第16話 鉄道計画始動! ~古竜の巣を『駅ナカ』開発せよ~
「おいおい、本気かよカイトの旦那。鉄の塊を走らせるだぁ?」
カイト商会の開発工房。
ドワーフのガンテツが、私が広げた青焼きの設計図を見て目を丸くしていた。
そこに描かれているのは、馬車ではない。
巨大なボイラーと車輪を持ち、魔石を燃料に蒸気を吐いて走る怪物――**「魔導機関車」**だ。
「本気ですよ。馬車の輸送力には限界があります。一度に数百トンを、雨の日も風の日も休まず運び続けるには、これしかありません」
「へっ、面白ぇ! 俺の鍛冶師魂に火がついたぜ! レール用の鋼鉄は、リザードマンたちに採掘させりゃあいいんだな?」
ガンテツがハンマーを握りしめて興奮する中、深刻な顔をした測量隊のリーダーが飛び込んできた。
「カイト様! 大変です! 予定していたトンネルの掘削ルートに……『出』ました!」
「出た? 岩盤が固かったのか?」
「いいえ……古竜です!」
◇
王都と港町を結ぶ最短ルートにある「赤竜山脈」。
その中腹にある巨大な洞窟の前に、私とソフィアは立っていた。
洞窟の奥からは、灼熱の息吹と、地響きのようなイビキが聞こえてくる。
「……ヴォルカヌスか」
ソフィアが剣の柄に手をかけ、険しい表情で言った。
「神話の時代から生きる炎の古竜だ。気難しい性格で、眠りを妨げる者は国ひとつ焼き払うと言われている。……カイト、私が騎士団と魔導部隊を総動員して討伐するか? 被害は甚大だろうが」
「却下です。そんなことをすれば、コストがかかりすぎる上に、この山が崩れて鉄道どころじゃなくなる」
私はスーツの襟を正し、手土産の入った包みを抱えた。
「私が話してきます。商談です」
◇
洞窟の中はサウナのように暑かった。
奥に進むと、黄金のコインと宝石の山の上で、全長50メートルはある巨大な赤き竜が丸まって眠っていた。
「……人間風情ガ、我ガ眠リヲ妨ゲルトハ」
私たちが足を踏み入れた瞬間、巨大な黄金の瞳が開いた。
圧倒的な威圧感。
鼻息だけで炭になりそうだ。
「去レ。サモナクバ灰ニスル」
「お初にお目にかかります、偉大なる古竜ヴォルカヌス様。私はカイト商会の代表です。本日は、貴方様に**『儲け話』**を持って参りました」
私は一歩も退かずに言った。
竜の瞳が怪訝そうに細められる。
「儲ケ話……? 我ハ人間ノ小銭ナドニ興味ハナイ」
「そうでしょうか? 貴方様が寝床にしているその財宝……随分と古い時代のものばかりですね。最近は新しいお宝が増えていないのでは?」
図星だったのか、竜が唸った。
古竜といえど、引きこもっていては財宝は増えない。かといって、人間の街を襲えば討伐隊が来て面倒くさい。それが彼らの悩みだ。
「そこで提案です。この洞窟の床下を掘らせていただきたい。我々はここに『鉄道』を通します」
「鉄道? 鉄ノ馬ガ走リ回ルノカ? 喧シイ! 断ル!」
竜が口を開き、炎の塊を吐こうとする。
私は素早く叫んだ。
「ただ通すだけではありません! ここを**『竜の駅』**として開発させてください!」
私は一枚の完成予想図を見せた。
「駅ができれば、毎日数千人の人間がここを通ります。彼らは貴方様を一目見ようと、入場料を払ってこの洞窟を訪れるでしょう。貴方様はただそこで寝ているだけでいい。……入場料の売上の50%を、毎日『上納金』として貴方様の財宝の山に追加します」
「……ナニ?」
竜の炎が止まった。
「寝テイルダケデ、財宝ガ増エルノカ?」
「はい。さらに、駅ナカには土産物屋を作ります。貴方様の鱗(抜け落ちたもの)を加工したキーホルダーや、貴方様の炎で焼いた『ドラゴンステーキ弁当』を販売します。こちらのロイヤリティもお支払いします」
これぞ、現代日本の最強ビジネスモデル**「駅ナカ」**だ。
集客力のあるコンテンツ(この場合は古竜)を中心に商業施設を作り、客に金を落とさせる。
「さらに……貴方様を**『名誉駅長』**に任命します」
私は手土産の包みを開けた。
中には、特大サイズの「駅長の制帽」が入っていた。
「駅長……? 人間ドモガ、我ヲ崇メルノカ?」
「ええ。皆が貴方様を敬い、貢物(チケット代)を捧げるでしょう。討伐隊に怯える日々は終わりです。これからは『観光資源』として、安らかに財宝の上で暮らせるのです」
ヴォルカヌスは長い間考え込んだ。
そして、その巨大な爪で器用に金貨を一枚弾いた。
「……悪クナイ。人間ノ街ヲ襲ウヨリ、遥カニ効率的ダ」
「では、契約成立ということで?」
「ウム。……タダシ、ソノ『ドラゴンステーキ』トヤラ、我ニモ食ワセロ。最近ハ生肉バカリデ飽キテいた所ダ」
◇
数ヶ月後。
開通したばかりの「大陸横断鉄道」。
その最大の難所であった赤竜山脈トンネルの手前に、巨大な駅が完成していた。
駅のホームには、巨大なガラス越しに、財宝の上で優雅に寝そべる古竜ヴォルカヌスの姿が見える。
その頭には、特注の駅長帽がちょこんと乗っていた。
「すげぇ! 本物の古竜だ!」
「キャー! こっち向いてー!」
観光客たちがカメラ(魔導写し絵)を向け、売店では「古竜まんじゅう」が飛ぶように売れている。
チャリン、チャリン。
その売上の一部は、自動的にヴォルカヌスの寝床へと運ばれていくシステムだ。
「……まさか、災害級の魔物を『客寄せパンダ』にするとはな」
一番列車のVIP席で、ソフィアが呆れ返っていた。
窓の外では、ヴォルカヌスが退屈そうにあくびをし、その鼻息で観光客が「キャー、あったかーい!」と喜んでいる。
「Win-Winですよ。彼は寝て暮らせる。我々はトンネル工事の手間が省け、観光収入も得られる」
私は車窓を流れる景色を見ながら、コーヒーを啜った。
鉄道が繋がった。
これで、人、物、金。すべての動きが加速する。
「さあ、次は終着駅……『帝国』との国境ですね」
レールの先にあるのは、軍事大国ガレリア帝国。
武力で世界統一を目論む覇権国家だ。
彼らがこの「鉄道」を見た時、どう動くか。……本当の戦いは、ここから始まる。




