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光差す海  作者: 長谷川真美
4/6

薄紅をひく

新たな世界への扉が開かれた

差し込む光に目がくらむ

一人では行けない

だけど二人でなら新たな世界でも立ち向かえる

「君の事を気に入った。私の研究室に助教授として来ないかい」倉田大介(くらた だいすけ)教授は私の研究分野では重鎮だ。私立大学で助手の職に就いている身にとっては国立大学の助教授の職は出世コースだ。あまりの出来事に言葉が詰まる。思わず(ひかり)の事を考える。東京を離れれば光と物理的にいまと比べて会える時間が減る。会えないかもしれない。「光栄です。私には身に余る思いです。もしよろしければ一ヶ月ほど考える時間を下さい。」倉田教授は口角をあげ、扇子を仰ぐ。「殺しの麻生泰臣(あそう やすおみ)でも悩むことがあるんだね」「殺し」というのは論文を提出する際のチェックが恐ろしいまでに厳しく、脱落していく学生が後をたたないことから名付けられた。私の研究室では大手への就職が良いがそれは脱落せずに審査を終えたものがたまたま大手に行っているだけだ。


そんな食えない様子の倉田教授を私は嫌いではない。謝恩会の料理と酒の味がしなかった。ホテルに戻り、月のあかりの下、思いにふける。光と会ってから一年が経つが深い仲になるのは避けてきた。光の幸せの中に私がいるか考えるだけで臆病になってしまう。うつらうつらと眠り、東京に帰る朝が来た。学会が終わった後は嵐の去った平和な時だ。学生は研究室に近寄らない。光が私の研究室を見たいと言った事を思い出した。今だったら図書館か手話サークルの部室にいるかもしれない。僅かな思いを託して図書館に向かう。どこか暗い表情の光がいた。私が手を挙げると光も手を挙げた。手話と口話を交える。「今、私の研究室に行きませんか。渡しそびれた博多土産もありますよ。」光の表情が和らぐ。「麻生さんの研究室に一度行ってみたかったんです。」私の記憶は間違いなかった。どうせなら研究室だけではなく構造実験棟や衛生実験棟も見せよう。研究室のホワイトボードに来客とデカデカと書き、光にヘルメットを渡す。光はそれだけで嬉しそうだ。実験棟には大きな橋梁のモデルとコンクリートミキサー、振動装置、圧縮装置などがある。衛生系の実験等には遠心分離機やpH測定機械、光学顕微鏡がある。光は子供のように説明を求める。いつもの光だった。一通り説明を終えたので研究室に戻る。


光によく冷えた麦茶と土産を渡す。二人で一緒に食べ始める。沈黙が続いた。二人して同時に声を発した。そのことに二人で笑う。じゃんけんをして勝った方から話をすることにした。私が勝った。筆談用のノートを用意する。「光、私はこの大学を今度の3月で辞めて、神奈川の大学に助教授として勤めることにしました。」光が文字をゆっくりと読んでいく。更に続ける。「私は光が好きです。」「光に子供を与えられません」「それでもよかったら恋人として付き合って下さい。」光が軽くうなづく。今度は光が筆談をしていく。「私もこの3月でこの大学でのポスドクを辞めます。今は関東とくに実家のある神奈川県で聴覚障害者のコーディネーターや非常勤講師の職を探しています。いつまでも藤代さんを頼っていてはいけないと思っています。私が重荷になったらいつでも言って下さい。」光の手を握りしめる。周りに人がいないことを確認してそっと口付ける。体をこちらに抱き寄せる。暖かな体温を感じる。「好きです」とサインをする。「光は重荷にはなりません。私の光です」光が微笑む。「初めてあった時に私が好きな本を愛おしげに見つめる麻生さんが好きでした。それが恋心とは自覚をしていませんでした。いまはあなたが好きだとはっきり言えます。」二人で指切りをする。二人の距離は着実に縮まっていった。光の薄紅をひいた唇に触れる。白い肌に薄紅色はよく映えた。美しい光をずっと眺めていたかった。FIN.


ようやく麻生教授と光さんのロマンス回です。

しばらく甘い回が続く予定です。

麻生教授を吹っ切らせるまで大変でした。

あとは流れに沿って書くだけです。


BGM:Undertale オーケストラver.

クーラーが欠かせない夏の夜

2017/8/3

長谷川真美


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