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第13話 王都攻略戦 ~店舗なき『通販』でギルドを出し抜け~



 王国の中心、王都「ロイヤル・クラウン」。

 人口50万を誇るこの巨大都市は、経済と流行の最先端だ。


「……申し訳ありません、カイト商会長。貴方様に貸せる物件は、王都には一つもありません」


 大通りの不動産屋。

 店主は、青ざめた顔で頭を下げた。


「一つも? 空き店舗ならそこら中にあるじゃないか。金なら相場の三倍出してもいいと言っているんだが?」

「お、お金の問題ではないのです! 『中央商業ギルド』から通達が来ているんです。『カイト商会に物件を貸した者は、今後一切の商売を禁ずる』と……!」


 店主は震えながら、私を追い出した。

 これで10件目だ。


「……露骨な嫌がらせね」

 隣を歩くミナが、不機嫌そうに猫耳を伏せた。

「王都の一等地にお店を出して、ドカンと宣伝する計画が台無しじゃない。どうするの? 郊外のボロ倉庫しか借りられないわよ」


 そう、ギルドは私が王都のメインストリートに店を構えるのを全力で阻止しているのだ。

 ギルドマスターは「ゴルバ」。既得権益の権化のような古狸だ。

 新参者が目立つ場所で商売をすれば、客を奪われると警戒しているのだろう。


「郊外のボロ倉庫? 上等じゃないか」


 私はニヤリと笑った。


「むしろ好都合だ。家賃が安く済む。……ミナ、その『ボロ倉庫』を借りよう。できるだけデカいやつをな」

「はあ? そんな辺鄙へんぴな場所にお店を出しても、お客さんなんて誰も来ないわよ?」

「客に来てもらう必要はない。……『店』が客の家に行けばいいんだ」


 ◇


 一週間後。

 王都の貴族街や富裕層の家のポストに、一冊の薄い冊子が投函された。


 表紙には、美しい多色刷りの版画(※カイトが導入した技術)と共に、こう書かれていた。

 **『カイト商会 創刊号カタログ ~王都のどこへでも、明日お届けします~』**


「なんだこれは? 商人の売り込みか?」


 ある貴族の夫人が、退屈しのぎにその冊子を開いた。

 次の瞬間、彼女は目を奪われた。


 そこには、見たこともない高品質な商品の数々が、美しいイラストと「説明文」、そして「明確な価格(定価)」と共に並んでいたのだ。


* **『純白の石鹸』**:金貨1枚(肌を傷つけず、泡立ち最高。フローラルの香り付き)

* **『透き通るガラスのコップ』**:銀貨5枚(職人が一つ一つ手作り……ではなく、工場量産品の均一クオリティ)

* **『最高級スパイスセット』**:金貨3枚(胡椒、シナモン、クローブの小瓶詰め合わせ)


「なっ……安すぎるわ! 市場の半値以下じゃない!」


 夫人は驚愕した。

 通常、商人は客の足元を見て値段をふっかけてくる。値切り交渉が常識だ。

 だが、このカタログには「誰でもこの価格」と書いてある。


 そして、最後のページにはこう記されていた。

 『欲しい商品の番号を付属の注文票に書き、玄関のドアノブに掛けておいてください。当商会のランナー(走る配達員)が回収し、**翌日には商品をお届けします**』


「店に行かなくてもいいの? あの臭くて混雑した市場に行かずに、家で待っているだけで……?」


 夫人は震える手で羽根ペンを握った。

 これは、買い物の革命だった。


 ◇


 王都の郊外、元幽霊屋敷と言われた巨大倉庫。

 そこは今、戦場のような活気に包まれていた。


「注文票回収! 北区画だけで300件です!」

「西区画からも追加! 石鹸の注文が止まらねぇ!」


 統一された制服を着た「ランナー」たちが、街中から回収してきた注文票を次々と持ち込んでくる。

 倉庫内では、リザードマンたちが怪力を活かして商品をピッキングし、箱詰めしていく。


「ミナ、在庫状況は?」

「石鹸とガラス製品は完売間近! すぐに追加発注をかけて! ……すごいわ、カイト様。店舗家賃と販売員の人件費がかからない分、商品を安くしても利益率が30%を超えてる!」


 ミナが興奮気味に報告する。

 これが**「無店舗販売(通信販売)」**の強みだ。

 一等地の高い家賃も、華美な内装も、客の相手をする店員もいらない。

 必要なのは「倉庫」と「物流」だけ。


 そして物流なら、私にはあの**「サスペンション馬車」**がある。

 領地から王都へ、商品を大量かつ高速にピストン輸送する体制は完成していた。


 ◇


 一方、中央商業ギルド本部。


「な、なんだと!? 客が来ない!?」


 ギルドマスターのゴルバは、報告を聞いて椅子から転げ落ちそうになった。

 王都の一等地にあるギルド加盟店から、客足がパタリと途絶えたというのだ。


「は、はい……。貴族の奥様方は『カイト商会のカタログで買うから、わざわざ出向く必要はない』と……。それに、平民たちも『ギルドの店は値段をふっかけるから信用できない』と言い出して……」

「馬鹿な! あいつは店を持っていないんだぞ!? 倉庫だけのネズミが、どうやって商売をしているんだ!」


 ゴルバは窓から通りを見下ろした。

 そこには、青い制服を着て、背中に「カイト商会」のロゴが入った荷物を背負い、軽快に走り抜ける若者たちの姿があった。

 彼らは街の隅々まで入り込み、商品を届けている。


「くっ、おのれカイト……! 店舗を締め出せば干上がると思っていたが、まさか『道の家』を一軒一軒回るとは……!」


 ゴルバはギリリと歯噛みした。

 だが、これはまだ序章に過ぎない。

 カイト商会がばら撒いたカタログには、実はもう一つ、ギルドを破滅させるための「仕掛け」が隠されていたのだ。


 カタログの裏表紙。

 そこには、カイトからのメッセージがあった。


 **『当商会は、全ての商品取引において【複式簿記】による明朗会計を行っています。不正のない、クリーンな商売を』**


「複式……簿記、だと?」


 ゴルバの顔色が土色に変わる。

 それは、どんぶり勘定と脱税が当たり前のギルドにとって、最も触れられたくない禁忌タブーだった。



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