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とある帝王様の暗躍

面白い。この国は実に面白いぞっ。



 我の趣味は惑星観察だ。


 その中でも最近のお気に入りは太陽系第三惑星。


 この惑星の日本とかいう国である。



 この国は本当に面白い。


 無論、未熟ゆえのちぐはぐさや目に余る部分も多々あるが、それはどの国でも同じ事。


 しかし、観察すればする程、色々な面白い物が見つかるというのは……。


 つい、多惑星の政治を学ぶのも帝王学の一環だ、という建前で何時間も観察し続けてしまう。



 そうして特に興味をひかれた点は、三つ。


 一つ目は、誰もがわずかの費用で病院に書かれる制度。


 健康保険とかいうようだが、これは素晴らしいアイデアだろう。


 二つ目は、労働者への待遇だ。いくら働いても生活ができない、という事がないように給金の最低額を決める。


 そして、階級にかかわらず能力次第でいくらでも上を目指せるシステム。


 文明レベルは我が星にまったく及ばないというのに、こんな制度があるとは……。


 惑星の美点は文明レベルだけでは計れないというが、まさにその通りだろう。



 そして何より秀逸なのが、ゲームである。中でもMMORPGというものだ。


 これを現実にリンクさせることができれば、実際の戦闘が必要なくなるのではないか?


 そうすると、今まで軍の維持にかかっていた経費で前の二つの制度が運用できるのではなかろうか。


 我が帝位を継いだら是非とも取り入れてみたいものだな。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 あれから十数年。


 やはりあの三つを取り入れたのは正解だった。


 我が帝位に就いてからの政策で、もっとも成功した物だと自信を持って言える。


 全ての労働者に最低賃金を保証し、これまでとは違い庶民達も実力次第で要職に就ける様になると、国民全体の向上心がかき立てられた。


 それによって実力のある者達が台頭してきたのは当然の結果だろう。


病院は最高限度額を設定したことにより、本当に治療が必要な者が医者にかかりやすくなった。


 そして何より、戦争で人が死ぬことがなくなった。


 日本の小説で見たVRMMOを元に開発したシステムを属国に配布し、武力行使の前にこれで戦うようにと命令したのだ。


 紛争自体をなくすことはできなかったが、武力衝突による死傷者を出すことはなくなった。


 まったく、日本様々である。



 だが、日本の観察は一つ困った事態を起こしてくれた。


 戦隊ヒーローというのは一体何なのだ。


 我の心を鷲づかみにして離さない。


 面白い。面白すぎる。


 我の中の何かが打ち震えておるぞ。


 けれどこの国を放り出すわけにはいかぬ。


 そう思ってずっと堪え忍んできたのだが、国が安定して我がいなくとも全てが滞りなく動くようになったところで心が爆発してしまった。



 我もこのようなヒーロー達を作りたいっ



 だが、我の願いには大きな問題が立ちはだかっておるのだ。


 ヒーローを生み出すのはいい。我が国にとっては何ら問題もない話だ。


 しかし、である。ヒーローを作った所で悪役がいなければ戦えないではないか!?


「悪役なしのヒーローとか、ただの怪しい人ですもんねぇ」


 いや、しかし我の心はその程度であきらめられる程ぬるくはないのだ。


「え、あきらめないんすか?」


 悪役がいないのであれば、悪役をも作ってしまえばいい。


 うむ。なんたる名案。


「や、それなんてマッチポンプ」


 一々うるさいのである。


 ちなみに、このうるさいのは日本について熱く語り合う相手ほしさに開発させた人工知能である。


 日本で言う所のいかにも悪役が飼っていそうな高そうな猫、を模したアンドロイドだ。


 性能が良すぎて、我が口に出してもいないことにまで律儀に突っ込みを入れてくるのが難点なのだ。


「いや、帝王様、あんた考えてること口からだだ漏れっすから」


 ぬあっ?! そ、そんな事はないのである。


「……ま、そういう事にしといてもいいっすけど」


 ともかく。悪役の問題である。


 我が悪役をやるのであれば、無論攻め込む先は日本でなくてはならないな。


「帝王様、それ、星間協定に触れるっす。この惑星、除名されちゃうんじゃないっすか?」


 ぬぅ……。


 確かに、発達途上にある星に直接手出しをする事は許されぬ。


 こっそりと手を出すのは禁じられておらぬが……。


「それ、星間会議で許可が出た場合だけっすよ。説得できるんすか?」


 我を誰だと思っておる?


 議員どもを言いくるめる程度、我にできぬはずがないわ。


 そうすれば……。


 くっくっく……。


「……すさまじく悪役笑いが似合ってるっすね……」



 通った! 通ったぞ!!


「……え、通っちゃったんすか……?」


 うむ。はやり資料としてヒーローものの映像を多数用意したのが正解であった。


 なにせ、我のコレクションを全て持っていったのだからな!


「それ、途中で見るの嫌になっただけじゃないっすかね?」


 うるさいのである!


 全部見せたかったが、三日三晩続いた所で最初は呆れておった上級議員達も夢中になって、大賛成だったのだぞ!


「俺が思うに、徹夜続きでナチュラル・ハイになってたんだと。

 恐るべし、徹夜テンション!」


 何を言うか。採決の時なぞ、議長から頼まれたのだぞ。


 戦闘をはじめとした全ての事柄を記録に残し、随時上映するように、と!!


 これは相当楽しみにしてくださっているということだろう。


「地元住民に与える影響の検証のためっすね。

 きっと、暴走しないよう証拠残させる意味なんすね。

 流石議長様」


 まぁいい。これで日本の東京都狛江市限定で侵攻できるぞ!!


「まぁた、えらくピンポイントな指定っすね?」


 そこであれば都市部に近いから人口もそれなり、かつ首都で一番小さな行政区分である。


 ならばこそ影響も最小限であろう。


 その為、随行員も三名までとされてな。


 少々厳しいが致し方あるまい。


 足りない人員は現地で雇い入れるとしよう。


 当面の予算は国庫の余剰金と我のポケットマネーをあわせて、日本円で約百兆円。


 これだけあれば充分だろうしな。


「……あぁ、もう、なんか計画はすっかりできあがってるんすね」


 もちろんである。


 随行させるのは、怪人を作り出すために遺伝子学者、怪我人を出すわけにはいかぬから最高の防具職人。


 最後の一人は空間技術者だ。


「空間技術者っすか? 武器職人じゃなく?」


 うむ。無関係な建物や人には一切被害を出さずにど派手な爆発エフェクトを出さねばならないからな。


 合体ロボやヒーロー達が協力して繰り出す必殺技の開発のための技術者を連れて行くことも考えたが、エフェクトの方が大切だからな。


 そちらは現地で雇うとしよう。


「……そっすね。エフェクトの方が大事ですもんねー(棒読み)」


―――――――――――――――――――――――――――


 素晴らしい防具が仕上がったぞ!


 悪役側は女幹部スーツと戦闘員スーツ、ヒーローにはヒーロースーツである。


 女幹部スーツは露出度の高い水着の様な服に、あれこれ装飾のついたブーツと肘まである手袋、更にマントである。


 ついでにいかにもなロッドも付属。


 色は黒が基調でアクセントに赤を使っている。


「いい感じに悪の組織の女幹部っすけど……。なぜ女物?」


 決まっている。遺伝子学者が女性だったのである。


 いくら我とて男がこんなものを着た所は見たくないのである!


 戦闘員スーツはもちろん、黒一色でやはり黒のマスクを装着。


 額に金で少しだけ模様をあしらった。


 うむ。どこからどう見ても悪の組織の戦闘員である!


「……ベタすぎてコメントもできないっす」


 ヒーロースーツの方は、狛犬をモデルとしていかにもヒーローっぽい装飾をくわえさせた。


 色は赤・青・黄・白・ピンク・黒の六色である。


「あれ? 戦隊ヒーローって五人なんじゃないっすか?

 一人分余っちゃいますよ?」


 一着は日本の科学者に研究させるためのものである。


 遙か昔からこの手の物語を作ってきた国の科学者だぞ?


 その想像力に我がもたらす予算とこのスーツに使われている技術が加われば、きっと素晴らしい装備を作り上げてくれるに違いないからな!


「後は条件に合う科学者がいるかどうかっすね。

 ちょっと楽しみになってきたっすねー」


 ふははっ。そうであろう、そうであろう。


 実は科学者にはもう目星をつけてあるのだ。


 怪人の開発はまだ報告がないが、日本の科学者にも研究の時間が必要だ。


 スーツも完成したことだし、そろそろ接触する頃合いだな。


 ふ、ふははははっ。


 楽しくなってきたぞ!


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 面白い科学者だった。


 あの目は必ず何かをやり遂げる者の目だ。あの男を選んだのは正解だったと思える。


 次はヒーローの選出だな。


 武道の心得があるのが第一条件で、それに加えて……。


 一人は熱血漢だな。暑苦しいぐらいがいい。かつ、正義感に燃えているとなおいいだろう。


 二人目はクールな男性だ。だが、クールすぎてはいけない、クールかつ仲間思いでなければならない。


 三人目は食いしん坊。無論肥満体型で、カレーは飲み物と言えるくらいであるのが望ましい。


 四人目は元気で明るい女性。もしくはマスコット的な女性でもいい。皆に元気を与えられる存在がいないとな。


 五人目は日本で言う所の大和撫子タイプがいいだろう。希望としては合気道に長けていて欲しい。ギャップも大切だからな。


「こだわりのメンバー、見つかるといいすね」


 うむ。せめて半数は見つかって欲しい所だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ……恐ろしい、恐ろしいぞ、日本!


「なんかあったすか?」


 聞いて驚け! 条件に合う人間が全員見つかったのだ!!


「っええっ?! まじすか?!」


 こうも簡単に全員そろうとは……。日本は人材の宝庫だな。


「……いや、あんたの強運じゃないすかね?」


 科学者からも開発は順調で、最終段階の実験が終了したと報告があったし、ヒーロー側の準備は完了だな。


 後は悪役側だけである。


 あと少し……。あと少しで……。


 ふふふ……。ふははははっ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 怪人完成の報告が入ったのはそれからしばらくしてからのことだ。


 充分な数ができてからの報告にしたせいで遅くなったようだが、そのできばえは素晴らしかった。


 クオリティは私の期待以上で、しかもそれが百体。


 要望通り同じ個体は存在しない。


 これは本当に素晴らしい。


 彼女を選んで本当に良かった。


 恥ずかしながらも女幹部スーツを着てくれるし、大抵の事はそつなくこなしてくれるのもありがたい。


「……や、スーツは命令でしかたなくのような……?」


 うるさいのである! 我は大上段から命令したことなぞないわ。


 これで後はヒーロー達を充分追い詰めてから、最後に返り討ちにあってくれれば理想通りだ。


 まずは定石通り幼稚園バスでバスジャックから始めるとしようか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 最高だ!! ブラボーっ!!


 一体だけ連れて行った怪人でヒーローをぎりぎりまで追い詰めておきながら、最後の最後で必殺技で敗れる!


 これぞ正しい悪の組織の怪人ではないかっ。


 必殺技の準備を邪魔しないしかけもうまくいったし、必殺技の使令もタイミングがばっちりだった。


 思わず敗北の報告に来た彼女を抱きしめてしまった程、我は興奮していたのだ。


 それにしても、困り顔の彼女は可愛かったな……。


 しばらくの間、一緒に過ごすのだ。ゆっくりと口説くのも悪くないな。


「……っ?! 最後は色気に走るっすか?!」


 ふっふっふっふっふ……。


 今、我は全てにおいて充実しておる。


 これからが楽しみだ!!

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