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とある帝王様の考察

私は今・・・困っている。

どこで計算が違ってしまったのだろうか?


バスジャックのにんじん怪人から始まった、ヒーロー現実化計画。


商店街襲撃のたまねぎ怪人、じゃがいも怪人、なす怪人。


小学校の制圧に向かったピーマン怪人にしいたけ怪人・・・


これだけ騒動を起こせばヒーロー人気が高まるはず。


作戦は完璧だった・・・


「完璧っすかねぇ?」


自問自答する我の膝で、猫型アンドロイドが首を傾げる。

しかし、何を疑問に感じることがあるというのだろうか。


バスジャックでは、知能の未発達な幼児が怖がり過ぎないように配慮した。

細かく言えば、幼児好きな戦闘員と保育士の資格を持った事務要員の配置などだろう。


「そうそう、バスの中で微笑ましく遊んでたっすよね。

 なにせ戦闘員達はボランティア活動に参加させて、子供の扱い覚えさせてから投入する徹底ぶりっすもんね」


そうなのだ。万が一にも子供達の心に傷を残すようなことがあってはならないからな。


にんじん怪人も、子供達が極度に恐れ、にんじんに対するトラウマが生まれないよう、愛くるしく振舞わせたからな。

こっそりと野菜スイーツで有名なシェフからレシピを入手し、キャロットケーキを振舞う事で子供達がにんじんに対し、恐怖心を払拭した辺りで計画も開始した。

・・・ここまでは間違っていなかったはずだ。


「そうっすよねぇ。子供達大喜びだったすからね。

 あぁ、あの後帝王様が子供達の親に配ったレシピ、すんごい人気らしいっすよ。

 簡単お手軽なのに子供が大喜びでにんじん食べてくれる、レアレシピだって話題沸騰っす」


そう、うまくいっているはずなのだ!

だが・・・何故?何故なんだっ!?

何故、爆発の美学が伝わらなかった!!


まず、登場時の爆発シーンで歓声が沸き、


「実際は音に驚いて半べそ続出っしたね」


戦闘員との対決における爆発で、血沸き、肉踊る。


「黒ずくめの人がぁっ、って子供達おびえてたっすねぇ。」


ラストの怪人の爆発など、スタンディングオベーションものでは無いかっ!!


「にんじんさんがぁっ、って泣きじゃくる子供達を一生懸命あやしてる戦闘員達が印象的なシーンだったっすよ・・・」


何故判ってくれないっ!!


子供達はヒーローにおびえ、泣き喚いてしまったと言うではないか。


「・・・それは、仲良くなった、美味しいケーキをくれるにんじんさんを殺しちゃった酷い人にしか見えなかったんじゃないっすかねぇ・・・?」


なぬっ?!

しかし、怪人だぞ? 怪人と言えば悪役ではないか!


「でも、子供達にとっては一緒に遊んだお友達っすよね?

 ヒーロー、お友達に意地悪するいじめっ子に見えたんじゃないっすか?」


そんなことがあるはずがないのである!

今、あの保育園では空前のヒーローブームが到来していると聞いたぞ!


「そうなんすか?」


うむ!!

その言葉に喜び、見学に行ってみれば!!

先生がヒーロー役を行い、子供達が怪人や戦闘員役でヒーローごっこをしていたではないか!!


「ぶははははは!」


何がおかしいのだ?!


「だ、だってそれ・・・! 完璧にヒーローが嫌われてるじゃないっすか!

 子供達が嫌がるから、先生がヒーロー役をやるしかなかった状態っすよ。

 なんて逆転現象っ!

 あはははははは! おかしすぎるっすよ!」


うぬぅぅぅ。

そんなはずは無いぞ?

きっと先生方がヒーローにハマってしまったのだ!!


他の保育園でも、ヒーローに来て欲しいのか、「うちの園にも襲撃に来て欲しい。」という声がそこかしこから出ているそうだ!!


「"怪人と戦闘員のみ"っすよね?

 子供達に怪人と戦闘員が好かれすぎてるっすよ。

 や、そこまで期待されたらやらざるをえないっすよね。

 あちこちバスジャックしまくりっすか?」


いや、流石にそもういかんだろう。

実は・・・戦闘員から提案があった。

にんじん怪人から回収したAIをコピーし、体格も小さめにした"ミニにんじん怪人"と先日活躍した戦闘員を数名連れて保育園の慰安に向かわせたほうが良い・・・と言われてその通りにしておる。


「あぁ、それはいいっすね。

 あのニンジンかわいいっすもんね。

 決めぜりふ言い終わった後、戦闘員を振り返って、うまくできたキャロ? って。

 ほめてほめて~ってオーラが癒されるというか」


何故だっ・・・何故、ヒーローがおびえられ、怪人が好かれている?


幼児にとってヒーローは羨望の的ではなかったのか?


「・・・いやぁ。きっと、戦闘員と怪人が優しいからじゃないっすか?」


子供達に乱暴な振る舞いをさせるわけにはいかなかろうが!


・・・は。

もしや色か? ヒーロー達のまとう色がいけないのか?!

・・・いや、しかし、色は古来から伝統の物だ。

では形がいけなかったのだろうか?

デザインを今度見直してみたほうが良いだろうか・・・


「・・・なんかもう、そういう問題じゃないと思うっす」


・・・答えが出ない。

次の件をまずは考えてみよう。


商店街の襲撃。

これもヒーローものではお約束の一つだな。


・・・だが、最大の問題に突き当たった。


過去には商店街が存在していたが、現在の狛江市には・・・

商店街が存在しないでは無いかっ!!!!!!!!!!


「最大がそれっすか?!」



だが、その程度で計画を頓挫する私ではない。


現在は大型スーパーが台頭し、コンビニと個人商店がぽつぽつとあるだけだ。


・・・・・・ならば作れば良い。


ちょうど良い所で、マンション群の建設が計画されていた。

なので、その1階部分を全て買い取り、商店街を再現したのだ。


もちろん襲撃を行うには、活気のある商店街で無くてはならない。

なので、あの手この手を使って常に客でにぎわう商店街にした。

いくつか大型スーパーの経営が傾いたようだが、何件もあるスーパーの一つだ、気にする事もあるまい。


「・・・相変わらずの行動力っすねぇ・・・

 というか、なぜそこまで商店街にこだわるんすか?」


そして、襲撃を行う際、怪我人を出すような無粋な真似もするつもりは無い。


マンション群は四角を囲う形で作られていたので、その中央も丸々買い取って、襲撃用ステージを作った。

もちろんステージの周りに爆発の余波が飛ばないよう、大規模な結界も作成した。


「うわっ。完璧なスルー!

 酷いっす・・・」


ここでは、たまねぎ怪人、じゃがいも怪人、なす怪人の順で出撃をさせた。


活気はあったが、人が集まってなく場意味は無い。

人を集める為にも、

たまねぎ怪人の登場前にはステージ周りで、カレーの配布を。

ジャガイモ怪人の登場前にはステージ周りで、肉じゃがの配布。

なす怪人の際には、あげびたしとナスカレーを振舞った。


「美味しそうっすね。

 肉じゃがは日本人の定番!

 カレーならヒーローすらも魅了できそうな気がするっすよ」


・・・!

我は、イエローがカレーに夢中になるあまり、ヒーローがなかなか現れずに困ったことなど、話しておらぬぞ?!


「・・・ビンゴっすか?!

 帝王様、どんだけ美味しいカレー作ったんすか?!」


それは・・・

専門店の味を目指しながらも、3日続いても、ご飯でもパンでもナンでも、カレーうどんにしても、美味しくいただける最高のカレーを・・・


「それは駄目っすよ?!

 そんな物を作ったら、イエローは虜になって活動できないっす!

 それが規則なんすからね?!」


ぬあっ?!

そうだったのか・・・っ

そういえば、イエローとはカレーを愛してやまぬもの・・・

これは我の失敗であったか!


「駄目っすよ、そんな大切なことをうっかりしちゃあ・・・

 んまぁ、それはそれとして、その後はどうしたんすか?」


その後か?

この振る舞いは盛況で、老若男女多くの人間が集まった。

そこで、集まった子供達をステージに連れ込み、ヒーローをおびき寄せたのだ。

・・・カレーの時はなかなか現れてくれずに間を持たせるのが大変だったが・・・


まぁ、3回中、3回とも喝采を受けた。

もちろん、隠しカメラで撮った画像も最高の物ができた。

轟く爆発も、多くの人たちが嬌声をあげて喜んでいたはずだ!!


「いや、それ悲鳴っすよ。」


だが!!何故だっ!!何故、怪人コールが飛び交っていた!?

そこはヒーローコールだろう?

3回の襲撃中、3回とも怪人コールだぞ?!

何かが間違っているのではないだろうか?

それとも何か?

今の地球は、怪人の方が人気が高いのか?!


「いやぁ・・・

 これはもはや、帝王様の才能がヒーローよりも怪人にむいているとしか・・・」


とんでもないのである!

我はヒーローを目指しているのだ!

怪人はあくまでも手段に過ぎぬ!!


「・・・才能と希望の不一致すね」


そこで哀れむような目をするでないわっ!


ともかく、商店街の襲撃は、これ以上続けても意味が無いと判断した。

ステージを撤去し、なかった事にしようとしていた!!

・・・が、あの時の振る舞いだったカレーや肉じゃがが忘れられないと商店街に多数の陳情が合った。


民の声をないがしろにしてはならない。

アフターフォローも大事だしな・・・

ステージ跡には、デリバリーOKのカレー屋と小料理屋を作った。

この2つは常に長蛇の列が並び、商店街でも人気店の1位、2位を争うようになったらしい。


「いいじゃないっすか。

 つまり、ヒーローがそこで戦ったこともずっと忘れずにいてもらえるってことっすよ」


ふむ? それもそうか・・・?

・・・うむ、確かにその通りだ!

忘れた頃に何度か店舗の屋上を使って、怪人に襲撃させるのも良いかもしれないな。

ヒーローの足跡を深くその地に刻むとしよう!


「・・・ヒーローショーの固定会場っすね?」


そして最新にして最大の問題は・・・小学校制圧作戦だった・・・


「最大の問題、2回目っす~。

 でも、聞こえなかったふりして誤魔化す帝王様も嫌いじゃないっすよ。

 実は恥ずかしくて耳まで真っ赤なのは、秘密にしておくっす」


全部口から出ておるわぁっっ!!


・・・こほん。

今度こそヒーロー人気を不動のものにしようと、子供の嫌いなピーマンとしいたけの怪人を向かわせた。


今回はなりふりを構っていられない。

怪人2匹の一挙投入なぞ、美学に反するのだ!!

反するが・・・ヒーローの為だ、仕方ない・・・


だがどうした事だろう・・・

怪人2体と戦闘員が小学校に乗り込んだとたん・・・


「乗り込んだとたん?」


歓声が沸き起こった・・・


「ぶはっ!」


ありえんだろう?


「わはははははは!!

 ありっす! この場合はありっす!!

 ネタとして大成功っすよ!」


我はネタなどもとめておら~~んっ!


相手は制圧に来た怪人と戦闘員だぞ?

恐るべき相手が来たのに、悲鳴ではなく、歓声があがるとは・・・今の子供は間違いなく間違っているはずだ!!

だが・・・民の声は・・・期待には・・・答えぬばならない!!


「そこで、期待に応えようと頑張る帝王様がなんだか、可愛いっすよ」


ぬるく見守るなぁっ!!


2体には愛想よく振舞わせ、その上で子供の嫌いな食べ物を食べさせてしまおうと考えたのだ。

事前に用意していた、ピーマンの肉詰めや、しいたけのスープを子供達に振る舞い、改めてピーマンとしいたけの恐ろしさを味わわせようとしたのだが・・・


「味あわせようとしら!

 どうなったっすか? 期待age☆」


よくわからぬ言葉を使うな・・・?


「そんなのはどうでもいいっす。

 それより続きっすよ、つ・づ・き!」


・・・何故か好評だった・・・


「やっぱりっすか!

 流石帝王様、期待を裏切らないっすねぇ」


リサーチでは、確かに嫌いな食べ物だったはずなんだが・・・

後でリサーチ担当の者にしっかりと話を聞いておかぬばな・・・


念の為、ピーマンとしいたけがたっぷりと詰まったハンバーグも振舞ってみたが、お代わりをする者続出だった・・・


「それ、嫌いな物を美味しく食べさせる定番っすよ。」


こうなったら、ヒーローは怪人よりも何倍もかっこよく登場させようと思った。


最大にかっこよいヒーローの登場・・・それは屋上から爆発と共に飛び降りる事だ!!


「や、それ、現実にやっちゃホラーっすから。」


もちろん実行させたとも。


「相変わらずのスルーっすね。」


そして着地時にも爆発を起こし、そのかっこよさをアピールする。



・・・・のはずだったのだが・・・


子供達は飛び降りたヒーローを、青い顔で見つめていた。

中には「化け物」と指差す者までいた始末・・・


何故だ・・・何がいけなかったのだ?


あんなにかっこ良かったではないか?


「もしかして、飛び降り自殺だとか、建物爆破犯に見えたんすかねぇ?」



爆破犯? それはありえ・・・

いや・・・まてよ・・・

子供の中には「化け物」と呼んだ者がいたのだよな・・・


そうか!!

そうかそうか・・・

やっと判った!!


ヘルメットの模様がいけなかったんだな!!

ふふ・・・ははは・・・はぁっはっはっはっはっは。

こんな簡単な物だったとはな。

早速デザインの練り直しだ!

もっとデフォルメしてかわいい仮面に作り変えれば、ヒーロー人気は不動のものとなるはずだ。


「て、帝王様・・・? たぶんおそらくそれは全く関係がないと思うっす・・・」


あとは爆発だ!!


爆発もよくなかったに違いない。


黒色の爆発など、事故と思ってしまう物な。

戦隊ヒーローの研究に不備があったのだ。

素直にここは謝罪しよう・・・


ヒーローの爆発は"カラフル"で"大規模"が必須だったな!!

煙が凄く、色もド派手!!


よし、この2点を改良すれば、明日からヒーローコールが鳴り響くぞっ!!


「や、違うと思うっす!

 方向性がおかしいっすよ?!」


これで悩みも払拭だなっ!!


よしっ、しこりが取れたところで、女幹部を連れてバーにでも向おうじゃないか。


はっはっはっはっはっは。


「・・・・・・ええと、まぁ・・・

 帝王様がそれで満足ならいいっすけど・・・

 たぶん、よりいっそう絶叫される未来が目に見えるようっす・・・」

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