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第七装騎部のクラブ勧誘会

5月3日日曜日。

休日にも限らず慌ただしく準備をする先輩達の物音で私は目を覚ました。

「お、おはようポップ!」

「おはようございますポップちゃん」

そう挨拶をするモナカ先輩とモッチー先輩の手には大量のチラシが握られている。

そのチラシに書かれているのは、第七装騎部への勧誘広告。

「そっか、今日は……クラブ勧誘会の日でしたね」

そう、今日はステラソフィア女学園に存在するあらゆるクラブにとって新入生をゲットするための大切な日――クラブ勧誘会の日だった。

モナカ先輩やモッチー先輩も新入部員獲得のために勧誘チラシを作り、色々と準備をしていたのだ。

「特に装騎部は、普通装騎部だけで22個ありますからね……上手く勧誘しないとすぐに違う装騎部に持って行かれかねません」

「新入生は最初に勧誘された部活にズルズルと入ってしまう確率も高い――つまり、スピード勝負ってことだな」

「そうですね……」

そんな話をしながら何やら作戦を練っているモナカ先輩とモッチー先輩。

「クラブ勧誘会って何時からでしたっけ……?」

「9時から開始しても良いそうです。やはり、遅れを取らないように9時には勧誘をはじめられるようにしておきたいですね」

「9時――私も行っても良いですか?」

「お、ポップも来るか! 良いぜ、一緒に新入部員をゲットしようぜ!!」

「そうですね。同じ一年生がいる方が気も楽になると思いますし」

と言うことで私はモナカ先輩、モッチー先輩と一緒にクラブ勧誘会に参加することになった。

場所はステラソフィア機甲科にある装騎グラウンド。

クラブ勧誘会が始まり、それぞれの部活が新入生獲得のために動き出す。

「第七装騎部、よろしくだぜー!」

「だ、第七装騎部ですっ! えっと、あの……」

長机の前に立ちながら勧誘をする私達。

その後ろで腕を組みながら会長先輩が呟く。

「一向に人が来る気配がないわね……」

事実、なかなか第七装騎部の話を聞いてくれそうな人がおらず、先ほどからチラシもろくに受け取ってもらえていない。

「アー、もうサッパリだぜぃ……」

「これだけ装騎部が多いと、興味を引くだけでも精一杯ですよ」

歩き回りながら新入生を探していたジーナ先輩とモッチー先輩の言葉からも手応えはあまり感じられない。

「でも、本当にいろんな装騎部があるんですね……」

グラウンドを見回しながら私は呟く。

それもそうだ。

今回、このグラウンドで勧誘活動をしている部活は全て装騎関係の部室なのだ。

モッチー先輩は“普通装騎部だけで22ある”って言ってたけど、その他にも装騎レースやマラソンなどといったスポーツ装騎を主にしたスポーツ装騎部が2つに、装騎研究会、装騎技術同好会などといった装騎関係クラブが12――とその数は多い。

「これでも、色々と統廃合あった結果で数はかなり減ったんですけどね」

とはモッチー先輩の談。

そんな状態の中、新入生の勧誘は非常に難易度の高いことだった。

突然、ざわめきの声がグラウンド内に広がる。

「ん、なんだ?」

そのざわめきに気が付いたモナカ先輩が首を傾げた。

わたしもうんと背伸びをして、騒ぎの原因を探す。

大勢の人々に囲まれたその中心には、どこかで見たことある1人の女子生徒の姿があった。

長くて綺麗な黒髪に、鋭い眼差しの……

「あれは…………ヒラサカ・イザナ!!!!」

それはサエズリ・スズメさんと激しいバトルを繰り広げていた女子生徒――チーム・ミステリオーソのヒラサカ・イザナさんだった。

今年の最優秀騎使であるスズメさんと互角の戦いを繰り広げたイザナさん……そんな彼女がその場にいるとなれば、とる行動は誰しもが一つ。

「勧誘だァァァアアアアアアア!!!!」

そう叫ぶとモナカ先輩は一目散に人だかりの中へと飛び込んでいく。

「……っ!? 何よっ」

人々を掻き分け、一気にイザナさんへと近づくモナカ先輩。

物凄い迫力にイザナさんの表情が歪んだ――かと思ったその瞬間。

「ゴフゥッ!?」

イザナさんの膝蹴りがモナカ先輩に叩き付けられた。

「モナカ先輩っ!!??」

慌てて駆け寄る、わたしと第七装騎部の先輩達。

「な、何も、膝蹴り、しなくても……」

モナカ先輩は虫の息でそんなことを口にする。

「アンタが襲い掛かってくるからよ」

一応はどこか申し訳なさそうな表情を見せながらもイザナさんはそうきっぱりと言った。

「まぁアレはモナカ先輩が悪いですね。私でも殴りますよ」

「ソーだな。オレだって頭突くぜィ」

「そうですね。ワタクシなら斬り殺してますもの」

「そ、そりゃねーぜ……」

更に助けてもらえる味方も居ないと知ったモナカ先輩は、ガクリと倒れ伏した。

「全く――厄日ね今日は」

イザナさんはそう呟くと、一気に身を沈みこませて走り出す。

「あっ!」

「しまった、逃げるわよ!」

「追いかけ……」

「て良いの? 蹴られたりしないかな……」

「たしかにぃ……」

そんなことを言う生徒たちを後にして、イザナさんはその姿を消した。

それから暫く、回復したモナカ先輩は再び勧誘を始める。

今まで以上に目を光らせ、会場へと足を運ぶ新入生を睨むように見ていた。

「サエズリ・スズメだ――――っ!!!」

突然、モナカ先輩が叫び出す。

「えっ、スズメさん!?」

モナカ先輩の言葉に、私も思わず周囲を見回した。

それは他の生徒たちも一緒。

「もしかして、装騎部に――――!?」

「あの新入生が居れば――勝てる!!」

「このバーデン=ヴュルテンブルク、今度こそ逃がしはしないっ」

さっき、イザナさんを逃がしてしまったということもあり、モナカ先輩をはじめより一層力の入っている先輩方。

ドッとスズメさんの元へと押し寄せる先輩達に、スズメさんはもみくちゃにされる。

「あ、あの……さすがにやりすぎなんじゃ」

そう言う私の声は、当然ながら届かない。

その時、私は見た。

人だかりの中に飛び込んでいく、黒髪の女子生徒を。

「あれは、イザナさん?」

そう、それは先ほど逃走したと思っていたイザナさんだった。

イザナさんは人だかりの中からスズメさんを連れ出し、逃げる。

「なっ、サエズリ・スズメが居ないぞ!?」

「しまった、逃げられたぁ!」

結局、この日の勧誘会で新入生を勧誘するのは無理でした。


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