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スタンドからのサイン

掲載日:2026/06/04

15分短編です

 あぁ、今日もいる。

 スタンドの一番前の席を陣取る、同い年くらいの女の子。うちの学校の練習試合ですら、欠かさずに見に来る野球好き。

 望遠鏡を構えて、試合開始から終わりまでずっといる。

 うちのチームの中では有名人になってる。服装はふわふわのロリータ?系で、可愛らしい。日差しが強い日は、後ろの邪魔にならない席で日傘をさしてまで見に来ている。どう見ても野球に興味がありそうには見えないのに、相当好きなんだな、野球。

「なぁ、今日も来てるぞ、ロリータちゃん」

 キャッチャーが俺にそう言った。

「集中しろよ、今日勝たないといけないんだ」

 今日は一番大事な試合なんだ。今日の試合に勝つと、俺たちは甲子園に出場できる。うちの学校は甲子園に行ったことがないから、初出場という偉業を達成したことになる。そりゃぁ気合も入るだろう。ピッチャーの俺には、かなりプレッシャーだけど、この試合、確実に勝って、俺たちの代で伝説を作るんだ。

 そう意気込んでいたのが、悪かったのか、序盤からすんなりと打たれ、3点差を付けられてしまった。監督には、「まだやれるか」と聞かれ、このまま引き下がるのは嫌だったから、「できます」って答えたけど、正直もうマウンドを降りたい。また打たれるのが怖い。緊張するとトイレが近くなる。

 焦るな、落ち着け、そう思えば思うほど、手が震える。情けない。あんなにきつい練習を頑張ってきたんだ、俺ならやれる。友人たちの応援も今はプレッシャーにもなる。

 ドキドキと心臓が高鳴っている。あぁ、怖い、早く帰りたい。

 目の前が真っ白になりそうになったとき、あの子が、ロリータちゃんが目に入った。

 席から立ち上がって、顔を真っ赤にして慌てた様子でバタバタしてる。なんだ?どうしたんだ?両手で顔を挟んだりして、せわしなくクルクルと向きを変えては座って、また立ち上がってそわそわしている。

 なんだか小動物みたいだな、なんて思っていたら、妙な緊張は解けていた。

「・・・ロリータちゃん、サンキュー」

 そこから俺は、人が変わったように次々とバッターを三振に抑え、打席に立った際も、ものすごい勢いで打ちまくって、三点差をひっくり返して、地区優勝を決めた。

 マウンドを降りるとき、もう一度ロリータちゃんのいた場所を見たけど、すでにいなくなっていた。帰りに会えたらお礼を言おうと思っていたんだけど。なんて、アニメの観過ぎか。

 着替えを済ませ、監督の有難いお言葉をいただいて球場から出ると、出入り口にロリータちゃんがいた。

 近くで見ると、より可愛いな。

 俺と目線が合うと、ロリータちゃんは気恥ずかしそうに、俺に近づいてきた。な、なんだ?俺、まだ、この先甲子園があるから、そう言う恋愛ごとは、考える余裕ないんだけど・・・。

「あ、あの、ピッチャーの」

「あ、えっと、はい」

 どうしよう、何話せばいいんだ?後ろのチームメイトがニヤついてるのがわかる、後でぶん殴っとこう。

「えっと・・・その・・・」

 もじもじとしていてはっきりしないし、気恥ずかしそうにして口を閉ざしてしまう。でも何か言いたそうにチラチラこちらを見てくるから、何か言いたそうなのは確かなんだ。

「あ、のさ、試合中!君が立ったり座ったりしてて、それ見たら、俺、緊張が和らいだんだ、なんか変な言い方だけど、いつも見に来てくれてありがとう」

 沈黙に耐えかねて、俺からお礼を伝えてしまった。でも思っていたことだから、まぁ、いいか。

「あ、えっと、そんな、役に立てたのなら、良かったです・・・あの、で・・・えっと・・・」

 もどかしい思いを抱えたま次の言葉を待つ。意を決しいたように俺に向き直った。勝手に心臓が早鐘を打つ。

「あの、チャックが・・・空いてますっ」

「え?」

 言われた瞬間自分の股間に視線を投げると、気合を入れるために買ったヒョウ柄が少し見えていた。



——う、うわぁぁぁぁ!!!——

これが俺と奥さんの馴れ初めです。

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