変身
僕はこれからどうなるのだろうか。
知らない人にほいほいついて来たのは僕だ。内臓がいくつかなくなっても文句は言えないだろう。
彼女は何が目的なのだろうか。
不思議さと不気味さで彼女への印象がいっぱいになった。
しばらくするとドアがノックされた。
「どうぞ」
少しの緊張感を持って返事をする。
「お昼はパスタにしようと思うんだけどアレルギーとか嫌いなものとかある?」
「何でも食べられますよ」
本当はきのこが嫌いなのだが世話になっている身でそこまで図々しいことを言える人間ではない僕はこのことを黙っておいた。
「じゃあ三十分くらいしたらできるから」
彼女はそう言って戻っていった。
三十分もすることなど僕にはない。
とりあえず自分の持ってきた荷物の整理だけしておいた。
部屋の荷物を弄くり回すのは流石に申し訳ないので控える。
それでも時間が余ったのでスマホを開いた。
切っていた電源を入れ直す。
もう飛ぶ必要はない、そのため電源を切っておく必要もなかった。
飛ぼうとしてから約四時間が経過しており十二時十分だとスマホが僕に伝える。
メッセージアプリには数人から心配する連絡が来ていた。
母親からの電話も来ているようだった。
勿論既読をつけるなんて行為は絶対にしない。
ツイッターを見ていると二十五分ほど経過したため彼女の元へ行く。
彼女はキッチンでパスタの盛り付けをしていた。
「ちょうどよかった。このお皿運んどいて」
彼女が盛り付けた皿を僕が運ぶ。
なんだか家族になったみたいだった。
彼女が持ってきてくれたフォークを受け取り椅子に座る。
「「いただきます」」
彼女が作ったパスタは和風パスタだった。
僕の舌は特別優れているわけではないので詳しいことの記載はできないが、とても美味しかった。
きのこも入っていなかった。
それはおいておくとして、僕は彼女に聞かなければならないことがある。
「お姉さんの目的ってなんなんですか?」
僕は彼女の目をしっかり見つめて質問した。
彼女は見つめ返してくる。
全てを飲み込み、見透かしてしまいそうな目だが僕は負けじと見つめ続ける。
彼女は食べていたパスタを飲み込んでから口を開いた。
「私はね。君みたいな人が必要なんだよ。恩返しのためにも」
「……恩返し?」
もしかしたら内臓がなくなるかもしれないと思い聞き返す。
彼女は微笑んだ。心配など杞憂だとでも言うように。
「君からなにか奪うとかじゃないよ? ただ、私も君みたいな時期があって、君から見た私みたいな人が私を拾ってくれたんだ。その真似事をしているだけだよ」
これ以上聞かないで欲しい、彼女の目はそう語っていた。
僕は目を逸らし、この話題を中断した。
「君が自由になるための準備が必要だからね。しばらくは忙しいぞ」
彼女は明るい声でそういった。
食事を終えしばらくすると彼女は僕を外へ連れ出した。
今回は歩きだ。
「まずは髪を切ろうか」
「はぁ?」
曰く、しばらくすると捜索願が出されるだろう。
その時君が元の姿でいては元の場所に戻るだけだ。
だから印象を変えよう、ということらしい。
なるほどと思い、僕は目にかかるくらいには長かった髪をバッサリと切り、髪を茶色に染めた。
頭が涼しくなりなんとなくソワソワする。鏡を見てみるとまるで別人のようになっていた。
「折角だしピアスもあけちゃおうか」
「あれ痛そうだから嫌なんですけど」
「かなり印象変わるからさ、あけたほうがいいよ」
それでも渋っていると彼女の目は冷たくなり、
「ここまで来たんだから変わるなら徹底しなさい」
と言われれば頷くしかなかった。
穴は彼女に開けてもらった。
両耳あけたが想像の十分の一程しか痛くなかったし、血も出なかった。
見た目は完全に別人と化し、僕は彼女についてきてよかったと感じていた。
飛ぼうとしたのは半日前なのに自分は死ぬ以外の方法で新たな人生を得た気分だった。
だからもう、メッセージアプリを開く必要はなかった。
未読メッセージは二百を余裕で超えていた。
ついでに新しいスマホを契約し、昔のスマホはデータを初期化して捨てた。
大事なデータだけ移そうとも思ったが大切なものはもう過去にはない。
だから何も手間取らなかった。
新しくダウンロードし直したメッセージアプリのIDを彼女と交換した。
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