ターニングポイント
「それでは、これにて新歓二日目の全日程を終了します! 決勝戦チーム・バーチャルスターVSチーム・ブローウィングは明日――神都カナンの国立装騎中央公園にて行われます! みんな、来てくださいね!」
司会の人がそう告げると、観客たちがぞろぞろと帰る準備を始める。
みんな準決勝の試合の内容の話で盛り上がりながら、思い思いの帰路に着く。
「あれ――アマレロちゃん……?」
「おおっ! アマレロちゃん!!」
「あ、シーニィ先輩にロート先輩――!」
そんな人混みの中に、居たのはシーニィ先輩とロート先輩――そしてロート先輩に担がれたミドリコ先輩の三人。
これから帰ろうとしている二人とばったり鉢合わせしてしまったのだ。
「もしかして、もしかしてアマレロちゃんさっきの試合――見てた!?」
ロート先輩の言葉にわたしは――――
「はいっ、見てました、Bブロック――――!!!」
思わずそう答えてしまった。
その言葉はすごく自然にわたしの中からあふれ出てくる。
不思議な感覚――――誰かと話がしたい、誰かと共有したい、胸が高鳴る。
「Bブロック――!! 凄かったなぁ、限界駆動!!!」
「クリティカル・ドライブ――――ってあの装騎の体が蒼白く輝くあの?」
「そうです。装騎乗りの間ではある種の都市伝説となっていた、装騎の力を最大限まで引き出した時になると言われるモードです」
装騎の原動力は人の意思力や魔力――霊力と電力を結合させ、魔電霊子と言う特殊な力を生み出すことで、少量の電力で無限に近いエネルギーを取り出すことができるアズルリアクター。
しかし、機甲装騎は一度に蓄えられ、行使できるエネルギー量が少なく、使用した後に新たなエネルギーを作り出し、補給すると言う方式を取っている。
その為、魔電霊子武器等(例えば今の試合でスパローが見せたエネルギーソードとかのことだ)の一度に大幅なエネルギーを使用する武器を使った場合、数秒だがエネルギーを作り出す時間がかかり連射などが不可能。
だが、そんなアズル・リアクターを限界ギリギリまで酷使し、使用したエネルギーをほぼ一瞬で回復することが可能となる事が稀にある。
それは、例えば騎使が死を間近にした時だったり、最高潮の精神の昂ぶりを見せた時だったり、異常な集中力を見せた時だったりに発動すると言われている。
その状態こそ――――限界駆動、クリティカル・ドライブである――――――と言うのがシーニィ先輩の説明だったのだが、正直よくわからなかった。
「まぁ、クリティカル・ドライブがすごいことっていうのが伝わればいいですよ」
「確かに、すごかったです――――見てるだけでもそれがヒシヒシと伝わってきて――――でも、クリティカル・ドライブを抜きにしてもあの二騎の装騎、すごかったです」
「あの二人ってまだ一年だしなー。アマレロちゃんと同期だな」
「そうですよね……わたしも――あんな風に戦えたり、しないかな…………」
「それは――――」
「できる! できるよ!! アマレロちゃんならできる!!!!」
「そ、そうですかね――?」
「ああ! だってアタシ、アマレロちゃんを最初に見た時からこの子は絶対に装騎バトルの才能があるって思ってたんだよ!」
そういうロート先輩は本気の目をしていて、その傍に居るシーニィ先輩はロート先輩の姿に苦笑してはいたけど、こう言った。
「あの二人みたいに――――と、言うのは今すぐには無理かもしれません。ですが、あくまで今すぐには――――です」
「今すぐには――――」
「はい、アマレロちゃんが今感じている思いが本物で、その思いを忘れなければいつか必ず、あの二人のように――――いえ、もしかしたら超えることができるかも知れません」
「超えるとはでっかく出たなぁ!!」
「私は、アマレロちゃんの今の思いが本物だと思っています。そして、本物の想いは何れ巨大な花を咲かせるんですよ。アマレロちゃんが咲かせる花はきっと大きく美しい――――そう思うんです」
「モッチーがそんな真面目にお世辞を言うなんて珍しいなぁ」
「お世辞じゃないですよ――それとも、ロート先輩こそお世辞だったんですか?」
「んな訳ねーって!!」
先輩たちの言葉にわたしは少し戸惑う。
だが、それと同時に嬉しくも思う。
もしも、今までのわたしだと、こんなことを言われたら、逆に怖気づいてしまっていたかもしれない。
今でも、先輩たちの言葉に対しての懐疑と不安もある――――だけど――――――――
「花を咲かせるかどうかはアマレロちゃん――アナタ次第です」
「ああ、アタシたちと装騎バトル――――しようぜ!!」
「わたしは――――」
わたしは決めたんだ。
今までのわたしから、新しいわたしになるって。
そして、さっき見た二人の戦いみたいに――本気で、全力で、自分の人生にぶつかるんだ。
きっと、今がわたしのこれからを決める重要な分岐点。
だから――――
「装騎部に――――入部します!」
わたしがそう言った瞬間――先輩方の表情がパッと明るくなる。
普段はクールなシーニィ先輩も、目に見えて嬉しそうなので、なんだかわたしが照れくさくなってしまう。
「本当ですね――――?」
「一度そう言っちまったらもう逃がさねーからな!」
「はい! 是非、ご指導お願いします!!」
「やったぜ!!! ブーシュも聞いたよな!? アマレロちゃんが第七装騎部に入ってくれるって!」
「うぇる、かむ――――ぅ」
わたしは、三人の先輩たちに迎えられ第七装騎部へ入部することになった。
これからわたしは変わることができるだろうか――――この、第七装騎部で。
「入部するんだったら、とりあえずあだ名考えねーとな!」
「そうですね――アマレロちゃんに似合うかわいいニックネームがいいです」
「――――あ」
入部して早々、変なニックネームが付けられないかと不安が過ったけど――――もう、仕方ないよね……。