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第18話 偽札を追え! ~透かし技術とホログラムの導入~



 王都の朝。いつもなら活気に満ちている中央銀行前の広場が、今日は異様な殺気に包まれていた。


「金貨を返せ! 紙切れなんて信用できるか!」

「カイト商会は破産したらしいぞ! 銀行に金がないって噂だ!」


 群衆が銀行の鉄扉を叩き、怒号を上げている。

 **「取り付け騒ぎ(バンク・ラン)」**だ。

 発端は今朝、市場で見つかった一枚の「偽造紙幣」だった。それも、プロが見ても見分けがつかないほど精巧な偽物だ。

 「自分の持っている紙幣も偽物かもしれない」「銀行が勝手に紙を刷って騙しているのではないか」という疑心暗鬼が、瞬く間にパニックを引き起こしたのだ。


「……やり方が汚いな、帝国め」


 総裁室の窓から暴徒を見下ろし、私は舌打ちをした。

 ミナが真っ青な顔で報告書を持ってくる。


「カイト様、深刻です。市中に出回っている紙幣の約2割が『偽札』だと推定されます。帝国の地下組織が、組織的に大量の偽造紙幣をばら撒いています」

「通貨の信用を落とし、経済を崩壊させる気か。……古典的だが、効果は絶大だ」


 このままでは、銀行は預金者全員に金貨を返すことになり、資金がショートして本当に破綻する。それが帝国の狙いだ。


「カイト、どうする? 私兵団で鎮圧するか?」

 ソフィアが剣に手をかけるが、私は首を横に振った。


「武力で黙らせれば、余計に信用を失います。……ここは『技術』で黙らせましょう。ミナ、準備していた『新紙幣』のサンプルはあるか?」

「はい。いつでも発行できます」


 私は頷き、拡声機能のある魔導具を手に取った。


 ◇


 銀行の正面扉が開いた。

 私が姿を現すと、怒れる群衆が一斉に詰め寄ってきた。


「出てきたぞ! おい、俺の紙幣を金に変えろ!」

「この詐欺師め!」


 石が投げ込まれそうになる中、私は大声で告げた。


「静粛に! 皆様の不安は理解しています! 確かに現在、卑劣な他国の手により、偽造紙幣が出回っています!」


 私が「偽造」を認めると、群衆の怒りはさらにヒートアップした。

 だが、私は懐から一枚の、今までとは違う輝きを放つ紙幣を取り出し、高く掲げた。


「ですが、恐れる必要はありません! 当行は既に、絶対に偽造不可能な**『新紙幣』**を用意しています!」


「新紙幣だぁ? どうせまた偽造されるに決まってる!」


 野次が飛ぶ。私はニヤリと笑い、隣にいた商人の男を手招きした。


「そこの貴方。この紙幣を手に取って、空にかざしてみてください」


 男が半信半疑で紙幣を受け取り、太陽の光にかざす。

 すると、紙の中央に、うっすらと複雑な模様――国王の肖像と紋章が浮かび上がった。


「な、なんだこれ!? 紙の中に絵が入ってるぞ!?」

「それは**『透かし(ウォーターマーク)』**です。紙の厚さをミクロ単位で調整し、光を通した時だけ模様が見える特殊技術です。ただインクで印刷しただけの帝国の偽札には、これは真似できません」


 さらに、私は紙幣の端にある銀色の箔を指差した。


「そしてこれを見てください。見る角度を変えると……?」


 男が紙幣を傾ける。

 キラリ、と銀色の箔が七色に輝き、文字が『10000』から『GOLD』へと変化して見えた。


「い、色が動いた!? 魔法か!?」

「いいえ、**『ホログラム』**です。光の屈折を利用した特殊加工です。この技術は、世界で唯一、当行の印刷工場とドワーフのガンテツにしか作れません」


 群衆からどよめきが起こる。

 一目でわかる「本物」の証。

 その圧倒的な技術力が、人々の不安を驚きへと変えた。


「本日ただいまより、皆様がお持ちの旧紙幣を、全てこの『新紙幣』と交換いたします!」


 私は宣言した。


「ただし! 交換の際には、銀行内の魔導鑑定機を通します。もし帝国の偽札を持ってきた場合は……その場で没収となりますので悪しからず」


 ◇


 その日の午後。

 銀行の窓口には、再び長蛇の列ができていた。

 だが、それは怒号の列ではなく、新紙幣を求める整然とした列だった。


「すげぇ、本当に透かしが入ってる!」

「このキラキラしたホログラム、綺麗だな……これなら安心だ」


 人々は新紙幣を手に取り、その美しさと「偽造防止技術」に感嘆し、満足して帰っていく。

 金貨に戻そうとする者はほとんどいなかった。

 「偽造できない紙幣」という強烈な信用が、金への執着を上回ったのだ。


 一方で、列の途中で青ざめて逃げ出す者たちがいた。

 帝国の工作員たちだ。

 彼らは大量の偽札を抱えているが、交換に行けばバレるし、市中で使おうとしても「透かしがないぞ!」と突き返される。

 彼らの手元にある金は、ただの紙屑と化した。


 ◇


 夕方。平穏を取り戻した総裁室。

 ソフィアが新紙幣のホログラムを興味深そうに傾けていた。


「光の屈折を利用する、か。お前の知識には底がないな」

「地球の知恵ですよ。……これで当分、偽札騒動は起きないでしょう」


 私はコーヒーを飲み干した。

 経済攻撃も防いだ。

 だが、これで帝国が諦めるとは思えない。

 

「カイト、報告がある」

 ハンス執事長が入室してきた。その表情は硬い。


「偽札を持っていた工作員の一人を捕らえ、吐かせました。……どうやら帝国の狙いは、経済崩壊だけではなかったようです」

「なんだと?」

「彼らは騒ぎに紛れて、ある人物を王都に手引きしていました。……王家を揺るがす『劇薬』を」


 ハンスが差し出したメモには、王宮の奥深くに関わる、意外な人物の名が記されていた。



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