互いの波長
僕らが共に行動を始めたのは一日の八分の五が過ぎてしまった辺りだったため、休日ということもありアトラクションすべてを満喫するような時間は残されていそうになかった。
一人ぼっちだった頃の僕ならばこの現状に対して大きな不満を抱いただろうが今の僕はそうではなかった。
寂しさはアトラクションの機械的な刺激ではなく、彼女たちの元気さが埋め立ててしまうからだ。
僕は星慈として正しいであろう言動を心がけつつ、最初に乗るアトラクションがある場所へと向かった。
彼女らの厳正なじゃんけんの結果、最初に乗るのはジェットコースターになった。
遊園地内にジェットコースターはいくつも存在しているようだったが、日本一高いものではなく、スピードや回転が売りのものに乗ることになった。
アトラクションに向かう際の歩くペースはかなり遅く、最初は歩みを揃えようと懸命になっていたが、ふと気がついたら彼女らの歩くペースが僕の身に染み付き、苦ではなくなっていた。
僕らは互いの学校での話や互いの面白可笑しい身の上話を繰り広げながらアトラクションに向かった。
並ぶ列が見えてきた辺りで、耀がにやりと笑って
「回転すごくて怖いかもだけど、漏らさないでよ」
と僕らに語りかけた。
「ちょっと! 私そんなことしないよ! 星慈くんが勘違いしちゃうでしょ!」
美鈴は僕の顔をちらりと見てから必死に否定し、
「美鈴じゃあるまいしそんなことしないよ〜」
とアハハと笑いながら遥海は答えた。
それを受けて美鈴はまた僕に大した意味のない弁明をする。
だが、勿論美鈴自身も本気で言われているとは思っていないため過剰な演出をしているようだった。
その証拠に空気がギスギスすることもないし、なにより皆が笑っていた。
ならば僕もこの流れに乗るのが自然だ。
「……美鈴、次からは換えのパンツ持ってきたほうがいいと思うぞ」
と僕もまるで彼女らの発言を真に受けたかのごとく過剰に返しておいた。
耀と遥海はそれを聞いて爆笑した。対して美鈴は頬を膨らませたが、それでも口元は笑っていた。
そこそこ長かった列を並びきり、僕らがジェットコースターに乗れる順番が回ってきた。
運良く列の最前になることができたため、僕らは乗り物の先頭に乗ることができるようだった。
二人並んで座るタイプのジェットコースターで、じゃんけんの結果僕と美鈴が前、耀と遥海が後ろになった。
「あたしも前が良かったぁ!」
と耀は悔しそうにしていたが、僕も前が良かったため、勝ち誇った顔をして係員の人に案内されるままに最前席に座った。
美鈴も席譲る気は無いようで、僕の隣りに座った。
乗る前は大変元気だった僕たちも、降りてしまってからはジェットコースターに翻弄された疲れと余韻にゆっくり浸った。
急下降中に撮影されていた写真に映る互いの不細工だが楽しそうな顔を見て笑い、折角だからと思い僕らはその写真を買った。
これは僕が星慈になってから初めて撮った写真だった。
初めての写真の割には風と恐怖で顔は歪んでしまっているが、それでも口元は笑っており、僕は満足だった。
こうして僕らが遊園地をぐるりと周ると、すっかり日は沈んでしまった。
それは、あと一つアトラクションに乗れるかどうかというような時間になったことを意味していた。
最後は観覧車に乗るということで僕らの意見は一致していたため、僕らは長蛇の列の一部となった。
全面がガラス張りで三百六十度どこだって見えるゴンドラもあったが、全体のゴンドラに対して明らかに少なく、そのくせガラス張りに乗ろうとする人は多かったため僕らは普通のゴンドラに乗ることにした。
マシな方の列とはいえ十分な長さを誇る観覧車は、このアトラクションが人々に親しまれている何よりの証拠だった。
ゴンドラに乗り込む際に案内してくれた男性スタッフの僕に対する妬ましそうな視線を感じながらもそれに気づかないふりをしつつ四人で乗り込んだ。
夜になってしまっているから真っ暗闇しか見えないのかと思っていたけれどどうやらそうでは無いようで、園内の輝きは勿論、園外のビルや建物から漏れ出る輝きがまるで宝石のように感じられた。
「星慈くんってもしかして観覧車乗ったことないんですか?」
急に美鈴にそんなことを言われ僕はひっくり返りそうになった。
「そうだけど、なんで分かったの?」
と尋ねると
「なんでってそりゃそんなに目をキラキラ輝かせて観覧車に乗れるのは乗ったことない人でしょ」
と遥海に突っ込まれてからは僕がいじられる雰囲気になった。
僕も先程の美鈴のように笑いながら、彼女らの相手をした。
観覧車が一周する時間というのは傍から見ているとゆっくりしているように感じていたが、実際乗ってみたら一瞬で時間が過ぎ去ったような気がした。
観覧車から降りた僕たちは、元々遅かった歩みを名残惜しむように更に遅め、園外と園内を隔てるゲートへと向かった。
お姉さんのことで一時落ち込んだけれども、彼女たちのおかげで僕は今日を楽しかったという思い出で終えられそうだった。
初めての遊園地が楽しかったという記憶で終わることが僕にとってはとても嬉しいことだった。
そのようなことを考えながら話しているとゲートを出た辺りで耀は思い出したように僕に質問した。
「そういえばさ、あたしたちが声かける時に元々二人だったって言ってたけど、その人は待たなくていいの?」
僕はなんと答えるべきか迷ったが、
「どうせすぐ会えるしね。それにあの人はもう先に帰ってる気がするんだ、なんとなくだけど」
と答えると、耀は適当に相槌を打った。
これ以上質問されても困るため、この答えでこの話題を打ち切ってくれてありがたかった。
帰ったらお姉さんに今日何を考えていたのか、車の荷物は何なのか聞いてみよう。そう考えていたことを僕は思い出した。
通っている学校が近いこともあり、帰宅路も途中までは同じようだった。
乗り換えた後に乗る電車が違うだけなので、僕らは同じ電車に乗り、連絡先を交換したり、またいつか一緒に遊ぼうというようなふわっとした約束を取り付けた。
電車が乗換駅に到達し、僕らは別れることになった。
まだまだ会話は続いていたから名残惜しくもあったが、またいつか会えるだろうと思い、僕は家に帰ることを選択した。
彼女らは降りる駅が同じようなので僕だけが別れる形となった。
別れ際、彼女たちは僕に向かって大きく手を降ってくれていた。
僕もゆっくりと歩きながら時折振り返り手を振った。
駅のホームを移動し、完全に見えなくなってしまってから、僕は彼女たちに植え込まれたゆっくりとしたペースを失い、段々と加速していった。
結局僕はこのくらいのペースが最も心地よいのだろう。
きっと次彼女たちと遊ぶときも、始めのうちは歩くペースを意識的に合わせなければならないだろう。
そして彼女たちと何度遊んだとしても、歩くペースを合わせようと何度だって意識するだろう。
僕はそんな事を考えながら電車に乗り込み、お姉さんが待っているであろう自宅に急いだ。
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