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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

繰り返しの繰り返し

作者: 葉月

話を聞いてくれるかい?

僕の大事な祐奈(ゆうな)

君と結婚をしてから三日。

本当は付き合っている時に話したかったのだけれど……。

中々話す機会が無くてね。

君からしたら、少し嫌な話になってしまうかもしれない。

僕は三十歳。

君は二十五歳。

五歳も年が離れてるよね。

別にそれについては何にも問題ないんだけれど。

実は僕は、君と付き合う前……つまり五年前はすでに結婚していたんだ。

まぁまぁ、そう不満な顔をしないでくれよ。

今は君が一番大好きなんだから。

それでね……前の妻の名前は、(みさき)と言う名前なんだよ。

岬は君とは全く正反対でね、大人しくてクールで食べてしまいたいほど可愛いんだよ。

いやいや君の方が可愛いよ?

本当だよ。

後でカステラ買ってあげるからさ。

あ、でね?

話を戻すね。

僕は岬に惚れて告白したんだ。

以外とOKを出してくれてすごく驚いたんだ。

それで、仲良く付き合ったんだ。

その時、僕は十九歳だったんだ。

岬も同い年でね、どこで知り合ったかはもう忘れてしまったけれど、本当に偶然的に僕が岬を見て一目惚れをしてしまっただけなんだ。

そして、一年ちょっと過ぎ……僕と岬は結婚をした。

その時は結婚式はあげなかったな。

まだお互い就職したばかりだったから、お金が少なかったんだよ。

あ、今はそんな事ないし君と結婚式あげたでしょ?

最初は、お互い仲良く過ごせた。

でも次第に岬の傲慢さや、浪費癖が見えてきた。

僕も結婚したばかりは、いくつか買っていたよ。

しばらくして、岬は仕事をやめて家に呑気に過ごすようになった。

そのおかげで、クレジットカードの返済と家賃と生活費は全て僕の元に来たんだ。

岬は、ツヤツヤと健康的になり体も細さを無くしてプクプクと今にも張り裂けそうなほど大きな体つきになった。

それと反比例するように僕はどんどん痩せていった。

ずっと話してたから、喉が渇いたよ……。

ん?

ありがとう。

たまにはジュースもいいね。



さて、喉も潤ったしもう少し話を続けるね。

大丈夫?

飽きてない?

それならよかった。

この話は聞いてもらわないと困るからね。

どこまでいったかな?

……あぁ、そうそう。

ここから少し気分の悪い話になるかもだけれど、岬は子供が欲しかった。

だから、毎晩飽きもせず僕の元へと近づき搾取するだけすると岬は寝てしまう。

そもそも、僕にとって家畜以下になってしまった岬を欲する気も全く起きなかったし、何より僕には休みが必要だった。

体も、精神も休めなくちゃいけなかった。

自分で言うのもあれかもしれないけれど、もう少し休みなく動いていたら僕は過労で倒れていたかもしれない。

この辛さがなくなってしまうのなら死んでもよかったのだけれど……、僕は許せなかったんだ。

僕から金も、休みも、心も、欲望も、全て奪い一人で全てを満たしている岬が許せなかった。

だから……。

仕事から帰ったある日、僕は彼女に離婚届よ用紙を渡した。

それを見た瞬間、岬はヒステリックに喚き、痩せ細り、力の出ない僕を罵り、物を投げてひたすらに自分を正当化したあげくのはて、離婚届を破り捨てるとゲヒャヒャヒャと品の無い、気持ち悪い声で笑ったんだ。

包丁を僕の目の前にちらつかされた時は本当に死ぬかと思ったよ。

そんな心配そうな顔しないでよ。

大丈夫、もう昔の話だもん。

気にする事でもないから。

そんな日が何日も続いて、僕は壊れ始めてたね。

夜も寝ることが出来ず、何も集中することが出来なかった。

仕事場では、同僚も部長も僕の変化に驚いて仕事を休めと何度も言われたよ。

でも、休んだらどうせ搾取されるだけだし休みにならない。

え?

子供?

ううん。

岬は生むことのできない体質だったのか、いつまでたっても子供はできなかったよ。

そして、ある日僕は思い立ったんだ。

夜、いつものようにいつもの事を終えて隣でいびきをかいて寝ている岬の元を離れた。

壊れかけてても、その時だけは頭がスッキリとしていて、心地よかったよ。

そして、もう一度岬の隣に座る。

かつての可愛さ、優しさ、クールさ、走馬灯のように頭に流れる。

それでもすぐに流れてくるのは、岬の浪費癖、傲慢さ、貪欲さ、それで頭が埋れた。

朝日がカーテンの隙間から零れるころ、僕の隣で岬は死んでいた。

どうやって殺したのか、なんで死んでしまったのか正直に言ってわからない。

しかし、岬の首に緩く巻かれている黒ずんだロープ。

アザのようなロープの後がついた首。

恐らく僕が殺したんだろう。

頭でどうするか考えるよりも先に体が動いていた。

岬をバラバラにして、黒いビニールに包む。

腕やお腹周りには内臓脂肪と見られる脂にまみれた汚い物がベットに落ちる。

汚れた布団カバーも全て黒いビニールに入れると僕はアパートを出た。

ゴミ捨ての業者さんがゴミを投げ入れていた。

ゴミ捨ての業者の人に黒いビニールを渡すと、中身を疑う事なく、投げ入れた。

岬は、潰されて燃やされるんだろう。

二日たった朝に警察に疾走届けを出し、言い訳を言って、あの場所から逃げてこの町に来たんだ。

ねぇ。

僕は同じことはもう繰り返したくないんだ。

君の事を……祐奈を愛してる。

祐奈は、すごく可愛い。

優しい。

しっかりしてる。

それでも、僕は不安で。

君をアイシテルから、同じことをクリカエシたくないから。

ーーー僕は






「今日も事情聴取ですか?」


「お前は、今日が初だろ」


松本(まつもと)は、肩をすくめる。

俺もため息をついた。


「現行犯だったんですけどねぇ」


「ほんと。

たまたま、用事があって、たまたま、警察でって、逆にこえぇよ」


「ですよねぇ」


事情聴取のために、取調室に二人で足を揃えて歩いている。

今回の犯人ーー手代木俊哉(てしろぎしゅんや)は、警察が部屋に入ったところ、手代木の妻である手代木祐奈を殺害したらしい。

前回の事情調査で、行方知れずだった前妻の手代木岬の件について、十分すぎるほど理解できたが、今回の事件については全く理解できない。

殺害動機も特に無し。

むしろ、慎重に付き合ったあげくの結婚だから成功しているはずだが……。

それとも、死体に恋でもしているのか?

いや、そうしたらアレはしないだろう。

正直言って、今回の事件は死体を見慣れている警察でも来るものがある。

何人その死体を見て、戻した事か。

取調室の重たい扉をあけ、椅子に座っている手代木を見る。

相変わらず、同じ言葉をつぶやき続けている。


「聞いてくれるかい僕の大事な祐奈君と結婚をしてから三日ほんとうはつきあっているときにはなしたかったのだけれどなかなかはなすきかいがなくてね」


「コレをずっと呟いているんですか……?」


松本は、何か恐ろしい物を見るような目で手代木を見る。

俺は何も言うことなく、手代木の目の前の椅子に腰をかける。

また、答えの得られない質問を始めるんだな、と思うと頭が痛くなる。

焦点の定まらない手代木の目を見る。


「なぜ、妻である手代木祐奈を殺した」


「どうやってころしたのかなんでしんでしまったのかしょうじきいってわからない」


「……聞いてるのか」


少しトーンを低めに苛立ちを隠さずに言うと、手代木は見えない妻に話しかけるのをやめ俺と目を合わせた。

生気が感じられるない目はまるで、死体に睨まれているようで、背筋にゾクリと冷たさが走る。


「……よ」


「…?」


「んふっ…ふひ…ふひゃははぁはは!!」


室内に手代木の笑い声が響く。


「あはっ…ははっは!

ゆうなゆうな、ヒトゴロシあつかいされるのはつらかったけれど、きみのなきがおをみるのはかなしかったけど、くりかっひゃははははっ!

くりかえしたくなかったんだゆうな。

きみのちはてつのあじとゆうなのあじがしたよ

きみのにくはあいつとちがってひきしまってたよ

きみのぞうもつはそれはそれはちいさくてかわいくてすぐのみこんでしまった

きみののうみそはぜっぴんだよそうきっとせかいでいちばんおいしいんだぼくのおなかにきみはいきているぼくのからだはきみのちとにくでできているぼくののうみそにはきみがいるんだあぁかわいいかわいいかわいいぼくのゆうなしょうがないよねぶたになるまえのにんぎょでいてほしかったんだよきみにはきみだけにはきみだからこそふひっひゃはっふ」


息継ぎもなく、ひたすら叫んだあと手代木はその場に倒れて。

間も無く冷たくなった。





数年立ち、人々は手代木の事を忘れた後でも俺は頭の片隅にいつも手代木の言葉が残っていた。

俺は目の前に転がってる血にまみれた男と片手に握った包丁を交互にみた。

警察……のくせして殺してしまうとはな。

とりあえず、解体してどこかに埋めようと男の首元にナイフを当てた時、頭にある言葉が掠めた。

首元からナイフを離し、薄い皮膚と硬い骨で囲われている頭にナイフを突き刺し、一心不乱に目当ての物を探る。

しばらくして、目当ての物の一欠片を左手に掴んだ。

テラテラと血で光り、とても柔らかい。

一欠片口に含ませると、グチャリグチャリと汚い音を立てて弾力のある物を噛んだ。

それを飲み込むと、俺は再びナイフを振りかざした。

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