とある戦闘員の就職事情
この作品は妄想箱にも入っていなかった新作となります。
悪の組織“戦闘員募集”!
何事にもくじけない心を持ったあなたをお待ちしています!
雇用形態:契約社員もしくはアルバイト
時 給:3,000円~
業務内容 ①戦闘業務
②研究業務
③建物管理
待 遇:社補完備・交通費支給・寮有・正社員登用制度有
業務内容によって時給変動あり。達成手当て有
時間応相談
応募方法:事前連絡の上、○月×日18時 京王線仙川駅ロータリー集合
なお、事前連絡はグループ代表者も可。
連絡先:有限会社悪威蔵・帝王090-1111-1111
……なんだこりゃ?
同じゼミの友人が差し出したチラシを見た感想がそれだった。
悪の組織で社補完備とかどんな冗談だよ……。
どうやって健康保険やら年金やら加入したんだ?
その上、こんな番号本当にあるのかよ? 一ゾロとかありえないだろ。
しかも担当者が帝王? 有限会社悪威蔵って、どこの蔵元だよ?
突っ込み所が多すぎて、どこから指摘したらいいのか悩ましい。
「なんなんだよ、これ?」
結局、芸のない切り返しをするしかなった。
「お前、いつも割の良いバイト探してただろ?
これはおいしいと思って持ってきてやったんだよ」
にんまりと笑った友人は、俺の目の前でチラシをひらひらとなびかせる。
「おいしいっていうか、これはやばい部類だろ」
眉間にしわを寄せて言うと、しかし意味ありげな笑みが返ってきた。
「と、思うだろ?」
「違うのか?」
「いやぁ、あまりにも馬鹿げてて面白いからからかい半分で電話してみたんだよ。
――もちろん、公衆電話からな」
うん、こいつは面白がりだけどおさえてるな。
いくら非通知にしたって通話記録は残る。
自分の携帯なんて使うもんじゃないだろう。
「そうしたらさ! まともに壊れてる人がマジで帝王とか名乗ってんだよ。
けど、発想がすんごく面白いんだ。
んで聞いてみたらさ、戦闘業務だとなんと時給六千円から!」
「まじかっ?!」
予想外の金額に思わず叫んでしまった。
「しかも、絶対に身元は割れない、多少危険があっても絶対に怪我はしないって保証付きだそうだ」
「……それ、逆に怪しくないか?」
思わず首を傾げるが、友人は気にした様子もなく俺の肩を軽く叩いた。
「そんなわけで、二人分応募しといたから」
「……おいっ?!」
「このチラシ通り、今日の六時に現地集合な。
履歴書はいらないけど、動きやすい格好でくるようにってさ。
――っと、そろそろ次の講義の時間だ。んじゃ、また後で」
言うだけ言って反論を挟む隙を与えずに去っていく友人。
「……人の話は聞けよ……。
――ったく、しょうがねぇなぁ」
ため息をついて頭をかく。
普段ならこんな怪しい求人広告、見向きもしないんだが……。
あいつは面白いことを見つけてくる事にかけては天才的だ。
誘いにのらないで後悔したのも一度や二度じゃないしな。
……しかたない。今日の合コンは断るか。
「おっ、来た来たっ。こっちだこっち~」
駅の改札を出た所で友人が手を振ってくる。
ったく、憎めない奴だ。
「すごい人だな? こんなに混む駅なのか?」
辺りを見回すまでもなくそこらじゅうに人がいて、しかも流れていかずに立ち止まっている。
「多分これだよ」
言いながら友人がチラシを取り出すと、確かに周囲から視線が集まるのを感じた。
……なるほど。
何人採用になるのかは知らないけど同じ事を考えた奴がこれだけ沢山いるってことか。
まぁ、本当に雇われてみるかどうかはわからないからなぁ。
それに明らかに体力のなさそうな奴や女性も混じっているから、全員がライバルってわけでもないだろう。
募集もデスクワークっぽいのあったしな。
そのまま友人と他愛のない話をしていると、六時のチャイムと共に二台のバスがロータリーに現れた。
ラッピングなのか違うのか、側面にはデザイン化された筆文字で『湯処・悪威蔵』。
黒地に白で文字を抜いたセンスは悪くない。
悪くないんだが……。ネーミングが全て台無しにしてる感がぬぐえないな。
「……あれか?」
念のためにバスを指して確認すると、友人が弾んだ声を返してくる。
「風呂に入ってくつろぎながら面接を受けろって心づもりかな?
そうとわかってりゃタオルとか着替え持ってきたのになぁ」
……のんきなもんだ。
話していたせいで少し出遅れたからか、バスには長蛇の列ができてきた。
全員乗れるんだろうか、と少し心配になってくる。
「移動時間は短いですので、座席に座れなくとも大丈夫です。
詰め合わせてできるだけ大勢お乗り下さい。
そうすれば全員乗れるだけのバスをご用意しております」
こっちの心配を読んだかのようなアナウンスを、最初にバスから降りてきた黒いスーツの男が何度か繰り返す。
なるほど、バスを用意する都合で事前連絡が必要だったのか。
「全員乗れるなら焦る必要はないよな」
「だな」
同じことを考えた友人と、短い会話で最後のバスにしようと決めた。
時間つぶしにバスに乗り込んでいく連中を観察してみると本当に色んな奴がいる。
俺たちくらいの若いのもいれば、リストラされたのかと言いたくなる風采の上がらないおっさんがいる。
いかにもデスクワーク専門って雰囲気の知的なお姉様がいるかと思えば、どう見ても某職業しか思いつかないような強面連中もいる。
いかにも肉体労働大歓迎、筋肉の名称を叫びながらポーズ決めてそうなマッチョな兄ちゃんの後ろにはいかにもな女子高生の集団が。
まわりから見たらかなり怪しい集団だろうなぁ。
中にいてすら充分すぎる程怪しく感じるし。
けれど、集団から話を聞いて飛び込みで参加したいと交渉を始める奴まで結構な数出ている。
本当にバスが足りるのか、と困惑し始めた所で満員になっていたバスが一台発車した。
「近いので、向こうで人を降ろしてバスが戻ってきます。
全員間違いなくお連れしますが、飛び込みの方は最後のバスまでお待ち下さい。
事前に申し込みをされている方、お先にご乗車ください」
良いタイミングで黒服のアナウンス。
臨機応変、いい対応じゃないか。
……黒いスーツに黒いサングラスってのが胡散臭いのをのぞけば信用できそうな雰囲気だな。
結果、俺たちは二台目のバスの最後の方に乗った。
残りの人数からするに後一台、ラッシュ時並に詰め込めば全員移動できるんだろう。
走り始めたバスは五分程で地下駐車場へ入った。
その時、目眩のような、下りエレベーターに乗った時の浮遊感というのか、なんとも言い難い違和感があった。
尋ねてみようと友人に視線を送ると……首を傾げられた。
何も感じなかったってことか。
……俺の気のせいかとも思ったが、まわりを見ると他にも不思議そうに首を傾げたり辺りを見回している人間がいる。
そのうちの一人と目があった時、理由はわからないが気のせいじゃなかったと確信する。
一体何なんだ?
しかし、それ以上考えるよりも早く、バスが止まって人が降り始める。
流れに乗って動かなければ邪魔だし転んだらみっともない。
降りてみるとやけに広い地下駐車場には人人人人人人人……。
二~三百人はいるんじゃなかろうか。
振り返ると同じバスが駅前に来ていたよりずっと多く停まっている。
……集合場所はあそこだけじゃなかったってことか?
一体どれだけの範囲にチラシを配ったんだ、この会社……。
「ん? なんか集まれってさ」
ぼんやりしていた所を友人につつかれて我に返った。
確かに、人が何となくより始めてるな。
俺たちもそっちによると、例の黒服が手分けをして封筒を配りはじめた。
どういう基準なのか、一人ずつ数秒をかけて頭からつま先まで観察した結果、封筒を渡される奴と渡されない奴がいるのだ。
そして、渡された奴はバスよりの位置に、渡されなかった奴はドアがある壁よりにと、誘導されている。
どっちになるのかと思っていたら、俺と友人は何も渡されなかったんで壁際による。
「ばらけなくて良かったな」
「だなぁ」
一人だけ残るのも嫌だけど、一人だけ帰るのも微妙だ。
そう思っていたのは友人も同じだったらしい。
「むこうは百人くらいいるのかな?」
「もうちょっといるかもしれないぞ」
正確な人数がわかる訳じゃないけど、ざっと三分の二くらいは封筒をもらったんじゃなかろうか。
……ん? 強面のいかにもな人達はほぼ全員むこうに行ったみたいだな。
などと観察しながら考えていると、いつの間にか俺たちと封筒組の中間当たりにでっかいスクリーンが設置されていた。
そこに映し出されたのは、見た感じ三十過ぎくらいのかなりの美形だった。
しかも全身がおそらくは百五十%サイズで……。
白人系の顔立ちで映画で主役が張れそうなレベル。
この大きさで見てもあらが目立たないのはすごいけど、ちょっとひく……。
集団の中からミーハーな歓声が上がるし、派手な服で額には双角の飾り。
一瞬、ビジュアル系のバンドの人かと思ったのは、俺だけか?
隣を見ると友人は何とも妙な表情だった。
……こいつ、笑いを堪えてやがる。
歓声が一段落すると、その人はいかにもな芝居がかった仕草で優雅な礼をした。
「本日はお集まりいただき、感謝している。早速で悪いが、封筒を渡された諸君」
と、ここで一瞬のため。
「君らは残念ながら不合格だ。
封筒に二時間分の報酬を入れておいたので、帰りのバスに乗っていただきたい」
一方的な言葉に理解が遅れたのか、一瞬の間を置いて辺りがざわめく。
「な、納得いかねぇ!」
強面の一人が叫ぶと、そこから不満げな声が広がっていく。
うるさいわめき声で耳が痛くなりそうだ。
「落ち着いていただけるかな? でないと無理矢理静かにしていただく事になる。
――十秒以内に静まってくれたまえ」
聞き入れられないと思ったのか、スクリーンの中で男が意味ありげな間をとって宣言した後、スクリーンが切り替わる。
でかでかと表示された数字のカウントダウンが始まった。
……4
……3
封筒組を取り囲むように何本か金属製のポールが床からせり上がってきた。
なんだか嫌な予感がするんだが……。
封筒組の騒ぎはまったく収まる気配がない。
それどころかポールを見たせいで余計酷くなった気もするが、カウントダウンはとまらない。
……2
……1
スクリーンの表示がゼロに成った瞬間、ポールが一瞬だけ光る。
と、封筒組がばたばたと倒れた。
「なっ?!」
これには残りの俺たちから声が上がる。
「安心してくれたまえ。これは地球で言う所のスタンガンだ。
後遺症や火傷などがないよう、出力は抑えてあるし、五分もすれば気付くだろう」
しかし、スクリーンに再び現れた美形の言葉に声はすぐに静まった。
本当、一瞬聞き惚れちゃうくらいいい声だよなぁ。
「残った君たちは希望者ということで問題ないかな?
興味半分や冷やかし、付き合いという方は封筒を受け取ってバスへ乗り込んで欲しい」
言葉を受けて、残った連中の半分くらいが封筒を持った黒服の方に移動しはじめる。
バスには黒服達が気絶した連中を積み込み中だ。
……あの状態の連中と一緒のバスで帰るのも嫌だな。
「お前、帰りたくないよな?!」
聞かれて友人を見ると……。
ここで帰るとか言ったら友人をやめられてしまいそうな、きらきらした目で聞かれたら返事は一つしかないだろう……。
「……いや、なんかここで帰るのも気になるし」
すごく乗り気なわけでもなかったんで曖昧に応じる。
そんなやりとりの間にも帰る人間は皆移動し終わっている。
もう、ひくにひけないな……。
「さて、残ってくれた諸君は希望ごとに並んでいただきたい」
美形の言葉に従って、黒服が三人プラカードを持って並ぶ。
右から順に戦闘業務、研究業務、管理業務、だ。
友人は俺を引っ張り、研究業務の所に並ぶ。
まぁ、確かに俺たちはバイオ科学専攻だし、研究でも大丈夫そうだよな。
「ふむ……。戦闘が二十三人、研究が七人、管理が六人か。
ひとまず基礎体力を診させてもらいたいので、測定室に移動していただけるかな?」
言葉にあわせて戦闘業務の黒服が歩き始めたので、順番にぞろぞろと移動する。
移動中、先に部屋に入った連中がなにやら驚きの声を上げているのが聞こえた。
一体何なんだろうと思いながら部屋に入ってみると……。
「まじかーっ?!」
「うっひょー! すげぇっ」
俺と友人も思わず声を上げてしまった。
三フロア分は間違いなくぶち抜いてありそうな天井の高さ、広さは体育館を軽く越えそうだ。
そんな部屋にでかでかと鎮座していたのは、縦横無尽、見るからに殺人的高難度のテレビで見てあこがれていたあいつ!
まさにHATTORIじゃないか!
でも何でこれがあるんだ? もしかしてテレビのびっくり企画だったんだろうか?
最初の驚きの後に感じた疑問に答えるように、この部屋にもある例のスクリーンに美形の姿が現れた。
「これは日本の文化を勉強していた時に知った、基礎体力測定装置だ。
――諸君らの反応見た限り、……再現成功のようだな」
美形さん、渾身のドヤ顔である。
隣に視線を向けると、友人もこっちを見ていた。
そして視線が絡む。
――だよな?
――お前も思うよな?
視線だけでその問答がかわされ、俺たちは同時に吹き出した。
馬鹿だっ! この人馬鹿すぎる!!
これが基礎体力測定装置とか、どんだけ勘違いしてるんだよ!
だけど、面白い。
こんな、全力で突っ走る人の下で働けたら楽しそうだな、なんて思ってしまうじゃないか。
「これで諸君の基礎体力を測定させてもらう。
必須なのは戦闘業務志望者だけだが、他業務希望者も受けてくれてかまわない。
――あぁ、服のクリーニングとシャワーの用意はさせてもらった。
心置きなく挑戦してくれたまえ」
その言葉に、部屋に移動してきたほとんどの人間が並ぶ。
並ばなかったのは、見るからに運動が苦手そうな連中――試さなくても開始早々脱落だろうと予想できる数人だけだった。
のりがいいのか、まだそれなりに残っている女性もほとんど並んでいる所を見ると、みんなこのセットに心奪われた同類って事なんだろう。
「俺は壁登りでつんだ。お前は?」
「第二ステージの途中まで行けたぜ。あのスプーン、触れてないと思ったんだけどなぁ」
時間の都合か、前の人間が一つ課題をクリアして進む度に次の人間が、というようにやっていたので、終わって合流してから成果を自慢しあう。
そこかしこで話しているのを聞く限り、ステージ三まで進んだ猛者はいなかったらしい。
うぅん……。このHATTORI、もっと練習したらもう少し行けそうなんだよな。
再挑戦する機会があればいいんだけど。
などと、少し名残惜しい気持ちでいると……
「どうやら全員終わったようだな。
この装置は訓練用として残しておく予定だ。採用された諸君はいつでも好きに使ってくれたまえ」
「おおっ?!」
美形さんの言葉に歓声が上がる。
やばい、本気でここで働きたいっ。
給料はいいし、上司は面白い人だし、HATTORI挑戦し放題!
最高の職場じゃないかっ。
「では、最後の説明に入ろうか」
この一言に室内が静まる。
いつの間にか、みんなここで働きたいって思っているから自然と美形さんの指示に従っているんだ。
「これからの説明を聞いて不服のある者は封筒を受け取って帰って欲しい。
時間も少々かかっているので四時間分の時給を支払わせてもらう」
太っ腹な発言の後、こちらを見回してためをとった後、美形さんは重々しく口を開いた。
「我々は世界征服を目指している」
……はぃぃぃ?!
予想外に過ぎる一言に思わず目を見開いたまま硬直してしまった。
ゆっ、有限会社が世界征服っ?! まじで?!
株式会社ならまだしも……って、そんな問題じゃないだろう、俺?!
有限会社だろうが株式会社だろうが、個人商店だろうが、世界征服はないだろ?!
つーか、征服するのに組織の人員現地調達とか間違ってないか?!
「目的達成のためには多少強引な手段を選ぶこともあるが、人を傷付けることは許さない。
征服がなった暁には我が民となるのだから、どのようなことが起ころうと、たとえそれが敵対する相手だろうと、だ」
……あれ? なんか結構穏健派?
「特に女性と子供、お年寄りが近くにいて巻き込まれそうな時は必ず全力で庇うこと。
これは何よりも優先される指示である」
……さりげ成人男性差別ですよ、美形さん……。
「その任務のため、採用者全員に『戦闘員スーツ』を支給する。
このスーツは核兵器クラスの武器の直撃を食らった所で着用者には何ら影響を与えない。
――では実演させていただこうか」
言葉と共に黒服と黒い人影が室内に現れた。
いや、比喩でも何でもなく黒い。
全身真っ黒で、黒いマスク。でこにちょっとだけ金色の模様がある以外は、ブーツもグローブも真っ黒。
「……どこの悪の組織の戦闘員だよ……?」
「……ここの悪の組織の戦闘員だろ?」
友人の呟きに思わず突っ込みを入れる。
漫画だったらここで、頭の上からでっかい汗がひとしずく落ちてくるんだろうな。
「有限会社悪威蔵って……、やっぱワルイゾー……?」
「それっきゃねぇだろ」
近くから聞こえてきた会話に思わずこけそうになる。
やっぱそう読むんだろうなぁ……。
なんとなく気怠いざわめきの中、床から透明な板がせり上がってきて俺たちと戦闘員の間を仕切る。
何が始まるのかと視線を戦闘員達に戻すと、黒服がなんかでっかい筒のようなものを担いだ。
……なんだ、あれ? テレビとか映画で見たことがある気もするけど……?
「…………もしかして、ロケットランチャー?」
海外のど派手なアクション映画大好きな友人の声にぎょっとして目をこらすと、確かに映画とかで見るその手の武器そっくりだった。
「発射三秒前」
美形さんの冷静な声にみんなが思わず戦闘員を凝視する。
けれど、当の本人はなんだかちょっとだらけた風に立っているだけ。
あ、今口元?に手をやったの絶対あくびだ。
余裕だな、おい。
なんて思っているうちにカウントダウンが終わっていたのか、戦闘員に砲弾が直撃して爆風と煙に包まれた。
「…………」
俺たちが呆然としている間にも、空調がフル稼働してるのかすごい勢いで煙が排出されていった。
そして、数秒後には相変わらずだれた風に立っている戦闘員。
にへらと笑っているのが想像できる、軽い仕草で手を振ってくるおまけつき。
まじでまったく影響ないのか……。
「『戦闘員スーツ』の性能は見ての通りだ。
無論刃物も通さないし、これの着用で諸君の身の安全は保証される。
身元が判明して家族や友人に迷惑がかかることもないと約束しよう」
……あぁ、うん。こんなすんごいスーツ持ってたり、体力測定のためにHATTORIを完全再現しちゃうような人が言うんだから、そういう心配もないんだろうな。
理由になってるのかいないのかはわからないけど、妙に納得できてしまう。
「その他、重要な規則が一つ。
戦闘員スーツ着用中は『イーッ!』以外の言葉を口にしてはいけない。
違反は減給に繋がるので充分注意してもらいたい」
ま じ で す か ?
無断欠勤や遅刻ならまだしも、それが重要事項ですか?
一番最初の通達がそれですかっ?!
すっかり混乱してしまった俺の耳に、その時とある一言が滑り込んできた。
「……この人、戦隊ヒーローものを現実で再現しようとしてるのかしら?」
それは、たまたま近くにいた知的美人さんが、思わずと言った体でこぼしたつぶやきだった。
しかしその言葉に俺を含む周囲の人間が声をそろえて叫んだ。
「それだぁっ!」
誰しもが子供の頃に一度はあこがれた戦隊ヒーロー!
それをリアルに再現しようとする猛者がここにいたのか!
自分がヒーローじゃないのは少し惜しいけど、そんな器じゃない、と自覚しているのも確か。
それにこの美形さんの行動力と面白さを見た限り、絶対この人、ヒーローのあてもある。
というか否かったら自分で作り上げるだろう、きっと。
ここで一枚かめばリアル戦隊ヒーローに参加できるのには違いない。
こんな面白そうな機会、今を逃したらもう二度と巡ってこないぞ。
「……やるよな?」
「もちろんだ!」
友人の問いに力一杯うなずく。
こうして俺と友人の戦闘員生活が始まった。