とあるヒーローの出会い
はぁ~、またやっちまった・・・
俺の足元には4人のごろつきが倒れている。
「あ・・・あのっ、ありがとうございます。」
目の前で深々と頭を下げる少女。
この少女がごろつきに無理やりナンパをされていたのが5分ぐらい前だ。
駅前の広場の一角。
電車から降り、道場へ向かう途中ふと目に入る集団が居た。
清楚なワンピースを着た女性が、4人の男性に声をかけられている。
「連れを待っているので。」
断る声が聞こえるが、4人組の方は気にしたそぶりも無い。
相手は強引なナンパ男だ。
道にライトバンが止まっている事から、無理やりにでも車に詰め込むつもりだろう。
そんな面倒事にかまうような奇特な人間はおらず、このままだと少女は連れ込まれるな。
その後は・・・まぁ、想像する必要も無いだろう。
ここに奇特な人間が居るのだからな・・・
「俺の女に何してるんだ?」
面倒事になる事は判っているが、見過ごす事ができないのが困った癖だ。
友人の中には『正義かぶれ』と言ってくる口の悪いものも居るが、見てみぬ振りするよりはましだ。
「何って、声かけてるんですけど~?
男は邪魔だからお家に帰ってな。」
一応、実践空手の有段者で、大抵の男は俺を見ると逃げ出すんだが・・・
今回のナンパは一筋縄でいかなそうだな。
ナンパ4人はポケットからナイフを取り出すと、見せびらかすようにぎらつかせている。
「帰るつもりは無い!!」
でこうなった訳だ・・・
すぐ熱くなるのは俺の悪い癖だな・・・
次はもう少し穏便に収められるよう気をつけよう。
おっと、少女を無視したままになっていたな。
「いや、こっちこそ助かったよ。
良い動きだった、何か武道を嗜んでいるのか?」
少女は顔を赤くしてうつむくと、
「合気道を少々・・・」
なるほど。
身体の心がブレない佇まい。
襲ってきた相手を一瞬で投げ飛ばした技。
相手を立てるが、垣間見える芯の強さ。
こんな可憐な少女が達人クラスとはねぇ・・・
熱い!!熱いなぁ!!
「あのっ!!お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ふむ、彼女も俺の動きに武道の血が騒いだか?
だが、俺は稽古と言え女性に手をあげる趣味は無い。
せっかくの申し出だが、空手と合気。しかも女性相手では出稽古をする訳にもいかないな。
「また会う機会もないだろう。気にするな。」
それだけ言うと、その場から立ち去る。
友人を待っているという話だ。すぐに合流できるだろう。
あのような強引な男共相手でなければ、彼女が遅れをとることも無いだろう。
それに、合流時に俺のようなむさくるしい男が側に居ては、彼女が良くとも友人が気後れする。
ならば俺は退散するに限るのだ。
胸の奥が少々うずくが、ポリシーを曲げてまで手合わせを挑む訳にもいくまい・・・
「あのっ・・・ありがとうございましたっ!!」
鈴の音のような声が耳に心地よかった。
今日は朝から気分が良い。
まずは組み手20人からだな。
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ふぅ、まだドキドキしています。
とても素敵な方でした。
友人は「貴方なら白馬の王子様が本気で現れるかもね。」とよく言いますが、あの方なら・・・
服装は小ざっぱりとしたシャツとチノパンでしたが、武道一筋というオーラがあり、とても好感を持つことが出来ました。
まさか私が、男性にお名前をうかがう日が来るとは思っても見ませんでした。
自分でもいざと言う時は行動力があるんだな。と感心しております。
あ、まだ頬が熱いですね。
あの子はまた遅刻のようですし、少し冷たい飲み物でも買ってきましょう。
近くに会った自販機で【いろはっス】を購入し、頬を冷やしつつ飲んでいると、向こうから1人の少女が駆けて来ました。
ショートパンツにタンクトップ、元気一杯の女の子です。
「ごっめ~ん、待たせちゃった?」
「待たせちゃった?ではありませんよ。
お陰で大変な目に会ったんですから。」
「え?なになに?何があったの?
大変って言う割には嬉しそうだけど?」
どうやら先ほどの気分がまだ抜けていないようでした。
ですが、この子は反省するつもりが無いようです。
だからと言って憎めない性格もあり、いつも流してしまうのですが。
私は先ほどの事件を話して聞かせました。
「へぇ、凄いね。
今時そんなかっこいい人いないんじゃないの?」
「ですよね!!」
友人の意外な肯定に嬉しくなってしまいました。
「でも残念~。連絡先教えて貰えなかったのは勿体無かったね~。
男嫌いを直す大チャンスだったのに。」
「男嫌いではありません。
お父様以外の男性と接する機会が無かったので、接し方が判らないだけです!!」
「それもどうかと思うけどなぁ・・・」
確かに私も直さなければと思ってはいるのですが・・・
「でも、もう一度その人と会える良いね?
今度会えたら偶然じゃなく必然ってことで、猛アタックしなきゃ駄目だよっ!!」
猛アタック・・・
「あっ、赤くなってる~♪」
「なってません!!」
このままだとこの子の調子に巻き込まれて、色々しゃべってしまいそうです。
こういう時は、元々の話題を振れば・・・
「それよりも、彼の誕生日プレゼントを選ぶのではなかったのですか?」
「そうだった!!
遅くなっちゃう。ゴメンねっ、すぐ行こう!!」
ふふふ、何とかごまかすことが出来ました。
でも・・・もう一度会うことができたら・・・
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「ありがと~、お陰でプレゼントを選ぶことが出来たよ。
ホント助かる~♪」
「それは良かったですわ。彼に喜んでいただけると良いですね?」
今日は良い日だ!!
ちょっと朝に寝坊して友達を待たせちゃったけど、全然怒ってなかった。
それどころか、男性に免疫の無かったこの娘が気になる男性が出来たとか!!
これは応援するしかないよね?
知ってる限りではこの娘のノロケ話なんて始めてだもん。
それにノロケ話してる時のこの娘はすっごく色っぽかったなぁ~。
この表情を見せれば、どんな男性だってイチコロだよ!!
ボクの一番の友人だもん、絶対に幸せになってほしいもんね。
もう一度会えると良いけど・・・
特徴は聞いたし、こっそり探してあげるのも良いかもしれないな♪
プレゼントのほうも大成功だった。
やっぱりこの娘に頼んだのが良かった!!
彼が時々呟いていた単語だけで、その本を見つけてくれるなんてっ、人間図書館の異名に恥じないよねっ。
あ、でも人間図書館っていうと怒るから口には出さないけどねっ♪
しかもっ、しかもねっ!!
最後の一冊だったんだよ~。
後から来た人が「ここにも無かったかぁ。もう10件目だよ・・・」って残念がっていたし、相当運が良かったってことだね♪
プレゼント用の包装を頼むと、友人が声を掛けてくる。
「この後、ちょっとだけ本を眺めていてもいいかな?
この本屋さん、面白いラインナップが多くて・・・」
うん、この辺は想定済。
もちろん、この娘のちょっとが1時間以上かかるって言う事もね。
「いいよ、その間に私パフェ食べて来るね♪」
なので、私はいつも通り時間を有効に使えるよう、デザートの美味しいお店をピックアップしていた。
「ええ、ありがとう。
それじゃ、終ったら連絡入れるね?」
友人は♪を頭から飛ばしながら本の山へ消えていったので、私はパフェを食べにアーケードを歩いていった。
「いらっしゃいませ~。」
「私チョコバナナサンデーで。席はここで良いかな?」
事前に調べていたこのお店のお勧めメニューを頼んで、空いていた席に座る。
ふぅん、男の人も多い店なんだ。
中は20席ぐらいの小さなカフェだったけど、ほぼ満席。
2人掛けの席が開いていたのは運が良かったみたい♪
周りには、1・・・2・・・3・・・4人の男性客も居るみたい。
「スペシャルジャンボバケツプリン、お待たせしました~♪」
でかっ!!
まさしく、店員さんがバケツを持って歩いている。
何人で食べるんだろう?
・・・1人!?少し大柄な男性の人だけど、1人であの量を食べるの!?
大きなバケツには、フルーツと生クリームと口やすめのウエハースなどがどっかり乗っている。
さすがに私でもあの生クリームだけで胸焼けしそうだよね・・・
「いただきます」
男性が合掌し、透き通るような美声で言うと、猛然と食べ始めた。
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ふぅ、美味しかった。
さすが噂に聞いていた「スペシャルジャンボバケツプリン」でした。
お腹一杯だぁ。
もう飲み物ぐらいしか入らないや。
だけどこの店のチャレンジメニューはホント美味しかったな。
ただ大きいだけでなく、中にクッキーやジャムを挟んだり、味が混ざってぼやけてしまわないよう、様々な工夫がしてありました。
女性向けのお店でしたが、これからも通いたい美味しさですね。
ただ・・・ずっと見つめている女の子にはちょっと困ってしまいましたね。
食べている間中ずっと、音がしそうな程思い切りこちらを見ているのですから。
10分ぐらいで完食した後もじ~っと見ていたので、にっこり笑ってあげると、
大きな声で「何で!?」と連呼されてしまいました。
何でといわれても、食べられるのですから答えようがありません。
その辺は申し訳なかったですね。
ですが、少女から
「ボクが知ってる店で、中華のチャレンジメニューを置いてある店を知ってるんだ。
そこって、誰もクリアしたことが無いから、試してみない?」
という情報を得ました。
今度一緒に行くと言う条件で、お店に連れて行ってもらえることになったので、素敵な縁でしたね。
さて・・・と飲み物でも飲みに行くとしますか。
時間は・・・うん、このぐらいならまだ大丈夫ですね。
駅ビルを出て、商店街のカレー屋さんを目指していると、スマホが鳴り出しました。
プルルルルッ
プルルルルッ
バックからスマホを取り出すと、表示されている名前は珍しい友人からでした。
なんでしょうか?彼が電話をくれるとは珍しいですね。
「はい、こんにちは。」
「悪いな、今大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
「そうか。今何所に居る?」
「場所ですか?仙川の商店街ですよ。」
「判った。近くに居るから合おう。」
「目印ぐらいは聞いてもいいかな?」
「今日は青いジャケットを着ている。」
ぶつっ・・・ツー・・・ツー・・・ツー
相変わらず、端的な方ですね。
ですが、この細い路地では判り辛いでしょう。
駅ビルに戻って、彼を探してみるとしますか。
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電話を切ると周囲を見渡す。
あいつの事だから食べ物系の店近くだろう。
駅ビルから入ってみるか・・・と思ったら居た。
他人に比べ、頭1つ以上抜き出ている身長。間違いなくあいつだな。
「休日に悪いな。」
「いえいえ、食事を楽しんでいただけですから、大丈夫ですよ。
でも君が電話を掛けてくるとは珍しいですね?
何かあったのですか?」
「ちょっとな。
立ち話もなんだ、飲み物でも取りながら話そうか。」
「じゃ、ちょうどここのカレー屋さんに行く所だったので、一緒にどうですか?」
「飲み物・・・といったと思うが・・・
まぁいい、行こうか。」
「ええ、カレーは飲み物ですよ?」
「さて、そろそろ良いかな?」
友人が2皿目を半分まで食べて一息ついたので話しかける。
「ああ、あいつが珍しく気になる女性を見つけたらしくてな。」
「えっ!?あいつが!?」
「・・・驚きすぎだ。」
顔に飛んできた米粒を拭く。
「いや、あいつが色恋だなんて、初めてじゃない?」
「ああ、だから相談した。
どうだろう、相手の名前も年齢も顔も知らないが、あいつの恋愛を成就させる為、協力してくれないか?」
「もちろんだよ!!
あ、おかわりお願いしま~す。」
「ありがとう、お礼に今日の代金は私が持つよ。」
「おぉ、悪いね。
じゃ、今頼んでいるのまでで良いよ?」
「珍しく遠慮するんだな?」
「さっき、一杯食べたからね♪
それにいいお店を紹介して貰えることになったから、嬉しくて。」
「そうか。」
席を立ち、伝票をつかむと外にでようとする。
が、1人の白いスーツの男に声をかけられる。
「大変申し訳ございませんが、お話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?
申し送れました、私、こういう者です。」
差し出してきた名刺には、
【正義の味方 後援事務所 会長 ШЯゞж☆】
と書いてあった。
「読めんぞ?」
「ありゃま、申し訳ない。
この星では発音不可能な文字だったみたいですね。
ここの支払いは全て持ちますので、何とか話だけでも聞いてもらえませんか?」
胡散臭い誘いを断ろうと、口を開きかけた所で男が動いた。
何をするのかと思いきや・・・いきなり土下座と来たか。
根性があるのかないのか、どちらなんだ?この男。
しかし、店の中でこれはあまりに目立つ。
まわりの客にも迷惑だし、連れがいるのに悪目立ちするのもな・・・。
「仕方ないな・・・友人と2人だが良いか?」
「もちろんです。
ご友人にも同様にお話がございますので。」
「なら、カレーあと5皿いいかな?」
こうして友人と2人でこの胡散臭い男の話を聞くことになった。
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白いスーツの男に案内され、5人の男女がモニターのある部屋へ入ってくる。
「あっ、君は・・・」
「貴方は・・・」
チノパンの男性とワンピースの少女は顔を合わせると驚いた表情をした。
男性は笑顔に、少女は頬を赤くして。
「えっ!?もしかしてこの人!?」
タンクトップの少女は2人を交互に見ると、奥に居たもう一人、青いジャケットを着た男性に目を留める。
「あれっ、何でこんな所に居るの?」
「君こそなんで?
それにその手に持っている本はもしかして・・・?」
「あっ、ううんこれはまだナイショ♪」
更に後ろでは大柄な男性が2組の男女をほほえましく見ている。
すると、モニターが移り、一人の男性が姿を現す。
「今日は集まっていただき申し訳ない。
そして、正義の味方を請け負ってくれ、感謝を述べさせて貰おう。」
男性の言葉に5人はお互いを顔を合わせる。
「これから君達の為に作成したヒーロースーツを配布させていただく。
通常は腕時計の状態になっていて、変身するときに、指定のセリフとポーズを決めると、装着される仕組みになっている。」
すると、5人の男女の目の前の床がせりあがり、腕時計の乗った台座が現れる。
「お互いの呼び方もその腕時計の色に合わせて統一して貰いたい。良いかな?」
渡された腕時計はそれぞれ、、
チノパンの男性は赤色
青いジャケットの男性は青色
大柄な男性は黄色
タンクトップの少女はピンク
ワンピースの少女は白色
「えっと、俺はレッド・・・ていう事か?」
「となると、俺はブルーか。」
「私はイエローと言う事ですね。」
「ボクはピンクだね。」
「私わたくしはホワイトですか。」
5人がそれぞれ腕時計をはめ、自分達の呼称を確認しあうと、モニターの中の男性はしきりに頷いている。
「それで良い。
これから困難な事や、大変なことが怒るだろうが、5人力を合わせて頑張って貰いたい。」
「「「「「はいっ」」」」」
「では明日に、君達の司令を行う男性を紹介するので、また来て欲しい。
来る時は腕時計を今日入ってきた場所にかざせばここにこれる仕組みになっている。
それでは、ヒーロー達よ、この世界は君たちの肩にかかっている。
くれぐれも怪我をしないように気をつけつつ、頑張ってくれたまえ!!」
「「「「「はいっ」」」」」
こうして、東京都狛江市を守るヒーローが誕生したのである。