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第3話 裏山の石碑

 小さい頃は、小学校の裏山でよく遊んだ。昼休みになれば友達と校舎を走り出て、急いで裏山に向かったものだった。

 


 ある日、裏山に石碑を発見した。竹やぶに囲まれていた場所にあって、今まで見つけられなかったのだろう。石碑は5メートルくらいの立派なものだった。何かが書いてあったが、難しい漢字なので読めない。


幼い僕たちはその石碑に登ろうと頑張ってみたりした。つるつるしているのでどうも無理だった。そのうち飽きて、昼休みも終わるので急いで校舎に戻った。



 それから15年くらい経って、正月に帰省したときのこと。突然あの石碑が気になった。なんと書いてあったのだろう。あれはなんの石碑だったのだろう。当時は読めなかった漢字も今なら読める。そう思って一人で裏山に向かった。


裏山は記憶より荒れていた。この町もどんどん過疎化が進んでいるから手入れされてないのだろう。記憶を頼りに5分ほど探すと、確かに竹やぶに囲まれた、暗い一角があった。


やっぱりあった、と竹やぶに入り込むと、おやっ、と思った。


 

 石碑はあった。が、様子がおかしい。ボロボロに壊されている。5メートルほど垂直に立っていた石は途中で折られ、角ばっていた両端は何百年も雨に打たれたかのようにガザガサに丸くなっている。


 誰かが荒らしたのだろうか? しかしこんなに大きな石碑を折ることは人間には難しいだろう。


 そういえば、とここに来た理由を思い出した。石碑には何と書いてあるのだろう。石碑の文字を読もうと近づいたが、石の表面は劣化しきっていて丸くなり、文字が全然読めない。


「○○歯之碑」のような字が見えるが、よくわからない。あとでよく見るためにスマホで撮影する。そういえば、石碑にはだいたい裏に詳しいことが書いてある。そちらが読めるかもしれない。そう思って裏に回った。


 石碑の裏は異様な状態だった。文字が書かれていたと思う場所には爪痕のような線が大量に走っていて、全体に血のような赤黒いものがシミていた。


「ひいっ」とたじろいだ。もちろんこんなものは小学生の頃にはなかった。そのとき、竹やぶがザワッと鳴った。


 音を鳴らしたのは風だったのだろうが、とにかく恐ろしくなって、慌ててそこから逃げてしまった。足元でカラン、と音がしたが、振り向く勇気はなく、ただただ走って自宅まで逃げ帰った。


 家に飛び込むと母はカンカンだった。

「どこに行ってたの? 電話くらい出なさいよ!」

「いや……それが……」

「分かってるわよ! 正月だからって、昔の友達と飲み会でもして酔い潰れたんでしょ! そのまま丸一日寝ちゃったのね! それはいいけどメッセージくらい読んで」

「えっ、丸一日?」

「まだ酔ってるの? あんた昨日、家を出てからメッセージ一つも寄越さなかったじゃない!」


 耳を疑った。家を出て、裏山に行って、帰った。ざっと1時間もかからないはずだ。震える声でいきさつを母に語った。


 母の返答は衝撃的なものだった。そんな石碑は見たことも聞いたこともない。この町に四十年以上住んでるが初めての話だ。そんな石碑は地元の人からも聞いたことがない。


 ウソでしょ?と言う母親にスマホを見せようとしたが、スマホがない。石碑近くの足元でカランと鳴ったのはそれか。スマホを落としてしまった。


 恐ろしいが、スマホは取り返さないといけない。母についてきてもらって、石碑を探したが、まったくもって見つからない。あの竹藪さえ見つからない。小学校のときの友達を訪ねて、石碑について聞いてみたが、そんな記憶はないと言う。町の高齢者たちも、そんな石碑は知らないと口を揃えた。


 しょうがないのでスマホは新しいのを買った。電話番号は変えるハメになった。


 それからのことだ。仕事場のある町に帰ると、夜中に電話があった。なんと落としたスマホの番号からの着信だ。誰かが拾ってくれたのかもしれない。急いで出てみると、「ザアッ、ザアッ、ザアッ」とノイズのようなものだけが聞こえる。「もしもし?」「ザアッ、ザアッザアッ、ザアッ……」


 怖くなって着信拒否してしまった。もう掛かってくることはないが、あれが何だったのかは知りたくもない。


 



 

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