。
「おい、大丈夫か?」彼が話しかけてくる。よっぽど青い顔をしているのだろう。
「大丈夫だから。気にしないで」チョコを渡した直後なのに、告白された途端にわたしは、彼に心を閉ざしていた。
脳裡に浮かぶのは本ばかり読んでいたあの頃のわたし。
好きだったのに。好きだったのに)
きもちわるい。 / きもちわるい。
彼はわたしの王子様。
いつもわたしは見ていたの。
彼はわたしの王子様。
彼はわたしの王子様……/ 把手のない家。開かない。
■初出情報
○になる
初出「てきすとぽい」2017.6.17
お題「擬人化」 / 制限時間1時間15分
○熱の間合い
初出「てきすとぽい」2017.12.9
お題「バトル・アクション小説」「頭脳戦」 / 制限時間2時間
○明日の日記
初出「てきすとぽい」2017.8.20
お題「夏休みの日記」 / 制限時間24時間
○旅客機の窓から、ある光(remix 2017)
書き下ろし
原文「2019年からのノットレコーディッドSHOW」p.91 2017.6.10
○ロマンチック・(オート)ロック/把手のない家
初出「テンミリオンオリジナル小説投稿板」2014.11.23
お題 甘美な死骸を元にしたチャットゲーム「甘美なテンミリ」より、
“「気にしないで。大丈夫だから」心を閉ざしたあひるの子。……視界が閉じていく。もう戻れない、遠いあの頃――。”(作成:u17&一般民)
■2018年もよろしくお願いいたします。