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第19話 帰ってきた王女 ~宮廷の陰謀と派閥争い~



 王城、「白亜の間」。

 貴族たちが一堂に会する定例報告会において、その爆弾は投下された。


「お久しぶりでございます、お父様。そして……この国を金で汚す卑しい商人たち」


 扉が開き、ドレスの裾を引きずって現れたのは、病弱療養という名目で数年間、地方の離宮に送られていた第二王女、**エレナ・フォン・キングダム**だった。

 かつての儚げな印象は消え、その瞳には狂信的なまでの意志の光が宿っている。


「エレナ……? なぜここに? 療養中のはずでは」

 国王レグルス陛下が驚きの声を上げる。


「国が危機に瀕していると聞き、戻って参りました。……お父様、今のこの国の有様はなんですか? 商人が貴族と同列に並び、紙切れ一枚で伝統ある家柄がないがしろにされていると聞きます」


 エレナは扇子で私――カイトの方を指した。


「そこの男。カイト・フォン・ベルガーと言いましたか。貴方が諸悪の根源ですね」

「……お初にお目にかかります、エレナ殿下。私は国の経済を発展させているだけですが」


「黙りなさい! 貴方は『経済』という言葉で国を乗っ取ろうとしている! 鉄道、銀行、物流……国の根幹を私企業が握るなど、あってはならないことです!」


 エレナの声に呼応するように、背後に控えていた保守派の貴族たち――かつて私がカジノで金を巻き上げた連中や、改革に反対する勢力――が一斉に声を上げた。


「そうだ! 殿下の仰る通りだ!」

「カイト商会を解体しろ! 鉄道と銀行を国に返還せよ!」


 なるほど。

 私は瞬時に状況を理解した。

 エレナ王女は、「純粋培養された正義感」を、帝国や国内の不満分子に利用されているのだ。彼女自身は本気で国を憂いているからこそ、タチが悪い。


「お父様、私は提案します。カイト商会の資産を凍結し、すべての事業を『王家直轄』とすることを」


 会場がどよめく。

 それは実質的な「財産没収」と「粛清」の宣言だった。


 ◇


「……ふざけるな。カイトが築き上げたものを、何もしていない王族が掠め取る気か?」


 隣でソフィアが殺気を放ち、剣に手をかけようとした。

 私は慌てて彼女の手を抑えた。


「落ち着いてください、ソフィア様。ここで剣を抜けば、我々は『逆賊』になります。相手はそれを待っている」

「だが、このままでは……!」

「大丈夫です。……王女殿下は一つ、致命的なミスをしています」


 私は一歩前に進み出た。


「エレナ殿下。貴方様の憂国ゆうこくの情、感服いたしました。……ところで、一つお伺いしても?」

「何かしら? 平民の分際で」

「貴方様が身につけているその美しいドレス、そして背後にいる貴族の方々が活動に使っている莫大な資金……**『どこから』出ているのですか?**」


 エレナの眉がピクリと動いた。


「無礼な! これは私の支持者たちからの純粋な献金です!」

「純粋な献金、ですか。……では、これをご覧いただけますか」


 私は懐から、ミナが徹夜で解析した「資金フローチャート」を取り出し、貴族たちに見えるように広げた。


「我が銀行は、国内の金の流れをすべて把握しています。貴方様の支持団体である『憂国騎士団』の口座……その入金元を辿っていくと、いくつものダミー商会を経由して、ある『外国』の口座に繋がりました」


 私は、チャートの終点にある紋章を指差した。

 双頭の鷲。

 **ガレリア帝国**の国章だ。


「なっ……!?」

 エレナが絶句する。


「まさか……そんな……私は、帝国の支援など……」

「貴方様は知らなかったのでしょう。ですが、貴方様を神輿みこしとして担いでいる連中は知っていたはずだ」


 私は背後の保守派貴族たちを睨みつけた。

 彼らの顔色が、一斉に青ざめる。


「カイト商会を潰し、王国の経済を混乱させる。それが帝国の狙いです。……殿下、貴方は『国を守る』と言いながら、敵国の金で動き、敵国の利益になることをしようとしていたのですよ」


 会場の空気は一変した。

 「愛国者」から「売国奴の傀儡」へ。

 貴族たちの視線が、エレナとその取り巻きに突き刺さる。


「ち、違う! 私は騙されていたのよ!」

 取り巻きの貴族が叫ぶが、もう遅い。


「近衛兵! その者たちを捕らえよ!」

 国王レグルスの一喝が響いた。

 保守派の貴族たちが次々と拘束されていく中、エレナはその場に崩れ落ちた。


「私は……国のために……」

「無知は罪です、殿下」


 私は冷たく言い放った。


「誰が金を出し、誰が得をするのか。それを見極められない者に、国を語る資格はありません」


 ◇


 騒動の後。

 王城のバルコニーで、私は夜風に当たっていた。

 今回の件で、国内の反対勢力は一掃された。帝国もしばらくは手出しできないだろう。


「……見事だったな、カイト」

 ソフィアがワイングラスを二つ持って現れた。

「だが、エレナの処遇はどうする? 騙されていたとはいえ、王族だ。処刑はできんぞ」

「わかっています。彼女には『教育』が必要ですね」


 私はグラスを受け取り、ニヤリと笑った。


「彼女には、カイト商会で働いてもらいます。皿洗いから始めて、金の重みと、社会の仕組みを底辺から学んでもらいましょう」

「フッ、王女をアルバイトにするとはな。お前らしい」


 乾杯の音が響く。

 国内の憂いは絶った。経済基盤も盤石だ。


「さて、ソフィア様。そろそろ……『外』へ出る準備をしましょうか」

「外?」

「ええ。王国という枠組みは、私の商売にはもう狭すぎます」


 私は夜空の向こう、海の方角を見据えた。

 大陸の向こうには、まだ見ぬ資源、技術、そして市場が待っている。


「次は**『海洋貿易』**です。……巨大な船を作り、世界中から富を集めます」



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