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光差す海  作者: 長谷川真美
2/6

クジラの歌

深く深く潜り、歌い続ける

高音域から低音域まであなたを求め歌い続ける

私の歌はあなたに届いていますか

 週の半ばから始めて三連休の最終日までに及んだ実験が終わった。頭がパンパンで本を読む気にはなれなかった。それでも自宅でじっとするのも、もったいなかったので皇居にランニングに向かう。皇居ならば走った後に銭湯と冷たいビールを味わえる。いつも作ってあるランニングセットを片手に地下鉄に乗る。皇居は休日の夜でも沢山のランナーがいた。女性も多い。銭湯でランニングウェアに着替え走り出す。入念にストレッチを行う。緊張していた筋肉を伸ばし体を温める。2時間走ることに決めた。ランニングウォッチを起動させる。心拍数を140程度に安定させながらひたすら走り続ける。生きている証としての鼓動を感じる、呼吸をする。複式呼吸が難しくなったら一気に息を吐き出し、また呼吸を整える。それを繰り返す。初夏の陽気でウェアが薄っすらと汗ばむ。走ることに没頭する。ランニングウォッチが2時間の終わりを告げる。まだまだ走っていたいが楽しみは程々にしておく程度が良かった。ゆっくりとクールダウンをする。


 自分の世界に入っていたら私を呼ぶ女性の声がした。「麻生さん。こんばんは。竹花です。」図書館の外で出会った光はいつものTシャツにチノパン姿ではなく、白のランニングドレスに青と白の水玉模様のスパッツ、水色のランニングシューズという可愛らしい姿だった。藤代の姿が見えなかった。「竹花さん、お疲れ様です。藤代さんはどうしたのですか。」思わず問いかける。走った後のまま、まだ呼吸が整っていない様子の光が答える。「藤代さんはランニングはしないのでいません。私は社会人サークルの人達と一緒です。」同じサークルの人が私を見つめる。男女比は半々で年齢層は幅広かった。「麻生さんはこれから用事がありますか。もしよろしければこれから皆と飲みに行きませんか?」一人酒よりも楽しそうだったので笑顔で応じる。光が私をサークルのメンバーに紹介する。最初は堅苦しかったが同じランニングが趣味のことも有り気がついたら打ち解けていた。ビールを片手に餃子を平らげていく。下戸の私では信じられないペースで光はジョッキを次々と鯨飲とも言えるペースで空けていく。心配になるほどだ。そんな私の心配を尻目に光は私との図書館での争いを紹介する。図書館あるあるの話で場が湧く。光は周りの人を惹きつけていた。いるだけでその場を明るくする。私も久しぶりに心の底から笑う。明日から皆は仕事なので22時には宴は閉じられた。光はサークルのメンバーと一緒に私に向かって嬉しそうに手を振り「またね」と告げる。


 久しぶりに楽しい時間を過ごし寝るのがもったいなかった。本を音読していく。川の近くのアパートの部屋からは水のにおいがした。月が水面を照らす。風が水面に映る月の形を変えていく。ゆらり。ゆらり。その運動をゆっくりと飽きること無く眺めていた。気がついたら時計が2時を回っていた。ベッドに飛び込む。興奮していたが睡眠に至るまでは長い時間はかからなかった。連休明けの早朝に図書館に行く。光はいつものように本を大量に持っていた。「おはようございます」二人で思わず同時に言った瞬間、くすりと笑う。本は私達にとってはクジラの歌のようだった。コミュニケーションで使われるまだ謎が解明されていない歌。歌の音色はホイッスルのような高音域から低いうなり声の低音域まであり2~9種類の主題とメロディーで短い時で数分、長いときは1時間以上も歌われる。どこか神秘的な歌。私の歌は光には届いているのだろうか。ライバルではなく友としての歌。光にも届いて欲しい。それまで私は、はぐれたクジラの歌を歌い続ける。FIN.


今回の話は昔TV番組で見たクジラの歌から連想した話です。

はぐれた「52」というクジラの話がせつないです。

麻生は、はぐれた孤独のクジラではない。

お互いまだ恋心には至っていませんが良きパートナーとして過ごしてほしいです。


BGM:J-wave GROOVE LINE Z

2017/7/25

長谷川真美


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