とある天才科学者のやる気
素晴らしい……
何が素晴らしいかって?
それはこの【粒子砲】という長官から与えられた武器と、【戦闘服】というこれまた与えられた防具である。
エネルギーは太陽光の吸収という、ほぼ無尽蔵なエネルギーから、恐ろしい破壊力の光線が飛び放つ。
この粒子砲、放たれた光に当たると、すべてが【素粒子】まで分解されると聞いている。それは物だけでなく、人すらも……
下手をすれば、核兵器すらかすむ性能なのではないだろうか?
素晴らしい……
さらに【戦闘服】!! この服は素晴らしいの一言に尽きる。
恐ろしいほどの防御力!!
防刃、防弾、防寒、防熱、防衝撃、防毒 ・・・・・・・etc
現在の地球の技術力では、この服を傷つける事はおろか、汚す事さえ出来ないみたいだ・・・
そのくせ、通気性や着心地は抜群だ!!
いったいどんな素材で出来て居る物やら・・・
それに、この戦闘服を粒子砲で撃ったらどうなるのだろうか・・・
2つを解析する事ができれば、この星の文明は2足飛び・・・いや、4足飛びと言ってもいいかもしれない。
恐ろしいほどのオーバーテクノロジーだ。
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そう、
事の起こりは学会の帰り道だった・・・
いつもの通り、物質の粒子化と再構成の理論を発表し、他の教授どもから鼻で笑われてきた後だ・・・。
私は最初、黒ずくめのスカウトに連れられてこの建物に案内された。
「研究レポートは見せてもらったよ。」
画面には絶世の美男子が座っていた。
彼は私のレポートを見ると、声を上げて絶賛した。
そして足りなかった部分の補足を始める。
その補足に私は目から鱗が落ちた。
ほんとうに単純な見落としだった。
その点さえ改善すれば、間違いなく私の理論が実現化されることが判る。
いつしか、私はこの男性の一句一言に真剣に耳を傾けるようになった。
レポートの考察が終った頃だろうか、彼は一言
「この星を守りたいか?」
と言ってきた。
最初は何を言っているのか判らなかったが、住む星がなくなるのは困る。
反射的に
「え・・・ええ・・・」
と頷いてしまった。
「そうか、それは良かった。
ならこの武器とこのスーツを渡しておこう。
これを使って地球を守ってくれたまえ。」
何所に行っていたのか、黒ずくめの男がカートを押して戻ってくる。
カートの上には6丁の拳銃?のようにみえるおもちゃと、6着の全身タイツが置いてあった。
「それからここを君の研究所、兼、正義の味方の秘密基地とする。
何、金のことなら心配は要らないよ。
いくらでも用立てる事ができる。
今、武道に優れた5人を集めている。
その5人を指揮し、地球を守ってくれたまえ。
武器と黒いスーツは予備として君に預ける。
解析する事で君の研究は飛躍的に進む事も出来るだろう。
それと私のことはこれから『長官』と呼んでくれたまえ、私も君のことはこれから『博士』もしくは『司令』と呼ぶ。」
一方的にまくし立てられる。
今の大学では、私のようなうだつのあがらない教授は研究費を削られる一方だ・・・
だが、この話が本当なら、好きなだけ研究に没頭する事ができる・・・
費用が足りなく、研究に進むことが出来なかったあの理論や、先ほどの助言から成功が見込めるあの理論まで・・・
この話はまさしく悪魔のささやきだ・・・
私は研究を取るか、それとも今後の生活を取るか・・・
1人の研究者として・・・そして一家の大黒柱として・・・
私が取るべき道はどっちだ・・・
「もちろん慈善事業のつもりはない。
今日の話を聞いてもらっただけでも私には十分な収穫だ。
報酬として口座に5千万の現金を振り込ませていただいた。
君をスカウトする契約金としては少ないが、万が一断る場合、この一件を誰にも話さないことを約束して貰う為の口止め料としては破格だと思う。
私としては、是非とも博士にこの研究所の『司令』も兼任してほしいものだがな。」
なっ・・・そんな大金をぽんと出してくるだと!?
「もし・・・「司令」兼「博士」として、地球の為に働いた場合、
私の報酬はどうなるのだろうか?」
「ふむ、家族構成は妻が1人、子供が2人だったか・・・
現在の年収がこのぐらいならば、間違いなく倍は払うと誓おう。
後は成果次第だ。
最低でも倍、成果次第では4倍でも構わぬ。」
・・・この言葉が真実であるならば、私は悪魔にだって魂は売れるだろう。
「もちろん、可能性はほとんど無いが命の危険を伴う覚悟は要る。
それで良ければ、明日返事を聞きたい。」
心は決まった。
後は確認するだけだ・・・
「判りました。明日のこの時間にここに来れば良いでしょうか?」
「うむ、明日もその男に案内させる。」
「ありがとうございます。それでは私の口座をお教えしましょう。」
「大丈夫だ、すでにさくら銀行へ振り込んである。」
「判りました。
それでは失礼します。」
長官はどこまで知っているのだろうか・・・
帰りに確認した所、確かに振り込まれていた。
振込者が『正義の味方事務所』となっていたのには少し笑ってしまったが。
その足で私は通いなれた道を歩く。
大学へと・・・
その日、私の肩書きは『大学教授』から「正義の味方 司令兼博士」と変わった。
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次の日、例の場所へ向かうと昨日の黒ずくめの男に案内されることとなった。
また別の建物に入ると、そこには5名の男女の姿があった。
私は彼らに会釈をすると、彼等は敬礼で返してきた。
その中に見知った顔の女性が居る。
今年K大学に入ったばかりで、合気道5段を持っているが、まったくそう見えない清楚なたたずまいの美女。
つまり、私の娘だ。
私は驚きのあまり、固まってしまう。
娘も私を見ると、驚きの表情で固まってしまった。
黒ずくめの男はそんな私を引きずって司令室まで運んでくれた。
「よくきてくれた。早速だが返事を聞いていいかね?」
「その前に私こそ聞きたい事があります。」
「何だね?わかる範囲でよければ答えよう。」
「扉の前に居た5人は昨日言っていたヒーロー・・・なのですか?」
「その通りだ、素晴らしい5人が集ってくれて私は感謝している。」
「その中に私の娘が居るのですが、知っていたのですか?」
「いや、彼女は君をスカウトした後に見つけたのでね。
プロフィールを調べて驚いたよ。
だが、私が望んでやまなかった人材なのだ。
彼女も世界の為なら、と喜んで引き受けてくれたよ。」
さすがに私の娘だ・・・正義感だけは強い・・・
その所為で何度か問題もあったというのに。
子供と言うのは変わらないな・・・
「もちろん、身の安全は保障しよう。
そのスーツは地球のどの兵器を持ってしても、攻撃を内部へ伝える事は絶対にないのだからね。」
ならば親である私の取る手段は一つ。
なんとしてでも守って見せるだけだ。
「判りました。
長官のその言葉を信じようと思います。
そして、私のことはこれからは博士、もしくは司令とお呼びください。」
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そして私達『正義の味方』は世界を守る為に活動を開始した。
娘の為に、ついでに地球の為にもこの2つのオーバーテクノロジーを解析し、更なる装備を作ってみせる!!