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星の剣舞姫  作者: たかいわ勇樹
第5話「グラン・ギニョルは炎のようで」
26/28

「暴れなさい!」

 地面に鞭を振り下ろし、高い音を立てながら、ベレッタは叫ぶ。

「壊し尽くし、焼き尽くし、殺し尽くしなさい! まず手始めに、このルーブル美術館の建物も、美術品も、中の人間達も、全て残らず灰燼に帰してしまうのよ!」

 ベレッタの命令の下、死霊人形達が一斉にルーブル美術館の建物に向かって来るが、

「どこを見ているの」

 瞬間移動のように死霊人形達との距離を詰めたアニェスが、前にいた一体の胸を剣で串刺しにする。更に手をクイッと上げると、刃は死霊人形の体を野菜のように易々と進んで脳天まで裂いて抜ける。

「あなたの相手は私。あなたを殺すのも私よ」

 地面に倒れる死霊人形に目もくれず、未だ沢山残っている死霊人形達の向こうに立つベレッタに向けてアニェスは言う。その口調に挑発や気負いの色は無く、ただ事実を述べるようにあっさりしたものだった。

「そんなに一番乗りで死にたいなら、お望み通りにしてやるわ!」

 それが一層ベレッタの癇に障ったらしく、眉間に皺を寄せて叫ぶと、ベレッタの左目が血のように赤い光を放ち、それを合図のように死霊人形達のうち二〇体ほどがアニェスを取り囲む。

「一斉に掛かりなさい!」

 ベレッタの命令で、死霊人形達は両手から伸ばした爪で襲いかかる。三六〇度全方位からの爪がアニェスの体に届く寸前、アニェスは上へ高く跳躍して爪を避ける。

「それで避けたつもり?」

 ほくそ笑むベレッタの後方に控えていた死霊人形の一隊がライフル銃を構え、空中のアニェスに向けて一斉に発砲する。

「甘いわ!」

 アニェスは空中で剣を翻し、自分の体と射線が重なる弾丸を全て切り払う。

 トン、と軽い音を立ててアニェスが着地すると、同時に数秒前までアニェスを取り囲んでいた死霊人形達のうち、前にいた数体が爆発して崩れ落ちる。恐らく跳んで避ける際に爆発の符を放っていたのだろう。

「おっと、突っ立って見ている場合じゃ無いな」

 私も周囲の一般人が美術館の建物に避難したのを確認すると、

「父と子と聖霊の御名によって、アーメン」

 そう十字を切ってから、最も近くにいた死霊人形に迫ると、サーベルの抜き打ちを一閃。胸を斜めに切り裂かれてその死霊人形は倒れる。

 それを見たベレッタの左目がまた赤く光ると、私の方にも死霊人形が数体向かってくる。最初に襲ってきた一体の爪をサーベルで受け止めて、

「我は、天地の創造主、全能の父なる天主を信じ、またその御ひとり子、我らの主イエズス・キリスト、すなわち、聖霊によりて宿り、童貞マリアより生まれ、ポンシオ・ピラトの管下にて苦しみを受け、十字架につけられ、死して葬られ、古聖所にくだりて、三日目に死者のうちより蘇り、天に昇りて全能の父なる天主の右に座し、かしこより、生ける人と死せる人とを裁かんために来たりたもう主を信じ奉る。我は聖霊、聖なる公教会、諸聖人の通効、罪の赦し、肉身の蘇り、終わりなき命を信じ奉る。アーメン」

 使徒信経を唱え終わると、左に体を半回転させて爪を受け流し、相手の体が勢い余ってつんのめった所を背後から斬り倒す。

「天にまします我らの父よ、願わくは、御名の尊まれんことを、御国の来たらんことを、御旨の天に行わるる如く地にも行われんことを。我らの日用の糧を、今日我らに与え給え。我らが人に赦すごとく、我らの罪を赦し給え。我らを試みに引き給わざれ、我らを悪より救い給え。アーメン」

 主の祈りを唱えつつ、今度は三方から迫ってくる死霊人形に対し、まず右からの相手の頭を真っ二つに割り、右足を軸に半回転して左の相手も斬り伏せる。続いて左足を軸に正面の相手と向き合い、右足を踏み込んで上段からサーベルを振り下ろすと、相手は体の中心から両断されて倒れる。

「めでたし聖寵充ち満てるマリア、主御身とともにまします。御身は女の内にて祝せられ、御胎内の御子イエズスも祝せられ給う。天主の御母聖マリア、罪人なる我らのために、今も臨終の時も祈り給え。アーメン」

 天使祝詞(アヴェ・マリア)を倒した相手の数と同じ三回唱えていると、

「祈ってる余裕があったら、戦いに集中しなさい!」

 アニェスから不機嫌な声が飛んでくるが、

「私は聖職者だ。主へ赦しを請わずには戦えない!」

「魂の救済が目的なんでしょう、だったら祈ってるより一秒でも早くあの人形達を倒しなさい!」

 そう二人で言い合っている間も、私達は襲ってくる死霊人形を次々と倒していく。そして地面に崩れ落ちた死霊人形の残骸から、老若男女様々な魂が解放されて天に昇っていく。邪法によって人形に縛り付けられ、破壊と殺戮のために操られている魂を救うには、人形を破壊するしかない事は分かっている。

「だが、それでも暴力を振るって他人を傷付けている事には違いないから、戦いの最中でも祈り、主へ許しを請わねばならないんだ!」

「それはあなたの自己満足でしょうが!」

「かも知れないが、聖職者としてこういう感覚には慣れてはいけないだろうが!」

 周りにいた死霊人形の最後の一体を、アニェスが首を刎ねて倒すと、呆れ半分、苛立ち半分と言った表情を向けてくる。

「それで死んだら只の無駄死によ!」

 そんな死に方は御免よとアニェスが言った直後、ガシャンガシャンと思い足音を響かせながら、先程よりも一回り大きな死霊人形達が密集隊形で近付いてくる。全身を装甲で覆った姿と、道を塞ぐように並んで迫ってくる様子は、学校の歴史の授業で教わった、古代ギリシャ、ローマ時代の戦争で活躍したという重装歩兵を思わせた。

「どうやらさっきまでのは、小手調べだったみたいね」

 ゆっくりと、だが着実に前進してくる死霊人形の軍団(レギオン)を見て、アニェスが呟く。

「恐らく私達が戦っている間に準備をしていたのでしょう」

 別の場所で相当数の死霊人形を倒したロベールが、大剣を担いでこちらへ来る。

「進みなさい! たった三人、押し潰してやるのよ!」

 自身の優位を確信したベレッタの声が、軍団の向こうから放たれる。

 アニェスは軍団の前列に符を数枚放って爆発させるが、装甲にへこみと焦げ跡が付いただけで行進を緩めず向かってくる。

「あれは装甲だけではなく、人形そのものも金属で作ってあるようですね」

 ロベールがそう唸っていると、向こうもお返しとばかりに後方の死霊人形達が、前列の間からライフルを撃ち込んでくる。

「危ない!」

 私達は銃弾を避け、避け切れないものは私とアニェスは剣で切り払い、ロベールは大剣を盾代わりにして防ぐ。

「貴重な美術品が保管されてるだけじゃなくて、建物そのものも人類の遺産と言えるルーブル美術館で水平射撃って、正気なの!?」

 さっき自分も爆発の符を使った事を遥か高い棚に放り上げて、アニェスが叫ぶと、向こうは返事の代わりに二射目を放って来る。

「ほらほら、ボーッとしてたら蜂の巣になるわよ!」

 銃声に混ざって、ベレッタの得意げな声が聞こえてくる。

「調子に乗るんじゃないわよ!」

 その後も絶え間なく飛んでくる銃弾をしのぎつつアニェスは叫ぶが、向こうには負け惜しみにしか聞こえないらしく、ベレッタからは哄笑しか返ってこない。

「このままだと追い込まれるばかりだわ。ローラン、ロベール、あなた達二人で、あの前列を少しの間抑えて」

「君はどうするんだ?」

 まさか一人だけ逃げる気かと内心訝しみながら尋ねる私に、

「私だけ逃げるとでも思ったの?」

 見透かしたようにアニェスは口を尖らせ、一瞬押し黙る私の頭を一発叩いてから、

「中に斬り込んであの女を仕留めるわ。操っている術者さえ倒せば死霊人形達は、文字通り木偶人形になるはずよ」

「けど、後ろにもまだ大勢いるんだぞ」

「あんな重武装の人形、見るからにコストが掛かってそうだから、そんなにたくさん作れるとは思えないわ。せいぜい前の数列って所じゃないかしら」

 それなら何とかなると前向きに言ってくるアニェスだが、

「けど、相手は銃まで使ってくるんだし──」

 そう言いかけた私の言葉は、入口方向からけたたましく近づいてくるサイレンの音に遮られる。

『襲撃犯に告ぐ。ただちに抵抗を止めて投降しなさい!』

 拡声器越しに届く、聞き覚えのある声と共に、車のドアが開く音、大勢の駆け足の音が聞こえてくる。

「また邪魔が増えたわ」

 忌々しげにベレッタが言って、右手を一振りすると、それを合図のように入口側から銃声が聞こえてくる。

「やっと警察が来たみたいね。遅いのよ、もう」

「そのようだな。あの声は確か昼間会った刑事だ」

「まあおかげで敵も戦力を二つに分けなきゃならない今がチャンスよ。さっき言った通り、あなたとロベールで前の奴らを抑えてて。ロベール!」

「はっ!」

 そう答えるよりも先にやって来るアニェスに、ロベールは腰の高さに大剣を水平に掲げて迎え、言わなくても分かっているとばかりにアニェスは剣の平に両足を乗せる。

「ふんっ!」

 ロベールが力一杯勢いを付けて大剣を頭上に持ち上げると、それをジャンプ台代わりにアニェスも跳躍。

「落としなさい!」

 ベレッタが苛立たしげに叫び、上方への射撃が始まるが、飛んでくる弾丸を全て剣で打ち落とし、スカートの下から短剣を出して左手に持ち、右手のレイピアとの二刀流になると、空中で独楽のように回転、死霊人形達の真っ只中に着地するや、周りの死霊人形数体の首が落ちる。

「やっぱり思った通り、ほとんどの死霊人形は前と同じレベルのようね。重武装の死霊人形を大量に作るには、材料が足りなかったのかしら」

 双剣を構えて言うアニェスに、

「何をしてるの、相手はたった一人、周りの全部で一斉に撃ちなさい!」

 ベレッタの命令で死霊人形達がアニェスに銃口を向けて一斉に発砲する。

 だが、

「あなた、魔道士としてはそこそこできるみたいだけど、指揮官としては素人も良い所ね」

 アニェスは平然と立ち、周りで銃弾を受け破損する死霊人形達にとどめを刺していく。

「こんな密集状態で銃なんて撃ったら、味方に当たるのが当たり前でしょう」

「うるさい!」

 ベレッタの叫び声を合図に、再度死霊人形達がアニェスに向けて発砲するが、アニェスは両手の剣でことごとく弾き、跳弾が流れ弾になって周りの死霊人形達に当たる。

「ほらね」

 嘲笑するように言ってくるアニェスに、ベレッタの表情は険しさを増していった。


『突入!』

 入口方面からはシュルク刑事の指示で警察が銃声と共に死霊人形達に向かっていき、反対側から私とロベールも死霊人形の前列を抑えに掛かる。接近戦に持ち込めば相手は銃を使い辛い上に、アニェスと警察が戦力を分散させてくれるおかげで銃弾の危険は遥かに少なくなる。とは言え全く撃って来ないわけではないし、装甲のおかげで一撃では倒し切れず、銃弾や爪、棍棒などの攻撃をかいくぐりながら何度も斬りつけて、ようやく倒せる有様だった。こういう時はパワーがあるロベールの方が少ない手数で倒せるようだったが、数で圧されて二人とも相手の前進を食い止めるだけで精一杯だった。

「大丈夫です。アニェス様がベレッタを倒すまでの辛抱です」

 大剣で攻撃を防ぎながら、ロベールが言ってくる。私も死霊人形が繰り出してくる爪をサーベルで受け止めながら頷くが、内心では不安になっていた。

(そのアニェスが、ベレッタを倒せるのだろうか?)


「くっ──」

 入口側からは警察、建物側からはアニェスに死霊人形達の軍団を切り崩され、忌々しげにベレッタは歯噛みする。

 特に入口側は、アニェス達の側に重武装の死霊人形を重点的に配置したために戦力的に手薄になり、専門の装備を持ち、訓練を受けた警察の部隊相手に苦戦を強いられ、みるみる数を減らされていった。

『このままエミリー・ベレッタの制圧まで一気に押し切る。総員油断しないように!』

 ベレッタの姿を視界に捉え、シュルク刑事は指示を飛ばして引き締めを図る。だが、ベレッタは馬車の席に置いてあったスイッチを取ると、周囲に見せつけるように掲げる。

「止まりなさい! これ以上近付くと、パリ中に仕掛けた爆弾を爆発させるわよ!」

 そうベレッタが言うと、警察とアニェスの足が止まる。

『落ち着け! 早まるんじゃない!』

 表情を強張らせてシュルク刑事が説得を試みる。

「私は本気よ。何なら一つ爆発させようかしら」

 対照的に優位を取り戻した表情で、ベレッタはスイッチに並ぶボタンの上で指をさまよわせるが、

「だから何よ」

 前の死霊人形の胸を剣で刺し貫き、アニェスは再び足を進める。

「長く住んでいたマティルダならともかく、私はパリにそれほど愛着はないし、守る義務なんてこれっぽっちも無いのよ」

 周りの死霊人形達を次々に倒しながら、アニェスはベレッタとの距離を縮めていく。

「だったら見せてやるわ、私の本気を──」

 アニェスの台詞に乗せられるように、ベレッタがボタンの一つを押そうとした瞬間、銃弾がベレッタの手からスイッチを叩き落とす。

「命中、確認しました」

 双眼鏡を持った観測手(スポッター)からの報告に、シュルクは汗を拭い息を吐く。

「良し、引き続き狙撃体勢を維持したまま待機」

 そう狙撃手に指示しつつ、スイッチを拾うベレッタから目を離さない。

「──駄目だわ、弾が貫通していて完全に壊れてる」

 ボタンが効かず狼狽するベレッタ。そこへ一筋の光が疾る。

 黒のドレスをはためかせ、死霊人形達の肩や頭を踏み台にして一直線に駆けてくる銀色の光にベレッタが気付いて振り向いた次の瞬間、それはベレッタと交錯する。

「やったのか!?」

 警察の部隊の方へ滑り込んでくるアニェスに、シュルク刑事が尋ねるが、アニェスはすぐにベレッタの方を振り向いて双剣を構えて一言。

「随分と頑丈な手ね」

 ベレッタが顔をかばっていた右手を下げると、バラバラと残骸を落とし、手袋の切り口から金属の肌が露わになる。

「死霊人形の術の応用よ。神経じゃなくて魂に繋ぐから、前にあなたに切り落とされた生身の手と同じくらい自由に動かせるわ」

「そう、でも完璧には防ぎきれなかったみたいね」

 ベレッタの言葉にアニェスがそう返した直後、ベレッタの顔の左半分に切れ目が入り、ベロリと剥がれて落ちる。その下から現れたベレッタの素顔は、左半分が溶けるように崩れ、左目の代わりに赤い玉を眼窩に嵌め込んでいて、残りの右半分が無事だったが、そのため余計に異様さが際立っていた。


「なるほど、それがネクロスの断片を呼び寄せた、あなたの憎しみの源というわけね」

 納得の口調でアニェスが言うと、シュルク刑事を初めとする警察やロベール、私も思わず頷く。

「そう! 私は五歳の時に難病に掛かって、一命は取り留めたけれど、顔の左半分はこの通り醜く跡が残って、左目も失明した! 完璧主義者だった父は母と私を捨てて他の女の所へ行ってしまい、母も私を全ての不幸の源となじって、私がどれだけ家の手伝いをしても、学校のテストでどれだけ良い点を取っても、微笑み一つ見せてくれなかった! 学校では当然のようにいじめられ、友達も、恋人も、全くできなかった! 私はずっと、孤独に生きてきた!」

 顔の右半分も歪め、ベレッタは孤独と憎しみを周囲に向かって放つ。

「だからこの死霊人形の術を手に入れた時、私は即座に決めたわ。この世の全ての美しい物、幸せに生きる者、全てをズタズタに破壊し、醜い死霊人形、私の下僕に変えてしまおうと!」

 ベレッタは無事な左手で鞭を振るって、馬車を引く二頭の馬型の死霊人形を力一杯叩く。

「この馬が、最初に私が作った死霊人形。片方は私を捨てた父、もう片方は私をなじった母の魂を、とびきり不細工な馬の人形に入れて、こうして扱き使っているのよ!」

『もうやめてくれ……痛い……苦しい……』

『ごめんなさい……許して……お願い……』

 馬型死霊人形から発せられる悲痛な声に、私の心までが鞭打たれているようだった。

「アハハハハハッ、いいザマよね! 他の死霊人形も、私をいじめた昔のクラスメートや、腫れ物に触るように扱った近所の住人達を片っ端から殺して魂を入れてやったわ!」

 その声に気付いているのか、あるいは気付いていながら苦しんでいる様子を楽しんでいるのか、ベレッタは心底愉快そうに声を上げて笑う。誰からも愛されず、蔑まれ、虐げられて育った彼女の心には優しさや愛情といった感情が欠片も無い。その代わりに他者への憎悪ばかりが膨れ上がり、自分より美しいものを壊し尽くし、幸福に生きる者達にかつての自分と同じか、それ以上の苦しみを与えたいという思いだけで生きているのだ。

「これが、小ネクロス……」

 背筋が凍りそうになるのをこらえながら、私は死霊人形の兜と鎧の間にサーベルを通して首を刎ねる。

「悪いけど、悪事自慢は地獄でやってくれる?」

 アニェスも不快そうな顔で死霊人形を倒していく。

「正直聞いてて気分が悪くなるから、私の健康のために今すぐ死んでちょうだい!」

 再びアニェスはベレッタに向かって駆けていく。ベレッタは鞭で迎え撃とうとするが、アニェスが両手の剣で一瞬のうちに七回も斬撃を繰り出すと、鞭はバラバラになって地面に落ちる。

「ハァァァッ!」

 そのままの勢いで、アニェスのレイピアがベレッタを貫く──と思った瞬間、二人の間に爆発が起こり、アニェスが後ろへ吹き飛ばされる。

「アニェス様!」

 未だに残る前列の死霊人形に前を阻まれ、ロベールが悲痛そうに叫ぶが、すぐにアニェスは起き上がる。

「まだそんな切り札を残してあったなんて、流石に思わなかったわ」

 焼け焦げた前髪の一房に手を遣り、自分のうかつさを呪うようにアニェスは言う。ベレッタは焼け焦げた左手の手袋を口で外すと、手の平に開いた穴から煙を上げる金属製の左手を掲げる。

「流石に健康な手を切り落とすのは、少し勇気が必要だったわ」

 苦笑するベレッタだが、

「でも、それって見た所使えるのは一回きりじゃないの? 右手だってボロボロだし、死霊人形も全滅は時間の問題。そろそろ観念したら?」

 例え二度目が使えても、同じ手は二度も受けないけどねと付け加えて、アニェスは三度、今度は慎重に歩み寄る。だが、ベレッタの目にまだ諦めの色は無い。

「甘いわ。私にはまだ切り札が残ってるのよ!」

 そうベレッタが言うや、左目代わりの赤い玉が、一際強い光を放った──



 明けましておめでとうございます。たかいわ勇樹です。

 前回の更新からまた間が空いてしまいましたが、、「星の剣舞姫」第5話「グラン・ギニョルは炎のようで」5をアップいたしました。

 いよいよアニェスの新しい剣での戦いとなりましたが、久しぶりのアニェスの剣の舞、楽しんで頂けたでしょうか。

 ちなみにベレッタですが、完全な敵キャラクターとして、これでもかとばかりに悪人描写をしましたが、いかがだったでしょうか。

 さて、当初の予定ではこの回で戦いを終わらせるつもりでしたが、ベレッタが思いの外往生際が悪いせいで話が長くなりすぎてしまうので、決着は次までおあずけとなります。

 なるべく早く皆様に続きをお送りしたいと思いますので、申し訳ありませんがお待ち頂きますようお願いいたします。

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