表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/32

勇者再び

こんにちは、ダンジョンの主です。

今私は、広間に立っています。

このダンスパーティでも開けそうな広々とした空間。

今は私1人しかおりません。松明の光は私だけを照らしております。


昨日魔帝サタン様から、勇者ご一行が我が家へご訪問される

と連絡をいただき、こちらで待機している次第です。

朝、早めに起床し、朝食をとった後こちらに移動しました。

雑用のゴブリン君には外へ退避してもらっています。

私が広間に立ってから、既に9時間が経過しております。

たまに素振りなど、この場所でもできることをして過ごしました。


時間を聞くのを忘れていました。


自室で待つ、というのが一番楽で良いのかもしれません。

しかし残念ながら私のダンジョンは非常に小規模。

ご訪問を察知してから移動したのでは、おそらく間に合いません。

途中の通路で鉢合うのが関の山といった感じでしょうか。

そういうわけで、私は今他に誰もいないこのダンス会場で、

1人寂しく時を待っているのです。



「ふぅ……ん?」



来た、複数だ。

勇者達だな。ようやくか。



「よし」



気を入れなおし、通路を注視する。

足音が聞こえた。


最初にマントを着た人間が見えた。勇者。

顔をきょろきょろと動かしている。

こちらにまだ気付いていない様子。

後ろから剣士、神官、魔法使……サタン様もぞろぞろと入ってきた。



「お」



こちらを見た。

俺の存在に気付いた様子。

勇者と剣士が剣を構えた。



「罪無き人々を苦しめる魔物め、覚悟!」



勇者さんからご挨拶をいただきました。

一昨日も思ったけど中性的な姿に似合って高い声だな。

声変わりしてないのか?

まぁいい。



「ドゥハハハ。よくぞ来た、勇者よ。かかってくるが良い。」



はい、これ。練習しました。

すんげえダンジョンのボスっぽいでしょ。

あれ? サタン様なんかニヤけてね? 

真面目にやってください。

誰のためにこんなセリフ言ってると思ってるんですか。



「行くぞ! ルビー!」


「……ああ」



勇者とルビーと呼ばれた剣士が剣を構えて斬りかかってくる。予定通り。

ちらりとサタン様の位置を確認する。



「……」



一昨日の出来事を省みたのか

大きく距離をとっていた。

この距離ならば大丈夫だろう。


同時に迫ってきた勇者と剣士の攻撃を1歩下がってかわした。

間を置かず、そのまま2人の間を抜ける。

後方に控えていた神官は鈍器か杖のようなものを持ってこちらを見ているが、

襲いかかって来る様子はない。後方支援役のようだ。

ここまでは一昨日と同じ。

ここで牽制をしないと背中を斬られる。


振り向きながら剣を突き出す。

こちらに迫っていた勇者と剣士が後ろへ跳んだ。



「……」



不自然な動作にならないようにしながら

さりげなくサタン様の安否を確認。

無事。首に剣などは刺さっていない。当然だが。

サタン様の顔を見ると、無表情ではあるが

なんとなく満足げな顔色にも見えた。


(よくやったわ。その調子でがんばりなさい……)


そんな心の声が聞こえてきそうだ。

俺の勝手な想像だが。

さて、ここでもう一言。



「ぬう……やるな。くっ、ここはひとまず退かせてもりゃうとしよう」



噛みました。練習したんですが。


勇者達に背を向けて通路へと走る。

通路を通って、右に曲がる。



「よし」



成功だ。このまま部屋へダッシュ。



「ん?」



何故か後ろから自分以外の足音が聞こえた。

後ろを振り返る。



「待てええええええええええええ!」



勇者が剣を片手に俺を追って来ていた。



「ええ!?」



こんなん聞いてないですけど!

あれで終わりじゃなかったの!?

奥の洞窟に行くんじゃないの!?



「やっべえ!」



とにかく距離を離そうと必死に走ってはみたものの、

あっという間に自室前。

一か八か、部屋に入ってみようと扉に手をかけた時、

背後に勇者の気配を感じた。



「ちっ!」



振り返りざまに剣を突き出す。



「あ」



ズブリという感触。

剣先を見ると、そこには勇者の首筋。



「……」



勇者の首に剣が刺さっていた。

驚愕の表情でこちらを見ている勇者。



「すまん」



勇者の首からそっと剣を引き抜く。

引き抜いた途端、血が勢い良く噴き出した。

ドサリと勇者が崩れ落ちる。



「……」



ピクン、ピクンと痙攣しはじめる勇者。

痙攣する度に首から血が噴き出して

通路を赤く染めていく。



「だ、」



大丈夫か勇者ーー!


近寄って状態を確かめる。

しばらくすると勇者の痙攣が止まった。



「……」



新たな足音が聞こえ、曲がり角から他の3人が姿を現した。

3人はこちらを見て怒りの表情を露わにし、

武器を構えてこちらへ向かってくる。

先頭を走っているサタン様など、まさに鬼の形相である。



「やべえ……」



殺されるかもしれない、と死を覚悟したその瞬間、

3人と足元の勇者が白い光に包まれた。



「お……?」



白い光は微かな音と共に、細かい粒になって消え去った。



「……」



なに? 転送?

ってことは勇者死んだのか。


一昨日、俺が3人の死体を片付けて、

部屋に帰る途中に転送が起こったとすれば

今日はそれよりかなり早い。ばらつきがあるのかも知れない。



「……」



さて、どうしたものか。


……


…………



「よし、寝よう」



今日は早起きをして少し眠い。早めの睡眠をとっても良いだろう。

決して現実逃避などではない。ちょっと眠いだけだ。

外へ退避しているゴブリン君を呼び戻して、風呂にでも入ろう。

風呂に入った後、さっさとベッドで横になろう。

きっとそうした方がいい。

あー疲れた疲れた。お疲れ様でしたー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ