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罰ゲーム

空は快晴。

絶好の罰ゲーム日和と言えよう。


サタン様とダンジョンの外へ出て、ダラダラと歩きはじめる。

太陽の日差しが暖かい。ポカポカと俺達を照らしている。



「ねえ、勇者から逃げたときはどこへ行ったの?」



サタン様が俺に振り返りながら尋ねてくる。

肩からかけた小さなカバンが遠心力でフワリと浮かぶ。



「そこの森の中ですね」



ダンジョンを出てすぐのところには森が広がっている。

すぐ目の前に、逃げ隠れるのに好都合な森があるわけで、

わざわざ他のところへ逃げる必要が無かった。



「じゃあ森へいきましょー」


「え、森ですか?」



こんな天気が良いのに森へ散歩とは。変わった人だ。



「何よ、文句あるの? わかってると思うけどこれは、」


「罰ゲームですよね。別に文句があるわけじゃないですよ」



別に嫌なわけじゃないです。

というか罰ゲームじゃなくても嫌だなんて言わないです。

どこへでもついていきますとも。沼の中以外なら。



「じゃあ案内してね。勇者から逃げたルートで」


「え? ……すみません。結構ウロチョロしたもんで、正直覚えてないです」



わかりやすい動きをすればその分逃げにくくなる。

自分でもわからないくらいにグチャグチャなルートを走り回った。

それを辿れと言われても、もうどこを走ったかなんてあまり覚えていない。



「えー。じゃあもう、だいたいでいいから」


「わかりました。えっと、2回逃げたんですけど」


「1回目の方でいきましょ」


「はい」



1回目の方向か。

1回目だと沼に近寄るんだが……

ま、まぁ見るだけと言っていたから大丈夫か。

底なし沼を見てみたいと言っていたな。



「こちらです」


「ほーい」



―――――



森を歩く。

以前ほどではないが、やはり地面が多少ぬかるんでいる。

できるだけ歩きやすいところを選んで、記憶の中のそれっぽいルートを歩く。



「やっぱジメってるわねー」


「そうですね。あまり陽が差し込みませんからね」



森は薄暗い。木々に遮られて太陽の光があまり届かないのだ。

サタン様は辺りをキョロキョロと見回している。


ちょっと聞いてみるか。



「サタン様、パーティーで来る時はどこを通るんですか?」


「えーっと、あっちの方から」



サタン様は右を指差す。

沼がある方とは反対方向だ。

だから沼の存在を知らなかったのか。……勇者も。



「沼は確かあっちの方にあります。帰り道で見つけたんですが」



サタン様の示す方向とは別の方を指差す。

確かあっちで合っているはず。



「ほー。もちろん後で行くのよ……お!」



サタン様が地面を見て声を上げた。

何か見つけたようだ。



「キノコ発見! レンジャー、食べてみて!」


「嫌です!」



いくら忠誠を誓ったと言っても、

森に生えているわけわからんキノコを食べろ、という命令は全力で拒否する。

真っ赤な傘に白い斑点があるキノコ。十中八九おやつにはならないだろう。



「ぶー。じゃあ私が食べよ。よっこいしょっと。せーのっ」



サタン様がキノコの前に座り込み、手を動かして口へ……



「ちょ! やめ……!」



全速力でサタン様へ駆け寄る。

何やってんだこの人! 頭おかしいのか!?

謎キノコに手を伸ばすくらい腹減ってるのか!?



「うっそーん。ップ。レンジャー君必死すぎー」


「……このクソアマ……」



どうやら食べる真似だけしていたようだ。

こちらに背を向けていたので見えず、本当に食べてしまったのかと思った。


心に湧いた黒いものが、うっかり口から漏れ出てしまう。

しかしサタン様は全く気にした様子も無く、ケタケタと笑っている。

セーフ。



「あーおかし。大丈夫よー、レンジャー心配しすぎ……っ!」



サタン様が立った拍子にズルリと足を滑らせ、バランスを崩す。

俺はサタン様の背中をポフッとキャッチして転倒を防いだ。



「何が大丈夫なんですか? クソアマ様」


「え、あ! ……ありがと……」



パッと体を離し、礼を言うサタン様。はい顔真っ赤。


フッ、言ってやった。

なめられてばかりじゃないんですよ。



「はい。では行きましょう。こっちの方です」


「う、うん! さっさと案内しなさいよね」



クソアマとその忠実な下僕、俺達2人パーティーは、

危険度120%のおやつを放置して、先へと進んだ。



―――――



「あ、あの木です。俺が隠れた場所」


「おー、でっかいわねー」



運良く、俺が隠れ潜んだ大木をそれほど時間をかけずに発見できた。



「ここの裏に、こうして……」


「なるほど、これなら隠れるのに最適ね」



隠れた時の状況を再現する。

サタン様も俺と同じように大木の裏に身体を忍ばせる。

この人の方が身体が小さいから、俺より見つかりにくいかもしれない。



「でしょ? 結局勇者はここまで来なかったんですけど」


「あー、この時にはもう勇者、沼に……」



たぶんそうだと思う。

俺がこうして大木に身を寄せている間にも、

勇者はズブズブと沼へ沈んでいたんだろう。

色んな意味でかわいそうなやつだな。ほんと。



「そういえば本で読んだことがあるわ」


「ん?」



急に真剣な顔になり、話し出すサタン様。

本で読んだって、何をだ?

この森に何か重大なことが?



「すっごく東の方の島に、隠密活動を得意とする人達がいるらしいの」


「ブッ」


「? その人達は隠密だけでなく、幻術を使ったり、水の上を走ったりできるらしいわよ」



あんたも読んどったんかい。



「いつか会って教えてもらいたいわね。魔法の類かしら?」


「い、いえ……それはにんじゅつ、と呼ばれるらしいですよ」


「へぇ……! さすがレンジャー。物知りね!」



それから俺達は、東方の謎の集団についてあれこれ話し合いながら、

ダンジョンの方角へと歩を進めた。


途中、サタン様が「今度水の上を歩いてみるわ」と言ったので

「てめえじゃ無理だよ、クソアマ」と返しておいた。

サタン様はそれでもケラケラと笑っていた。

多少雑な扱いしても怒らないんですね。



―――――



「あ、もうちょっとで沼です。気をつけてくださいね」


「わかったわ」



ボロボロの木の看板が見えたので、サタン様に注意を促す。

もし足を踏み外して落ちたりしたらシャレにならん。


沼の見える場所まで歩く。



「……」


「……」



無言。

鳥の鳴き声が聞こえる。



「……」


「……」



沼は相変わらずボコボコと泡を吐き出している。



「……」


「……」



サタン様は何を思っているのだろうか。

俺はここへ沈んでいった哀れな勇者のことを思い出していた。



「……」


「……さ、行きましょうか……」



―――――



「あー楽しかったわね!」


「そうですね。思ってたより面白かったです」



ダンジョンの前まで戻り、一息ついた。

サタン様は、グググと背伸びをして大きく息を吐く。

なんか散歩しただけなのに妙な達成感がある。


いやほんと楽しかった。散歩って楽しいわ。



「これからどうされます? 早めにお帰りになりますか?」


「まだ早いわよー」


「でも帰りが遅いと怪しまれたりしませんか?」


「んーまだだいじょうぶー」



結構いい時間だ。俺としては早めに帰った方がいいと思うのだが、

サタン様はまだ大丈夫と言って帰ろうとしない。



「……そんなに私を帰らせたいの? 私と居たくない?」


「そんなわけないじゃないですか。では中で食事でもいかがでしょう?」


「食べる食べる。最初からそう言いなさいよ」



サタン様といるのが嫌なわけじゃない。ただちょっと心配なだけ。


2人でダンジョンへ戻り、サタン様が食事をした。

その後サタン様が風呂に入りたいと言ったが、

さすがに時間が遅すぎるので、帰るように言った。

サタン様はしぶしぶ、と言った様子で帰り支度を始めた。

非常に不満顔だったので、俺は途中までサタン様を見送ることにした。


別れ際、サタン様は満足顔で手を振ってくれた。

俺も手を振って、サタン様が歩いていくのを見届けた。


サタン様が見えなくなってしばらくしてから、ダンジョンへ帰った。

帰ってから食事の片付けをして、風呂に入る。

風呂から上がり、少し剣の手入れをしてからベッドへと潜り込んだ。


さて、明日はまた勇者達が来る。

がんばろう。



今日の楽しかった罰ゲームのことを思い出しながら、

眠りの世界へと旅立った。

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