第11話 空飛ぶ輸送隊 ~ワイバーン便で資材を空輸せよ~
「カイトの旦那! レンガと鉄材が届かねぇぞ! このままじゃ明日の作業が止まっちまう!」
ドクロ沼の建設現場。
ガンテツの怒声が響いた。リザードマンたちが基礎を固めた後、いよいよ建物の建設に入る段階で、物流がピタリと止まったのだ。
「確認しました。……どうやら『通行止め』を食らっているようです」
報告に来たハンス執事長の顔が険しい。
ドクロ沼へ続く唯一の街道は、隣国である「バルバロス大公領」の国境付近を通っている。
そこに関所が設けられ、輸送馬車がすべて止められているというのだ。
「バルバロス大公家……。次男のゼクスか」
ソフィアが忌々しげに呟いた。
ゼクス・フォン・バルバロス。大公家の次男であり、ソフィアを執拗に狙っている求婚者の一人だ。
「あやつめ、私にフラれた腹いせに、カイトの事業を邪魔する気か。……カイト、私が私兵団を率いて関所を突破してこようか?」
「いえ、武力衝突は避けましょう。相手の思う壺です」
私は冷静に地図を見た。
ゼクスからの通達にはこうある。『我が領土を通る商隊には、積荷の9割を通行税として徴収する』と。実質的な封鎖だ。
「陸がダメなら、別のルートを使えばいいだけです」
「別ルート? 沼の反対側は切り立った岩山だぞ。道などない」
「道がなければ……空を使えばいいんです」
私は地図上の岩山地帯――「竜の峰」を指差した。
◇
翌日。私は大量の「最高級霜降り肉」を【収納】し、単身で岩山地帯へ向かった。
そこは、凶暴な飛竜――**ワイバーン**の巣窟として恐れられている場所だ。
岩肌にしがみつくように、巨大な翼を持つ竜たちが群れている。
私が姿を現すと、数匹のワイバーンが威嚇の鳴き声を上げて舞い降りてきた。
「ギャオオオッ!!」
「よしよし、いい子だ。腹が減ってるんだろう?」
私は襲いかかってくる爪を紙一重でかわし、ドサリと巨大な肉塊を取り出した。
地球から取り寄せた「A5ランク和牛」だ。
鼻を突く脂の甘い香り。
ワイバーンたちの動きがピタリと止まる。
彼らは普段、痩せた山羊や魔物を食べている。こんな極上の脂身など食べたことがないはずだ。
「食っていいぞ。……ただし、俺の話を聞いてくれるならな」
一匹が恐る恐る肉に噛み付く。
次の瞬間、その目が恍惚に見開かれた。
「グルルルッ!(ウメェッ!)」
一瞬で肉は骨だけになった。他のワイバーンたちも「俺にも寄越せ」と集まってくる。
交渉の余地ありだ。
「お前たちに、この肉を毎日やる。代わりに……これを着けて荷物を運んでくれ」
私は開発しておいた特製の「輸送用ハーネス」を取り出した。
ワイバーンの飛行能力を妨げず、かつ腹部にコンテナを吊り下げられる構造になっている。
彼らにとって、数百キロの獲物を掴んで飛ぶのは日常茶飯事だ。資材運搬など造作もない。
「契約成立だな?」
「ギャオッ!(肉さえくれれば何でもやる!)」
◇
数時間後。
大公領の関所では、ゼクスがふんぞり返っていた。
「はっはっは! 見たか! カイトとかいう成り上がりめ、資材がなくて泣き喚いている頃だろう!」
街道には、立ち往生した馬車の列ができている。
ゼクスは勝利を確信していた。このまま工期が遅れれば、カイトは破産し、ソフィアとの婚約も破棄されるはずだ。
その時。
上空から、バサバサという巨大な羽音が響いた。
「ん? なんだ?」
兵士たちが見上げると、太陽を遮るように巨大な影が次々と通過していく。
ワイバーンの編隊だ。
しかも、その足には「カイト商会」のロゴが入ったコンテナがぶら下がっている。
「な、なんだあれはァァァッ!?」
「飛竜!? いや、荷物を運んでいるぞ!」
ワイバーン輸送隊は、関所の上空を悠々と飛び越えていく。
先頭のワイバーンに乗った私が、眼下のゼクスに向けて手を振った。
「やあ、ゼクス様! 関所の警備ご苦労さまです! 空は通行税がかからないので助かりますよ!」
「き、貴様ァァァッ!! 撃て! 撃ち落とせ!」
ゼクスが叫ぶが、弓矢が届く高度ではない。
そもそも、ワイバーンの鱗は矢程度では傷つかない。
私たちは関所を完全に無視し、ドクロ沼へと一直線に飛んでいった。
◇
ドクロ沼の現場には、空から次々と資材が投下されていた。
パラシュートをつけたコンテナが着地するたび、リザードマンたちが歓声を上げて回収していく。
「すげぇ! 本当に空から届きやがった!」
「レンガも鉄骨も無傷だ!」
「しかも、馬車よりはるかに速いぞ!」
ソフィアが空を見上げ、呆れたように笑った。
「陸はリザードマン、空はワイバーンか……。カイト、お前はいずれ魔王軍でも作る気か?」
「人聞きが悪い。ただの『総合物流会社』ですよ」
私はワイバーンの首を撫でながら答えた。
空輸ルートの確立。
これにより、ドクロ沼建設の最大の懸念点だった「アクセスの悪さ」は、逆に「空からしか行けない秘境」というプレミア感へと変わった。
さあ、資材は揃った。
いよいよ、この泥沼の上に、夢と欲望の結晶――巨大カジノホテル「ミラージュ」を建設する時だ。




