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星の剣舞姫  作者: たかいわ勇樹
第4話「ボディーガードは繊細で」
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 それからは戦いはほとんど一方的になった。

 私がサーベルで黒服達の撃ってくる銃弾を防ぎ、銃を切断して使用不能にして、ロベールがサバットで黒服達を倒していくという連携が自然に成立すると、立っている黒服達の数はみるみる減っていき、もはや数の優位さえ崩れるのは時間の問題となる。

 黒服達もそれは理解できたらしく、一人が踵を返して外へ走り去ると、他の者達も我先にと逃げていく。

「こら待て! 逃げるんじゃない!」

 リーダーは声を荒げて引き留めようとするが、雪崩のように崩れていく集団を元に戻すことはもはや不可能だった。

「何よ、まだ済んでなかったの?」

 そこへアニェスが玄関から出てきて、不満そうに声を上げる。

「も、申し訳ありませんアニェス様。すぐに残りも片付けますので」

 大きな体を縮めるように折り曲げて、ロベールが謝罪する。

「ガキがぁぁッ!」

 リーダーが怒りに顔を歪ませながらアニェスに拳銃を向ける。だがアニェスが無造作に符を放ると、リーダーの足元から勢い良く地面が突き出して、アッパーカット気味にリーダーの顎にヒットする。

「手間掛けさせるんじゃないわよ」

 仰向けに倒れるリーダーの元へアニェスは歩み寄ると、

「で、何の目的でここへ団体で押しかけてきたの?」

 事後処理としての確認と言った感じでアニェスは尋ねる。リーダーは上半身を起こすと、怨みに満ちた視線をアニェスに向け、

「一月半前、うちのボスの屋敷を襲って金品を奪った末、爆弾で吹っ飛ばしたのはお前らだろうが。あの時の生き残りから特徴しっかり聞いてんだよ!」

 強面で怒声を浴びせてくるリーダーに、アニェスは「ああ、あれね」と手をパンと叩き、

「良いじゃない別に。どうせあなた達は社会の迷惑にしかならない害虫の集まりなんだから潰しても。それにあなた達のボスだって、不老不死の幻想に取り憑かれてしこたま金をつぎ込んでて、私の方がもっと有効に活用してあげるんだから、むしろ感謝して欲しいくらいだわ」

 本気か挑発か、どちらにしても良い度胸をしているアニェスの発言に、聞いている私の方が心臓に悪かった。

「ざけんなコラァッ!」

 下半身にバネでも仕込んであったかのように、リーダーは勢い良く立ち上がると、そのまま車の運転席に飛び込み急発車させる。

「ちょっと、逃げるならそこに転がってる奴らも持って帰りなさいよ!」

 遠ざかっていく車の後部に向けてアニェスが叫ぶ。ともあれこれで終わりかと私が安堵していると、突然車がUターンしてくる。

「アニェス様!」

「なるほど、加速する為の距離を稼いでたのね」

 叫ぶロベールと対照的に、冷静に言うアニェス。

「そんな呑気に言ってる場合じゃないだろう!?」

 あの手の連中が乗ってる車だから、窓ガラスやボディーが普通の車より頑丈に作られていることは私にも容易に想像が付いた。おそらくは拳銃の弾くらいなら平気で弾くだろう。

 だが玄関へ取って返すアニェスの表情は、逃がした獲物が再び戻って来たのを喜ぶ顔だった。

「ロベール!」

 アニェスが玄関から引きずってきた物の柄を、ロベールは受け取って持ち上げる。それは金属製の無骨な鞘に収められた、柄まで含めるとロベールの背丈よりも長大な大剣だった。

「ふんっ」

 ロベールが力を込めて大剣を鞘から抜くと、磨き抜かれた剣身は月の光を受けて、先程見た煤塗れの状態からは見違えて淡く輝く。

 そうしている間にも、車は闘牛のような勢いで向かってくるが、

「やりなさい、ロベール!」

「はい、アニェス様」

 アニェスの命令に、ロベールは即座に答えると大剣を手に車の方へ進み出る。

「無茶だ、アニェス。いくら何でも走る車に真正面からなんて──」

 流石のロベールでも、最高かそれに近い速度で突進してくる車を生身で相手するなど無茶にも程がある。だがロベールは大剣を頭上まで振り上げ、

「ウオォォォォッ!」

 野獣を思わせる雄叫びを上げながら、月光の弧を描いて巨大な刃を振り下ろす。

 次の瞬間、ロベールの巨体を跳ね飛ばすか()き潰そうと突進して来た車体は真ん中から左右に分かれ、ロベールを通過。エンジンとフレームの切断面を(さら)して真っ二つになった車はレースでもするように走っていたが、間もなく左右横倒しになり、タイヤを空回りさせる。

 アニェスは車へ近付くと、左側の車体、運転席でハンドルを握ったまま泡を吹いて気絶しているリーダーを一瞥(いちべつ)して、次いで車体の切断面に目を走らせる。

「切り口が荒いわね、力に頼り過ぎよ」

 不満げにアニェスは駄目出しして、

「師匠は突っ込んできた暴れ馬の首を、すれ違い様に包丁で飛ばしたけど、その馬は首を切られた事に全然気付いてない顔をしてたわよ。あなたもそこまでは行かなくても、近い所までは行って貰わなきゃ」

「そういう事を言う所か!?」

 思わず私は声を上げる。だがロベールは「申し訳ありません、アニェス様」と素直に詫びるので、

「ロベール、君まで律儀に付き合う事は無いだろう!?」

 つい声を荒げる私に、アニェスは寄ってきて脇腹を殴りつけてくる。

「何言ってるの。私が作った物を、しっかり使いこなして欲しいと思うのは当然でしょう?」

「受け取っていきなり使いこなせなんて、無茶だろう?」

 脇腹を押さえつつ、私はそう抗議するが、

「あれは習作とは言っても、貴重な金属から私の持てる技術を駆使して作った一品物よ。そこらの(はさみ)みたいな工場生産の量産品とは違うのよ」

「質の良い道具だからすぐ使いこなせるなんて、論理として成り立たないだろう? それに最近は工業技術が上がってるから、量産品の質が一品物より劣ると一概には言えないよ」

「話をすり替えないで!」

 今度は足を勢い良く踏まれ、私は片足立ちで踏まれたもう片足をさすりつつ、「君の理屈が強引なんだろう!?」と食い下がるが、アニェスは返答の代わりに立っている方の足も踏みつけ、私は体勢を崩して転倒する。

「優れた道具を持つ以上は、使う方もそれ相応の技量を持つべきよ。もちろんあなたも例外じゃないわ」

 私の手にあるサーベルを指差し、アニェスはきっぱりと言い放つ。

「一仕事したら喉が渇いたわ。ロベール、ホットミルクを入れてちょうだい。蜂蜜を付けるのも忘れないで」

 そう言って家の方へ踵を返していくアニェス。どう考えても私とロベールの方が重労働だと思ったが、

「かしこまりました、アニェス様」

 大剣を鞘に収めると、ロベールは平常のようにそう了承してアニェスの後を追う。一体何が彼をアニェスに対してそこまで忠実にするのか、改めて困惑すると同時に、ある種の尊敬の念さえ芽生えるが、

「そう言えば、これは一体どうするんだ!?」

 庭に転がる車の残骸や黒服達を見回し、私の中に更に切実な疑問が生じるが、答える相手は既に家の中へ入ってしまい、問いは虚しく夜空に掻き消えるのだった──

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