Place of the disappearance(消滅の場所)
消したがり
前に書いた記憶抹消屋の話の第二弾です。
バーンというものすごい音と同時に1人の女性が入ってきた。
「いらっしゃいま・・おや、高橋さん。本日も何かありましたか?」
高橋と呼ばれた女性は顔に怒りマークがありそうなほど怒りをあらわにして言った。
「ええ!もう、なんなの、あの子!ふざけんっなーーー!」
「た、高橋さん、落ち着いてください。と、とりあえず、奥へどうぞ。(あいかわらず、この人の扱いには困る・・・。)」
女性の剣幕に圧倒された店員はたじろぎながら、女性を奥の部屋へ行くよう促した。
―――――
女性は奥の部屋に着くないなや語り出した。
「ホンッッットなんなの!あの子!年下な癖してこの私に注意なんてふざけてる!私がちょっと間違えただけであんなに言いやがって!私だって人間なんだから、ミスくらいするわよ!普通そういうのってこっそり伝えるものでしょうが!私に恥かかせようとわざとみんなの前で言って!あーもう!イライラする!」
「えっ・・と、つ、つまり年下の部下に間違えを公衆の面前で指摘されてイライラするので消したい、ということでしょうか?」
店員は高橋に怒濤の勢いでまくし立てられておののきながらも状況を整理した。
「ええ!そうよ!早く消して!もう何度もやってるから余計な説明はいらないし。」
「わ、わかりました。一応サインはお願いします。」
高橋はササッとサインをし、目をつぶった。
「それでは失礼します。」
店員はそういい高橋の額に手を当てた。
「終わりました。」
すると高橋はスッキリした顔で
「ありがとう、また消してくれたのね。」
と言った。
「はい、お金。いつものように受け取り拒否はなしだからね。」
高橋はドサッとお金の束を机に置き、店から出ようとドアへ向かった。店員は内心―あんまり言いたくないけど―などと思いつつ言った。
「またのご来店お待ちしております。」
「えぇ。」
高橋は軽く返事をし、店を出た。
「またあの客か。」
奥から声がした。
「ヤナ、お前、どこにいたんだよ。」
「裏だよ裏。」
ヤナは自分の後ろを指した。
「あの客、今回で何回目だ?」
「さぁな、俺もわかんねぇ。あの人しょっちゅう来るから・・。もう何回消したのか覚えてられねぇーわ。」
「ある意味すげーよな。普通、1回、多くても2回までの奴が多いのにな。」
「俺もいい加減、面倒くさくなってきたよ・・。いくらデータが欲しいからってあの人はデータにならねぇからなー。ただ毎回これだけ払われるとね・・やるしかねぇし・・さ・・。」
「確かにな。ま、がんばれ~。」
「うぜー。」
「でもよー。オレはPlace of the disappearance 担当じゃねぇーし。手伝いたくても無理なんだよ。」
「そりゃあそうだけど・・・まあ、そのうち止めんだろ。」
「だろうな。」
――次の日――
ここは高橋の出勤している会社。高橋に話しかけようとしている人がいた。
「春風?どうしたんだ?」
いつまでも話しかけない彼女に男性が声をかけた。
「宮澤部長。えっと、その、先日、高橋課長のことを怒らせてしまって・・」
「話しかけにくいと言うことだね。」
「はい・・・・。」
言いづらそうにする春風に宮澤は確認を取った。
「なら、大丈夫だよ。」
「えっと、それはどういった意味でしょうか?」
「なーんにも気にしないで話しかけてごらん。怒られたり睨まれたり絶対されないから。」
「そ、そうなんですか?」
「うん。騙されたと思って話しかけてみなって。絶対大丈夫だから、さ。」
「は、はぁ・・。わ、わかりました。」
春風は高橋の所まで行き、思い切って話しかけた。
「あ、あの、高橋課長。佐藤部長からこの案件をお願いしたいとのことです。」
「ああ、ありがとう、そこ置いてといて。」
あまりにあっさりした返事に昨日高橋を怒らせてしまった春風は驚いた。
「あの、先日は失礼しました!」
驚きのあまり、春風は余計な言葉を口走ってしまった。慌てて春風は自分の口を手でおさえたが、時すでに遅しだった。
「先日?何かミスでもしたの?ごめんね、覚えてないや。」
髙橋はそれだけ言うと、席をたって行ってしまった。春風は自分の予想していた言葉と全く違う返しにこれまた驚き、呆然と立ち尽くしてしまった。立ち尽くしてる春風の元に宮澤が寄ってきた。
「な?言った通りだろ?」
「あの、これってどういうことなんですか?」
「忘れてんだよ。」
「忘れる?」
「ああ。お前もPlace of the disappearanceって名前くらいきいたことあるだろ?」
「プレイスオブ、ディサピアレンツ?ですか?」
「あれ?知らない?直訳すると『消滅の場所』、日本語的に言うと『記憶抹消屋』だよ。」
「え!?記憶って本当に消せるんですか!?てっきり都市伝説かと思っていました。」
春風の純粋な言葉をきいて思わず宮澤は笑ってしまった。
「都市伝説かー。純だねー。でも本当に消せるんだよ。で、髙橋は気に入らない事があったらすぐに記憶を消しちまうんだよ。覚えてないから怒られないんだよ。」
「そうなんですか!?」
春風は信じられないというような顔をしていた。その顔を見た宮澤は再び笑った。だが、すぐに真顔になった。そして淡々と語った。
「だから、この部署の人間は高橋のことを信用してない。誰も仕事を振らないし、相談もしない。注意しても意味がない。」
そこまで言うと宮澤は笑顔に戻り、明るいトーンで
「全部忘れるからね。」
と言った。
「今度からは高橋以外の人に相談するといいよ。企画とかは直接俺にあげてくれていいから。」
「えっ!で、ですがさすがにそれは・・」
「いいから・・ね。」
それはできないと言おうとした春風に宮澤はニッコリ微笑んで言った。
「わ、わかりました。」
その宮澤の微笑みは有無を言わせないオーラがあり、春風は断れなかった。
――――――
高橋が記憶を消してから何日かたったある日、再び高橋は店を訪れていた。
「なーんか最近同じ部署の人たちに避けられてる気がするのよねーー。他の部署の人たちはそうでもないんだけど・・・。どうしてだと思う?」
―今頃気づいたのか!?―と店員は思ったが、よく考えると―消してるからって避けられるとは限んないよな。―と思い直した。
「さ、さあ・・?私にはわかりません。」
店員は理由を察していたが、あえて言わなかった。
「うーん、どうすればいいのかしら?」
「消さなきゃいいんだよ。」
唐突に第三者の声がした。
「ヤナ!お前!」
「誰かしら?」
「あの、えっと、それは・・。」
高橋に説明を求められた店員はたじろいだ。するとヤナと呼ばれた男はスッと前に出ておじぎをした。
「初めて、私は柳田と申します。こちらの裏でアクセサリーの販売及び製造をしている者です。」
「そうなの。それで『消さなきゃいい』ってどういう意味なの?」
高橋は単刀直入にきいた。
「消しているから、信用をなくし誰も近づかない。いくら注意をしても文句を言っても、忘れられるなら骨折り損。消す記憶が注意や文句の部分だけならまだいいが、一緒に仕事まで忘れられたら最悪。だから、信用されない、そういう理由」
「そ、そういうものなの!?」
「ああ。」
戸惑いながらたずねた高橋に柳田は即答した。
「じゃ、じゃあ消さないようにすれば避けられなくなるってこと?」
「それだけじゃ無理だろ。な、影山。」
「・・・・。」
柳田にきかれた店員もとい影山は何も言わなかった。―あくまでも傍観者を貫き通すわけか―とそんなことを思った柳田だった。
「どうすればいいの?」
「それはだな・・」
柳田が答えを言おうとしたが、影山に口を塞がれてしまった。
「それは高橋さん、あなたが考えなければいけないことです。・・・申しわけありませんが、今日は帰っていただけますか?」
影山は強い口調で言った。
「え、で、でも・・」
高橋は渋ったが、
「お願いします」
影山に再度言われてしまった。その言葉は敬語を使っていたが、『とっとと帰れ!!』と言っているような気迫だった。
「わ、わかったわ。」
そう言って高橋は店を出ていった。静かになった店で先に発言したのは柳田の方だった。
「なんで、教えてやらなかったんだ?」
「お前こそなんで言うんだよ!」
「だってお前、もうめんどくせーって言ってたじゃねぇーかよ!」
「ああ、言ったけどよ、正解を言っちまったら意味ねぇんだよ!俺はこの記憶抹消は人間について知りてーからやってんだ。俺がやるのはあくまで記憶消去だけ。それ以上は手を出さないのが俺のポリシーなんだよ!記憶を消すことでその人間がどんなことをするかを知るのが生きがいなのに、アドバイスしてどうすんだ!」
「わ、悪かった。お前がそこまで仕事に熱心だとは思わなかったんだ。ホント、ごめん。」
口を挟む余裕もないほど影山にまくし立てられ、柳田は本気で謝った。
「わかったならいい。」
「ホント、悪かったな。」
「もういいよ。さてあの人は今後どうなるだか。」
「とりあえず、もうここには来ないだろうな。」
「ま、そうだろうな。今後の展開が見れねぇーのは残念だけどな。」
「結局、そこに行くんだな。」
「それが俺の生きがいつったろ?」
「すみませーん。」
ちょうどその時奥から声がした。
「ヤナ、お前の店に客だぞ。」
「分かってる。じゃ、また後でな。」
これまたノリとテンションと勢いだけで書きました。多分読みづらかったと思います。