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庭の一員として

「僕は二年三組の鈴木悠一。会長をやっている」


「私は二年一組の田中真希。不本意ながら悠一の補佐、副会長をしてるわ」


「私は星慈くんのクラスメイトだから知ってると思うけど一応、一年二組坂本愛梨です。会計担当だよ」


 僕が『時得の庭』に加入してから彼らは自己紹介をしてくれた。

 現在の庭には三年生がいない。もう十一月というのもあり、普通の部活動なら三年生がいないのが当たり前だが、この組織は他の部活動とは違い三年生も卒業まで所属し続けるらしい。

 流石に会長等の役職交代は夏の間に終わらせてしまうため、三年生にはそこまで負担がかからなくなっているようだ。

 しかし負担を減らしたところで、庭メンバーは三年生になっても受験生としての自覚を持つタイプの人間が少ない。

 なぜなら庭のメンバーは大学に行くだけなら簡単に行くことが可能だからだ。

 おじいさんは鶴の一声で指定校推薦の枠を与えることができるため、庭メンバーはそこそこの大学には簡単に入学が可能なのである。

 だから三年生になったからといっても忙しくなることはなく、庭としての活動を普通に行うらしい。

 勿論その権力を外れた道を進む庭メンバーも過去には数え切れないほどいるし、そういう人のために役職交代を済ませてしまうのだろう。

 会長や真希先輩、愛梨がどうするつもりかは知らないが、僕は普通の学生のように受験生として三年生を過ごすつもりだ。

 そんな僕にとっては役職交代が早く済ませられるというのは良い制度であった。


「我々の組織は、君を含めたこの部屋にいる四人で全員だ。そこで君には書記をやってもらいたい」


 会長は厳かな雰囲気を纏おうと尽力しているようだったが既に話し方以外からは風格が失われており、彼が残念な人であることが伺えた。

 話を聞く限り具体的な活動は見えてこなかったが、役職は一般的な生徒会のように幾つか存在しているようだった。


「それは別に構いませんが書記は主に何をするんですか? 会議の記録とかするんですかね?」


 僕の疑問には真希先輩が答えてくれた。


「会議なんてほとんどしないわ。主な仕事は活動内容の記録ね。つまりは毎日ダラダラしている私達の様子をなるべく体裁よく取り繕う仕事よ」


「ちなみに僕や真希は代表っぽく偉そうに振る舞うのが仕事だ」


 この組織は何故生徒の憧れでいられるのか、その一端を僕は心から理解した。


 連絡先を全員と交換してグループチャットに混ぜてもらった後、僕は一度教室に戻りたいと伝えた。

 あまり昼休みの時間も残っていないし、何より僕はまだ昼食を取り終わっていないからだ。

 彼らはそれを認め、各々昼食を取ることになった。彼らはこの庭で食べるらしい。

 扉を開け部屋を出ようとしたタイミングで、


「今日の放課後は活動するから必ずここに来てね」


 愛梨にそう伝えられた。


 教室の扉に辿り着いた時、昼休みは残り十五分になっていた。

 扉を開けると騒がしかった教室の視線は一度に扉に集まり、開いた主が僕だと分かると僕は一気に囲まれた。

 彼らが僕に投げかける言葉は十人十色であったが、聞きたそうにしている内容は一致していた。

 おおまかにまとめてしまえば、佐藤星慈は『時得の庭』にスカウトされたのか、ということだ。

 僕は昼食を取りたいからと一度席に座らせてもらったが、僕の周りには人が大勢集まり、僕を囲い続けていた。

 僕は弁当を食べながら、彼らの質問に答えた。

 庭にスカウトされたこと、それを既に受けたことの二つについては正しく伝え、会長の人柄、副会長の人柄、の二つについてはしっかりと外面だけを教えた。

 会長の連絡先、副会長の連絡先の二つに関しては流石に教えなかった。

 星慈というキャラをそこまで軽薄にしたくなかったからだ。

 十五分という短い時間に対する質問者の量は釣り合っていなかったものの、質問の量は十五分で捌ける量だった。

 だから昼休みの終了と五時間目の開始を告げるチャイムが鳴った時、彼らは満足そうにして僕の席周辺を去っていった。

 比はその間遠くで他の友人と話していた。彼は授業中に聞きたいことをじっくりと聞くつもりなのかも知れなかった。


 五時間目が始まったにも関わらず、愛梨は教室に戻ってこなかった。

 僕と比は例に漏れずヒソヒソと会話していた。


「なあオレも『時得の庭』に招待してくれない?」


「……ごめんな比。気を悪くしないでほしいんだがお前のことは招待できないんだ」


「そっか。まあそう簡単に入れたら苦労しねぇか」


 彼はすんなりと納得してくれた。

 ここで突っかかってこないところが彼の美徳なのだと、出会って間もない僕にも分かった。


「なら星慈、副会長さんの連絡先をくれ!」


「自分でもらってこい。庭に入らなくても教室まで行けばいいだろ」


 彼の懇願を一蹴したタイミングでスマホが震えた。

 僕は自分が通知音を切るタイプであったことに対して心から感謝した。

 スマホの通知音が授業中に鳴ることを心から嫌っていそうなタイプの教師が授業をしていたからだ。

 先生がこちらを見ていないことを確認してから比に断りを入れ、誰からの連絡だろうと確認するとどうやら『時得の庭』のグループチャットの通知だったようだ。

 通知音を鳴らしたメッセージの後に二件のメッセージが連投され、合計三件メッセージが未読状態となった。

 グループを開くと、


『星慈も僕らと一緒にサボってもいいんだよ?』


『私達はいつでも公欠を使えるのよ』


 という人としてだめな部類のメッセージが送られた後に、真希先輩から庭でくつろぐ三人を内カメラで捉えた写真が送られていた。

 写真の中の彼らは真希先輩、愛梨が一つのソファに座り、対面のソファに会長が座っていた。


「誰からの連絡だったん?」


「庭の連中から」


 僕はそう言って送られてきた画像だけを彼に見せた。

 流石に文面は見せられない。彼らの作り上げたイメージ像が壊れてしまうからだ。

 比は授業中に写真が送られてくるということに違和感が無いようで、ただただ副会長の美しさに骨抜きにされていた。

 比が飽きずにしばらく写真を眺めていたが、僕は彼らに返信するからと言い、写真を見せるのを止めた。

 彼は未練がましそうにこちらを見ていたが気付かないふりをして、


『庭って最高ですね!』


『六時間目もサボるんですか?』


 と二件分送っておいた。


『私達はそのつもりだよ』


 という愛梨のメッセージと、こちらへおいでと言わんばかりのスタンプが届いてから、六時間目は僕もサボろうと心に固く誓った。


 気がつけば五時間目は比と時間を潰したら終わっていた。

 僕は比に庭でちょっと活動してくると伝え、教室を出て部室棟まで歩いた。

 無駄に長いこの距離を歩くとやはり多くの生徒とすれ違った。

 だが彼らは僕がすれ違ってもほとんどが振り返ることがなかった。

 やはり会長たちは特別な地位を築いていた。


 階段を丁寧に登ることなく一段飛ばしで登り、四階に辿り着いた頃には僕は薄っすらと汗ばんでいた。

 扉を開けると気温的にも人間的にも暖かい空気で満ちた部屋と会長たちが僕を迎い入れた。


「あ、授業サボろうとしてる不良が来たわよ」


「真希先輩には言われたくないんですけど」


 そう返事をすると彼女は一瞬ぽかんと呆けた様子になった。

 僕は一瞬の間を経てその理由を理解した。


「僕のキャラ的に名前呼びが適してると思ったんですよ。嫌ならすぐ変えます」


 僕がそう言うと彼女は、


「別にいいわ。ただ大抵の、特に出会って間もない人は私を名字で呼ぶからびっくりしただけ」


 とそう言って納得した。

 確かに陽慈の頃だったならそうしただろう。だが僕は星慈だ。彼に出来ないことだって僕には容易くできてしまう。

 入室した僕は、誰も座っていない横長のソファに座った。

 昨日座ったソファと同じで、立ち上がると自分の跡が残るタイプのふかふかなソファだった。

 隣にある、尻の形をした凹みには触れないことにした。

 会長は偉そうに一人がけのソファに座り部屋を俯瞰していた。

 机を挟んだ向かい側のソファには愛梨と副会長が仲良く並んで腰掛けていた。

 机の上には幾つかの書類が広げられていた。

 仮に見回りの先生等が来た際に言い訳をする用だろう。

 僕らが三人で楽しそうに会話を始め、会長をスルーしていると、彼はすぐに立ち上がり僕の隣に座った。

 既にあった凹みにピッタリとフィットしている。

 見栄っ張りな彼のことだ。六時間目から僕も来ると考え、威厳を保とうと偉そうにしていたのだろう。

 僕らが会長も混ぜて本当にとりとめのない会話をしていると六時間目の始まりを告げる鐘が鳴り響いた。

 授業をサボるという行為は陽慈の時にも何度かしたことがあるが、当時とは違い今回は公欠になる。

 とはいえ、授業をサボった瞬間の背徳感は少しも薄れることなく僕に訪れた。

 僕らはその背徳感を噛み締めつつ、庭にあったトランプに興じた。

気になる点、感想等があればお気軽にご記入ください。

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