計画書
俺は読み物が好きだ。
俺の一番の趣味といって良い。
ダンジョンで生活を始めてから、数え切れない程の物を読んだ。
暇な時間があれば……暇な時間ばかりだったが、
常に、と言っていいほど書物を読んでいたような気がする。
人間が書いた物、魔の者が書いた物、それ以外の種族が書いた物、
関係なく読みまくった。
基本ダンジョンから出ることは少ないが、
書物を手に入れる機会があれば、可能な限り入手した。
それほど読み物が好きだ。
このダンジョンの隠し部屋には書庫がある。
今まで読んで特に気に入った書物はそこに保管している。
書物はどんどんと増え、そしていつの間にか書庫は収納限界を迎えた。
俺は入りきらなくなった書物を捨てた。
泣きながら、お気に入り度の低い順に捨てた。
心の中で鎮魂歌を歌いながら捨てた。
それほど読み物が好きだ。
そんな俺が、今、新たな書物を手にしようとしている。
サタン様が俺のために作ってくれた計画書の冊子だ。
計画書だからといって別物と考えてはいけない。
書物にはそれを書いた者の知識、経験、価値観、思想、
そういったものが如実に表れている。
これは計画書といえども例外ではない。
俺はそれら諸々を感じ取る、読書という行為が大好きだ。
サタン様の書は、俺にどんな感動を与えてくれるのだろうか。
「では」
布の袋から冊子を取り出した。
気持ちの高まりを抑えることができない。
テーブルに冊子を置く。
まずは表紙から。
『サルでもわかる! 勇者誘導大作戦』
一旦冊子から目線を外し、天井を見上げる。
「見間違えかな?」
今まで文字を見すぎたせいだろうか。
若干おかしなタイトルが見えた気がする。
しばらく目を閉じて瞳に十分な潤いと休息与えた後
再度表紙に目を落とす。
『サルでもわかる! 勇者誘導大作戦』
「……」
ま、まぁ良い。ちょっとひねったタイトルなんだな。
これまでにも変わったタイトルの書物はあった。
俺は読み物が好きだ……ん?
タイトルの下に視線を這わすと、何か不思議なものが見えた。
「……」
あぁ、サルの絵か。
迷路かと思ってスタート地点を探したわ。
よし、表紙はとりあえずもう良い。中身に入ろう。
表紙をめくって、と。
『こんにちは! まほうつかいのおねえさんだよ!』
『きょうはいっしょに ゆうしゃ ゆうどう さくせん をべんきょうしようね!』
頭痛ぇ。
なんだこれ。ツッコミどころ多すぎるわ。
今度はなんだ、人……の絵か?
髪がわざわざ緑色に着色してあるから
この絵は描いた本人、サタン様のつもりなんだろうか。
ヘタクソすぎて何かの植物にしか見えないが。
まぁ次いくか。
『ゆうしゃぱーてぃーは 4人で やってくるよ』
知ってる。もう2回遭遇したからな。
『ひろま で あったら たおさないようにして にげよう!(きをつけて!)』
そこからか。すごい基本的なところからだな。
『ちゅうい! まほうつかいのおねえさん の ちかくで けんをふってはいけません あぶない!』
『にげるときは そとへ にげようね! じぶんのへやは だめだよ!』
注意事項が書いてあるな。どちらも俺の失敗だ。
こう見えて意外と要点はまとめてあるのかもしれない。
ちゃんと読もう。
「……」
少しずつ、時間をかけて
『サルでもわかる! 勇者誘導大作戦』を読み進めた。
サルが文字を読めるのかどうかは知らないが。
あまり深く考えないでおこう。
―――――
結論から言うと、結構面白かった。
最初はどうなることかと思ったが、案外良くできている。
作戦自体は口頭で伝えられた内容とほぼ変わらないが、
俺の知らない色々な事柄を知ることが出来た。
勇者の名前はクルス。
剣といくつかの魔法を使う。
性格はイケイケだが、攻守バランスの良い能力を持っている。
リーダーとしてパーティーを率いている。
剣士の名前はルビー
勇者が名前を呼んでいたからこれは知っている。
剣術に特化している。魔法は使えない。
性格は常識的。あまり喋らないから微妙に謎らしいが。
大剣の攻撃力で敵を粉砕する役割。
神官の名前はモニカ
これはサタン様が言っていたな。既知。
長い杖のようなものを持っているが攻撃にはあまり参加しない。
性格は冷静沈着。だが言動は若干攻撃的。
後方支援や分析等、幅広い役。
魔法使いの名前はサラ……偽名だな。
まほうつかいのおねえさん。
きゅーとでせくしーなそのおねえさんのしょうたいは
なんとあの、まていさたん、なのです!
せいかくは、ずのうめいせき、うんしんげっせい。
どんなあいてのはーとも、いちころだ!
一部不要な情報を掴んでしまった。
不要というか嘘ではないだろうか。
本当に信用していいものか、判断が難しい。
「ふぅ……」
サタン様の作戦計画書を閉じる。
「とりあえずこれで明日はバッチリだ」
そういうことにしておこう。
「……さて」
明日に備えて今日はもう休もう。
少し早いけどなんか疲れた。
「……」
『サルでもわかる! 勇者誘導大作戦』を片手に、
隠し部屋のお気に入り書庫へと歩を進めた。