表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/32

勇者パーティープラス1

━━━━━

━━━━━



「……なぁお前、その目、ケンカ売ってんの?」



突然、モニカが紺色の髪の男に難癖をつけた。


確かに怖い目をしてはいるが、会っていきなりいちゃもんとは。

人をこんな所まで連れてきておいて、何をしているのか。



こんな所で私は何をしているんだろう。


本当なら今頃レン君のダンジョンにいるはずなのに。

レン君の部屋でレン君とのんびりしているはずなのに。


この時間だと夕食を食べ終えて、レン君が

「そろそろ帰った方がいいですよ」

とでも言い出す頃かな。


そういえば昨日一緒に散歩した後にも言ってた。

早く帰った方がいいとかなんとか。


ブツブツうるさいから、ちょっと困らせたくて言ったんだ。

私をそんなに帰らせたいのか、私と居たくないのか、と。


レン君が私のことを思って言っているのはわかってた。

中身を見たことがないからどんな顔か知らないけど、

きっと心配そうな顔をしてた。なんとなくそんな気がする。


それをわかってても言った。

言ってほしい言葉があったから。


それでレン君は、私が期待していた通りの言葉を返してくれた。



「そんなわけないじゃないですか」



そうそう、そんな感じ。



え?



━━━━━

━━━━━



「ああん?」



神官が片眉を吊り上げる。



「別にケンカなんて売ってないですよ」



善良な一般人を装って答える。

実際、こちらから喧嘩を売った覚えはない。



「てめぇガン飛ばしてたじゃねーか」 



顔を傾け、俺の顔を指さす神官。


外見に似合わず半端なく口悪いな。

こいつ本当は神官じゃなくて、山賊か何かじゃないのか。



「元々こういう目なんです。よく誤解されるんですけど」


「……へー、何人か殺してそうな目だなおい」



正解。

その中にはお前も含まれてるけどな。



「やめてモニカ、失礼だよ」



勇者の一声。



「……」


「……」


「……わりぃわりぃ、冗談だよ」


「は?」



神官が顔を綻ばせた。



「いや、見たことないカッチョイイのが勇者達といるもんだから」


「は、はぁ」


「ついちょっかいかけたくなってよー。ははっ」



神官は白い歯を見せながら、俺の肩をパシパシと叩く。

なんだかよくわからないが、やはりフェイクだったか。

思ったとおりの猜疑心が強い奴だな。



「わりぃなほんと、あんま気にしないでくれ」


「はい……あ、俺はラズっていいます」


「あたしはモニカだ。ラズか、いい名前だな」



良い名前だろ。さっき考えた。



「ありがとうございます。モニカさんこそ良いお名前ですね」


「モニカでいい。あたしもラズって呼ぶから」


「わかりました、モニカ。……で、お連れの方は」



神官の後ろで、口が半開きにして固まっているサタン様を見る。



「ああ、こいつはサラっつってな」


「……」


「おい、魔法使い」



神官がサタン様の肩を小突く。

黒いローブがピクリと揺れた。



「え! な、なに?」


「自己紹介。ほら、こいつに」


「え……」



サタン様と目が合う。


こちらからいくか。

サタン様が妙な事を口走る可能性が無くもない。



「ラズといいます。……初めまして」



全然初めましてではないが、

『ラズ』と『サラ』は初対面だからな。



「は、はじめまして。わた、私はサラよ」



おずおずといった様子で名乗るとんがり帽子の魔法使い。


サタン様、いい感じです。その調子で。



「サラさんですか。よろしくお願いします」



いつもお世話になってます。よろしくお願いします。



「よろ、よろしく……あの、ちょ」

「自己紹介済んだ? とりあえず座ろうよ。はい座って座ってー!」



勇者がパンパンと手を叩く。


勇者ナイス。

サタン様、何か言おうとしてたぞ。

「あんたレンジャー?」とか、ド直球じゃないだろうな。

さすがにそのあたりは弁えていると思いたいが。



「そういや飯食いに来たんだったな。あー腹へったー」



神官が腹をさすりながら俺の右の椅子を引く。



「何にすっかなー」



そこに座るのかよ。

勇者の横とかにしとけよ。



「サラも座ってー」



立ったままのサタン様に、勇者が声をかける。



「サラちゃ……サラ、ここ空いてるわよ。ここ」



剣士がニコニコしながら横の椅子を指さした。



「……」



サタン様は無言で俺の左の椅子に座った。

剣士の声が聞こえていないかの如き迷いの無い動作。



「……」



剣士は満面の笑顔を貼り付けたまま

椅子を指さしたポーズで硬直した。



「……」



固まった剣士を無視して

髪の毛などを弄りだす勇者と神官。

放っておいていいのだろうか。



「……さーて、と。あれ? 剣士しか食ってねーじゃん」



神官がメニューを掴み取りながら言った。



「あ、僕達もさっき来たとこで、注文まだ来てないんだよー」


「ふーん……なぁラズ、どれがいいと思う?」



神官が俺にメニューを見せながら聞いてくる。



「俺はこのスープにしましたけど」


「キノコ、と野菜の特製スープか……なんでこれにしたんだ?」



なんでと聞かれても、別に大した理由はないが。

勇者がこれを選んだから、無難に同じものにしたっていうのと、



「どういうスープかちょっと気になりましてね。自分でもよく作るんで」



ここは正直に答えとこう。

こう言えばサタン様にラズ、イコール、レンジャーだとわかりやすいだろう。

もう気付いているかもしれないが。



「へぇ、料理なんてすんのか。その顔で」


「顔関係あるんですかね?」



酒場とかだと結構な強面のおっさんが厨房で腕振るってるんだが。

見た目は放っとけよ。

外見と料理は関係ないだろう。



「じゃああたしもこれにするか。魔法使いはどうすんだ?」


「……」



背を反らせた神官がサタン様に話しかけるが、返事は無い。

そういえばサタン様、席についてから一言も喋っていない気がする。



「サラさんは何にします?」



サタン様の方を向き、声をかけてみる。

過度な接触は怪しまれる可能性があるが、

一切話しかけないのも不自然だ。



「へ? え……な、なに? なにが?」


「注文ですよ。サラさんは何を食べます?」


「ちゅ、注文!?」



話を聞いていなかったのか。

どうも落ち着きが無いな。



「はい、メニューどうぞ」


「ど、どうも……」



サタン様は差し出したメニューを受け取って注文を選びはじめるが

時折チラチラとこちらへ視線を向けてくる。

挙動不審。

まだ俺だと確信していないか、

もしくは戸惑っているだけか。



「えーっと……えーっと……」


「落ち着いて、ゆっくりでいいと思いますよ」



二つの意味を込めて言った。

うまく伝わればいいが。



「う、うん……」


「うわ! 魔法使い、お前顔真っ赤じゃねーか!」


「ち! ちが!」


「え、なんだなんだ? こいつに惚れたんか? ん?」



神官がゲスい。

ゲヘゲヘと気色の悪い笑い声を漏らしている。

こいつ本当に神官じゃなくて、山賊か何かじゃないのか。



「私も! 私も同じのでいい!」



サタン様が場を仕切り直すかのように声を上げた。

確かに顔が赤い。

どうしたんですか。



「みんな同じやつだね。マスター!」



勇者、みんな同じとか言ったが、

剣士はみんなの中にカウントされないのだろうか。

固まったままだからだろうか。

誰かなんとかしてやれよ。



「なあ、ラズ」


「はい?」



神官に小声で呼ばれたので振り向く。

すぐ近くに神官の顔があった。



「お前ここの人間じゃないんだよな?」


「はい。他所から来ました」


「どっから来たんだ?」



きたか。

聞かれるだろうとは思ってたが。



「東の方の、ヒルビスって村から来ました」



実際にある村だ。かなり前だが訪れたことがある。

実在する地名を言った方が信憑性があるだろう。



「へぇ……そういやそんな村があった気がするな」



神官がニヤリと口元を緩ませて呟いた。

なんだろう。



「……何か?」


「いやなんでも。どんな所なんだ?」



ヒソヒソと、俺にだけ聞こえるような声で喋る神官。



「どんなって、まあ普通ですよ。森に囲まれてて、香辛料がよく取れますね」


「ふーん。で、ここには何しに来たんだ?」


「……観光、みたいなもんですかね。グリンヒルには前から来てみたくて」


「……そっかそっか。なるほどな~」



ニヤニヤと笑う神官が不気味。

青い二つの目が俺をじっと見つめている。


なんだろう、この顔は。

口は笑っているのに、目が笑っていない。

何か変な事を言っただろうか。



「お待たせしました」



マスターの声によって会話が途切れる。



「お、早いなマスター!」



神官が視線を外し、マスターに声をかける。



「……」



小細工の続き、だったのだろうか……まあ良い。

済んだ話を蒸し返してもしょうがない。


それにしても早いな。

先に注文した時に多めに用意していたのだろうか。



「失礼します」



マスターがコトリコトリとテーブルの上に皿を並べていく。

皿からは湯気とともに、食欲をそそる良い匂いが立ち上っている。



「パンもすぐにお持ちしますんで」



マスターはそういい残し、店の奥へと戻って行った。



「うまそうだなー」



神官が立ち上がる。



「えーっと、1、2、3……」



スープの入った皿を指さして数え始める神官。



「4、5……」



最後にサタン様を指さして5つ目をカウントした。



「ん? 1つ多いな……?」


「……」

「……」

「……」


「あれー? おっかしいなー?」


「……」

「……」

「……」


「1、2、3、4……あ! これ皿じゃなくてサラだった!」


「……」

「……」

「……」


「なんつってな! 皿とサラ間違えたわ!」


「……」

「……」

「……」


「つってな!」


「……」

「……」

「……」


「……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ