タベテ
食べる事、命を頂く事、
殺すこと、殺して一方的に奪って、糧にすること。
人は何かを食べて生きている。
命あったものを、すくすくと育ったものを。
肉、魚、果物、野菜を。
誰かが食事する姿はどうしてか心臓が大きく鼓動する。
ナイフを使って、フォークを使って、スプーンを使って、箸を使って、あるいは手も使って。
このとき、不謹慎な考えが生まれる。
もしお皿の上にあるものが、人の肉塊だったなら、あんなにも美味しそうに、笑顔で食事ができるのだろうか?
そして、ある考えが浮かんできた。
たくさんの美味しいもので出来上がっている人の体は、どんな味がするのか。と。
そして、その思考は自分に向く。他人ではなく、自分に。
私が美味しいか知りたい。
だれか、私を食べてくれる人を探さなければ。
時間はかかったけれど見つける事ができた。
連絡を取って、指定された古びたビルの一室に向かう。
不思議な匂いのする部屋には、たくさんのホルマリン漬けがあり、その中には人の目玉が保管されていて、それを見る男性が「どうぞ。」と部屋に入ることを許可する。
「…私は、美味しそうですか?」
部屋に入る前に私は質問をする。
そして男性が答える。
「とても、おいしそうだよ。」
こっちへおいで、と手招きされて部屋の中へ。
そして、強めの局部麻酔をかけられる。
片腕の感覚がなくなっていく、そして赤黒く染まった台の上に手を乗せると
「いただきます」と男性は手を合わせる。
そして、小指を勢いよく切断する。
断片から鮮血がダラダラと流れる。
切断された小指は小皿の上に乗せられ、丁寧に骨を抜かれてただの肉となった。
「いただきます」切断された小指はさらに一口大に切り分けられ、その一つが男性の口の中に運ばれていった。
その姿を見た私の心臓は激しく動き出す。
そして、一番聞きたかった事をきく。
「私は、美味しいですか?」
しばらく私の肉を味わった後男性は笑顔で答える。
「とってもおいしいよ。とっても。
出来ることならもっと食べたい、あなたの体をもっと味わいたい…」
あぁ、よかった。
私を食べて笑顔になってくれる人がいる。
嬉しい…おいしいと言ってくれてよかった。
私がおいしくてよかった。
一筋の涙を流し、私は糧となることを選んだ。
「私を、食べて。」