最後の時の約束を君と
目を覚ました。空には黒煙が上がり雨が降っていた。その雨が俺の頬を流れる。
「そうか・・・俺・・・死ぬのか」
地面によこたわる俺は、悟ったように言った。
それから少しして、俺の目からは、涙が流れた。泣きながら俺は言った。
「加奈・・・ごめん・・・・約束・・・守れそうに・・・・ない」
遠のく意識の中、言った言葉は、恋人加奈への謝罪だった。
加奈とは町の酒場で出会った。初めは、客と従業員の関係だった。
何度か店に通い話しているうちに、仲良くなり互いの家にも行くようになった。
そんなある日だった。国から出兵命令が出たのは、俺の国では、隣国との争いが絶えなかった。
そのため俺のような若者は、いつか出兵命令がくるとは思っていた。
しかし俺は、拳を握り言った。
「どうして・・・今なんだ」
このころ俺は、加奈と一緒に暮らしていた。これから幸せな日々を、送ろうとしていた。
俺は出兵命令を無視は、できない、もし無視をすれば牢にぶち込まれ、加奈にも被害が出るかもしれない。
それに出兵しても、生きて帰ってこれるかはわからない。
先日、出動した部隊は、一人も、生きて帰ってこなかったという。
俺は、このことを、加奈に話すことにした。
加奈は、話を聞いた直後、涙を流し部屋を出て言った。
「そうか・・・まぁ・・そうだよな・・・死ぬかもしれな男のところには・・いれない・・よな」
そう言いながらも、俺は涙を流し言った。
「今のが最後なら・・・・加奈の笑顔が見たかった」
俺は一人になった。でもこれでよかった。
俺が死んで悲しむ人がいるのは、辛いから。
それに加奈には、笑って生きてほしい。
俺は、出兵命令に応じた。
それから何日か、加奈は、帰ってこなかった。俺も心当たりを探したが、見つからなかった。
そして俺の出動が、翌日に迫った日、俺は、加奈と出会った酒場にいた。
そこで最後になるかもしれない、酒を飲んでいた。
その日は、飲んでも飲んでも酔うことはなかった。
帰り道、真っ暗な空を見て思った。加奈は元気だろうか、笑って生きてるだろうか。
加奈のことを考えると、涙が流れた。
そんな時だった。後ろから俺を呼ぶ声がした。
俺は、声のする方に目をやった。そこには加奈がいた。
「加奈・・・なんで・・・ここに」
俺は夢かと思い頬をつねった。痛みを感じた。
しばらくして加奈が言った。
「私・・あなたが死ぬかもって思ったら・・辛くて・・逃げて・・
でも・・あなたのことが忘れられなくて・・・・だから・・戻ってきた・・
あなたに・・・会いたかったから」
「加奈・・・・」
加奈の言葉に俺は、涙を流さずにはいれなかった。
涙を流し膝を着く俺に、加奈は言った。
「だから・・私、待ってる・・・あなたが生きて帰ってくるのを」
俺は顔を上げ震えた声で言った。
「でも・・俺は・・死ぬかもしれない・・その時、加奈を一人悲しませることになる・・
そんなことはできない・・加奈には笑って・・生きてほしいから」
俺は嘘を吐いた。本当は、嬉しかった。俺を待っていてくれるのかと。
でも加奈を、一人にしてしまうかもしれない、人生を悲しみに染めてしまうかもしれない。
だから加奈には、ほかの誰かと幸せになってほしい。
そう思った俺が吐いた嘘の言葉を、消すかのように加奈が言った。
「あなたは死なない・・・だって・・私が好きになったあなたは、弱音を吐かない強い人・・
それに私との約束を、絶対破らないそんな人だから」
「でも・・・」
俺が弱音を吐こうとした時、遮るように加奈が言った。
「だから・・約束して・・戦いから生きて帰って・・私と最後の時まで・・一緒にいると」
「・・・加奈・・・加奈は強いね」
加奈は、涙を流しながらほほ笑んで言った。
「当然・・だって・・私の好きになったあなたは・・・命を懸けて戦いに行くのに・・
私が弱音を、言うわけにはいかないから」
俺は少したって、言った。
「・・加奈・・わかった・・俺も約束・・必ず生きて帰って、加奈と結婚して
最後の時まで一緒にいる」
加奈は、嬉しそうに涙を流し、言った。
「約束・・だからね」
「あぁー約束だ・・」
加奈と俺は、家に戻った。加奈は疲れたのか、すぐに寝てしまった。
加奈の寝顔を見ながら、俺は言った。
「加奈・・必ず生きて帰るから・・加奈と最後の時まで、笑って過ごすために」
加奈の寝顔がほほ笑んでるように見えた。
そして時は戻る。
俺は、遠のく意識の中、涙を流して言った。
「加奈・・ごめん・・出会ってから初めて・・加奈との・・約束を破りそうだ・・
ごめん。でももし・・叶うなら・・加奈と最後の時を過ごしたかった」
体が冷えてくのがわかる。
俺は願った。
(加奈が素敵な人と出会って、また恋をして、その時にはこの争いも終わって、
加奈が笑顔で過ごせますように)
そしてかすかな声で言った。
「加奈・・約束破ってごめん・・最後の時まで・・一緒には過ごせないけど・・俺は
加奈と恋ができて・・よかった。あり・・が・・とう・・さよう・・なら・・」
俺は死んだ。しばらくして加奈にも、俺が死んだことは知らされた。加奈は三日三晩泣いた。
そして加奈は、自ら命を絶とうと決心した。
加奈が命を絶とうと、決心した日。俺の友人が家を訪ねた。友人は加奈に一言言って。
手紙を渡した。
「あいつがもし死んだときに加奈ちゃんに渡すよう頼まれた」
加奈は、すぐに手紙を開けて読んだ。読んでいくうちに、加奈は涙があふれた。
手紙にはこう書かれていた。
『加奈へ
この手紙が加奈に届いてる頃には、俺は死んでると思う。
ごめん、加奈との約束初めて破るは、俺は帰れそうにないから。
これからもっと、加奈といろんなとこに行って、加奈のご飯食べて、
うまいって言って、加奈の笑顔をいっぱい見る予定だったのにな。
悔いがありすぎて死んでも死にきれないかな。
加奈、加奈は俺が帰ってこなくて泣いているだろうか、
死にたいと思ってないだろうか。でも生きてください。
加奈はきっと俺の後を追って、死にたいと思うはず、でも来るな。
加奈には、これから、俺の生きられなかった分まで人生を楽しんで
ください。勝手なお願いだとはわかってる。
だから俺のことは忘れてください。忘れられるのは悲しいけど
加奈が笑ってくれればそれでいい。
俺はもう、加奈を近くで守ることはできないけど、遠くから
見守っています。
最後に加奈の笑顔が見れなくて残念だ。
愛してくれてありがとうそろそろ逝くよ。もし加奈が忘れられないなら
先に逝って待ってる。だから加奈は長い寄り道をしてくるんだよ。
俺がそこで待ってるから。いつか会える日まで。
ありがとう加奈。さようなら。
俺より』
加奈は涙を流しながら言った。
「私は死なない、あなたは、私の思い出の中で、生きてるから。
またいつか会える日まで、さようなら」
それから60年。月日は過ぎ加奈は最後の時を迎えた。
加奈は天井を観ながら言った。
「やっと・・会える・・長く寄り道をしてしまった。今ようやくあなたの
もとに逝けそうです。あなたは・・約束を守ってくれてるでしょうか・・
私も・・ようやく約束が果たせる・・やっと・・・」
加奈は息を引き取った。最後、加奈はほほ笑んでいるように見えた。
「長い間お待たせしましたね、あなた・・・おかえりなさい」
「あぁーただいま・・加奈」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
主人公と加奈の約束が果たされたかはご想像にお任せします。
初めての作品なので誤字脱字があったらすいません。
これからもいろんなジャンルの小説を書きたいと思っています。
応援よろしくお願いします。