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第2話 「開かずの倉庫」と、ゴミにしか見えない宝の山


 侯爵家の馬車に揺られること数日。

 私たちは、クリスティア侯爵領の領都「クリスタルガルド」に到着した。

 窓から見える景色は、今までいた男爵領とは雲泥の差だった。

 石畳で整備された大通り、活気あふれる市場、そして街を見下ろすように聳え立つ巨大な白亜の城――それが、これから私が仕えるクリスティア侯爵邸だ。

「歓迎しよう、我が城へ」

 馬車を降りたソフィア嬢は、出迎えた使用人たちの列を堂々と歩いていく。

 その背中を追いながら、私は内心で舌を巻いた。

 (すごいな……使用人の数だけで50人はいるぞ。だが、少し空気が重いか?)

 屋敷の玄関ホールで、一人の初老の男性が進み出てきた。

 白髪を撫で付け、燕尾服を着こなした厳格そうな人物だ。

「お帰りなさいませ、ソフィアお嬢様。……して、そちらの薄汚れた男は?」

「言葉を慎め、ハンス。彼が例の『カイト』だ。今日から私の直属として、商会の運営全権を任せる」

 ハンスと呼ばれた執事長は、片眼鏡モノクルの奥の目を丸くし、私を頭のてっぺんから爪先まで品定めするように見た。

「……男爵家を追放された三男坊、ですか。お嬢様、失礼ながら当家の商会は、そのような若造に務まる規模ではございません。ましてや、どこの馬の骨とも知れぬ者に全権など」

「ハンス。お前は私の目が曇っていると言うのか?」

「いえ、決してそのような! しかし、他の古参たちが納得するかどうか……」

 なるほど、典型的な「新参者への洗礼」というわけか。

 私は一歩前に出ると、優雅に――男爵家で叩き込まれた完璧な作法で一礼した。

「お初にお目にかかります、執事長。カイトと申します。私の能力に対する懸念はごもっともです。……そこでソフィア様、まずは『手土産』代わりに、一つ仕事をさせていただけませんか?」

 私が提案すると、ソフィアは面白そうに口角を上げた。

「いいだろう。ハンス、あの『開かずの倉庫』の鍵を持ってこい」

「なっ……! あそこは長年放置されたガラクタの山ですぞ!?」

「だからこそだ。カイト、あの中を整理し、使えるものと捨てるものを仕分けろ。期限は今日の夕食までだ」

 ◇

 案内されたのは、屋敷の裏手にある石造りの巨大な倉庫だった。

 重い鉄扉を開けた瞬間、カビと埃の臭いが鼻をつく。

「ゲホッ、ゲホッ……! これはひどい」

 中は足の踏み場もないほど、木箱や壊れた家具、錆びた武具が積み上げられていた。

 歴代の当主が「いつか使うかも」と溜め込んだ、いわゆるゴミ屋敷状態だ。

「ふん。いかに『収納』のスキル持ちとはいえ、これだけの量を夕刻までに片付けるなど不可能ですよ」

 ハンス執事長がハンカチで鼻を覆いながら、冷ややかな視線を送ってくる。

 通常の人力なら、十人で三日はかかる量だ。

 だが――私には【世界交易】がある。

「では、始めますね」

 私は手をかざし、意識を集中させた。

 私のスキルは、単に物を出し入れするだけではない。自分を中心とした半径数十メートル以内の物品を「スキャン」し、リスト化することができる。

 脳内にウィンドウが開く。

 《壊れた椅子:価値なし》

 《錆びた鉄剣:クズ鉄として売却可能》

 《虫食いの絨毯:廃棄推奨》

 膨大なガラクタのリストが流れていく。

 私はそれらを片っ端から【収納】し、脳内で「廃棄フォルダ」へと分類していく。

 みるみるうちに、山積みだったゴミが消え、倉庫の床が露わになっていく。

「な、なっ……!? 馬鹿な、触れてもいないのに収納しただと!?」

 ハンスが腰を抜かしそうになっているが、無視して作業を続ける。

 その時だ。

 倉庫の最奥、埃にまみれた木箱の山に、私のスキャンが反応した。

 《未開封の木箱:推定製造年200年前》

 《内容物:発酵した液体(赤)》

 《状態:奇跡的に保存状態良好》

 《地球市場参考価格:1本あたり300万円~》

「……ほう?」

 私はその木箱を慎重に引き寄せ、バールで蓋をこじ開けた。

 中には、藁に包まれた古びた瓶が12本。

 ラベルはカビて読めないが、ボトルの形状とコルクの刻印から、とんでもない代物だとわかった。

「おい、なんだその汚い瓶は。酢にでもなっているだろう、捨ててしまえ」

「いいえ、ハンスさん。これは『ロマネ・コンティ』……に酷似した、古代王朝時代の最高級ヴィンテージワインですよ」

 私は現代知識(通販サイトのカタログ情報)と照らし合わせ、確信した。

 この世界の保存魔法がかかった木箱のおかげで、中身は劣化するどころか、最高の熟成を遂げている。

「200年前のワインだと? そんなもの、飲めるはずが……」

「飲めるかではありません。『価値があるか』です。今の王都では、古美術品収集家たちの間で『歴史的な酒』が高騰しています。これ一本で、屋敷の修繕費くらいは賄えるでしょう」

 私は残りのガラクタを一瞬ですべて収納し終えると、ワインの木箱だけを綺麗に拭いて、ハンスの前に差し出した。

「作業完了です。所要時間、15分。……このワインは、今度の夜会でオークションに出しましょう。私が仕切れば、最低でも金貨1000枚にはしてみせます」

 がらんどうになった広大な倉庫と、私の手にある宝の山。

 ハンスはパクパクと口を開閉させ、やがて脂汗を流しながら深く頭を下げた。

「……申し訳ございませんでしたッ!! 私の目が節穴でございました!!」

 ◇

 その日の夕食後。

 報告を受けたソフィアは、見つかったワインをグラスで傾けながら、上機嫌に笑った。

「素晴らしいな。ゴミ捨て場の掃除を頼んだら、国宝級のワインと、頑固な執事の忠誠心まで手に入れてくるとは」

「偶然ですよ。それに、倉庫が空いたので、これから私の商売道具(在庫)を運び込めます」

「フフッ、頼もしい限りだ。……さて、カイト。次はお前に『部下』をやろう」

 ソフィアは新たな書類をテーブルに置いた。

「私の領地には、腕はいいが性格に難ありで、どの職場からもあぶれた者たちが吹き溜まっているスラムがある。そこから、お前の手足となる人材を拾ってこい」

 次なる仕事は、人材発掘スカウトか。

 私はグラスを掲げ、優雅に応じた。

「承知しました。磨けば光る原石を見つけて参ります」


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