お弁当
もう少ししたら人物が増えたりすると思うのでその時にキャラまとめ的なのを投稿します。
二日目にして既に退屈に感じ始めた授業を僕は聞き流す。
茂との再開は予想外のものだったが、僕はそれを引きずらずに学校での自分をしっかりと振る舞うことができていた。
昨日と変わらずに僕は比と授業中に会話をしていた。変わった点と言えば、わざわざノートの隅で会話をするのではなく小声で会話をするようになったという点だけだろう。
三時間目の数Ⅰの授業が終わり、比やその友人たちと話していたときのことだった。
先程の休み時間から視界の隅でチラチラとこちらを伺っていた人物が立ち上がりこちらへ近づいてきた。
坂本愛梨、比に初日から注意されていた人物だ。
どうやら僕に用事がありそうだったが、話しかけられるまでは無視を決め込む。
「佐藤君、ちょっといいかな」
僕らは話題を中断し顔を見合わせた。
彼らは僕を心配してくれているようだ。まだ出会って二日目しか経っていない僕は、彼らの名前もよく覚えていない。関わりもかなり浅い。
それでもわざわざ心配してくれるというのはそれだけ彼女がクラスに馴染めていない証拠なのだろう。
だが彼女はおそらく僕の理解者の一人だ。なにか共有しなければいけない話題があるのかもしれない。
だから僕は彼らの心配を向ける視線に対して大丈夫だと返答しつつ、歩き出した坂本愛梨についていった。
教室の前の廊下を進み、僕らは人気のない階段にたどり着いた。
一言発して以来ずっと口をつぐんでいた彼女は、こちらへ向き直ってからようやく口を開いた。
「佐藤くんはまだ部活きめてないんだよね。本当は初日に招待するべきだったんだけど、『時得の庭』に入らない?」
「庭? なんだよそれ」
僕は困惑するしかなかった。急に話しかけてきたと思ったらどうやら部活動のお誘いだったらしい。
それにしても不思議な名前の部活、もしくはそれに準じそうなグループだと思った。
何をするのかが不明瞭すぎる。
僕の質問は流石に予想がつくものだったのか、彼女が説明しようと再び口を開きかけたその時、恐らく全国の学生聞いたことのある鐘の音が、キーンコーンカーンコーンと鳴り始めた。
「お昼の時に詳しく話すから!」
彼女はそう言って教室へ走って戻っていった。
僕はしばらく呆然として彼女を見送った。
当然四時間目は遅刻した。
四時間目は古文だった。
相変わらず退屈な授業が続く学校だが、せっかく入れてもらえたのだから聞かないのも悪いだろう。
隣の比と話しつつ、多少は真面目に授業を聞くことにした。
ノートくらい取っておかないと定期テストの時に激しく後悔する予感がしたという理由もある。
「おい星慈、大丈夫だったか?」
「俺は別に何もされてないけど。それより『時得の庭』って知ってるか?」
僕がそう言うと彼は押し黙った。
その瞬間僕は軽率な言動を激しく後悔した。茂のときには露呈しなかったが僕は余計なことを軽率に話してしまう時がある。
勿論これは僕が持つ悪い癖のうちの一つであり、とどのつまり口が軽いということでもあった。
わざわざ僕を呼び出してまで話したことなのだ。聞かれてはまずいことだったのかもしれない。
だが僕の心配は杞憂に終わってくれたようだった。
「この学校で庭の存在を知らないやつなんていないぜ! 庭は完全招待制のグループなんだよ。坂本も何故か会員でさぁ」
彼は急に饒舌になって話し始めた。どうやら彼にとって憧れの存在らしい。
話をまとめてしまうとこういうことだった。
『時得の庭』という組織は開校以来ずっと存在し続けている。
庭に加入するには会員から直々に推薦して貰う必要がある。
彼らの活動は多岐にわたり、生徒会と同等レベルの権限を持つ。
主に生徒会が生徒の代表として活動するのに対し、庭は生徒に寄り添って活動する。お悩み相談等もしているらしい。
庭の中にも生徒会と同じように役職があり、その中でも庭を統べる長は会長と呼ばれ親しまれている。
他の学校で会長と呼ばれるべきであろう生徒会長は、会長ではなく生徒会長とそのまま呼ばれている。
庭は招待制であることから一時期人がいなくなったこともあるが、顧問の先生が招待することで復活した過去がある。
正体の基準は不明だが基本的には一貫していて、尊敬でき、かつ親しみやすい生徒が会員となる。
そのため彼らの殆どは誰からも親しまれており、皆の尊敬の的になる。勿論羨望の的にもなる。
ただし坂本愛梨だけは庭に所属しているにも関わらずそれに相応しいと思われていない。
彼女は庭に所属しているにも関わらず社交性がなく、なぜ入れたのかは現時得高校生全体の謎である。
僕らの担任の中山先生も昔は庭の一員だった。
他にもたくさん喋っていたが、やれ会長がイケメンだの副会長が美人すぎるだのとどうでもいい情報を話していたので割愛する。
「ありがとうよくわかった。だから黙ってくれないか」
僕が彼の饒舌な喋りを唐突に拒絶すると彼は露骨に残念そうな顔をした。
僕はそれを無視して授業をしている古文の先生の方を向く。
やせ細った古文担当の中村先生はこちらをじっと見つめていた。彼は額に青筋を浮かべており、僕はこの筋が浮かび上がることがあるのかと半ば感動した。
比のせいで中村先生を怒らせたようだ。爆発しないうちに授業に集中しよう。
僕がノートに黒板を写し始めると、彼は満足してくれたようで青筋を消し去ってくれた。
四時間目が終わると昼ごはんの時間になる。
昨日から登校を始めたとはいえ既に御飯の時間が唯一の楽しみになっていた僕は、比と一緒に昼食を取ることにした。
椅子だけ彼の机に近づけて彼の机に僕の弁当を広げる。
お姉さんが作ってくれたお弁当を開けるとご飯の上にそぼろでハートマークが作ってあった。
僕は高速で弁当の蓋を閉めた。大丈夫、まだ見られていないはずだ。
僕は比に見られないようにこの形を崩す方法を探そうと考えを巡らせようとしていると比がこちらをじっと見つめていた。
「おい、今の弁当は何だ」
もはや手遅れのようだった。
万事休す。既に退路は失われた。
僕に出来ることはなるべく自然に誤魔化し、話題を変え、彼の記憶に残らないようにすることだけだった。
「いや、母親が張り切っちゃって。この歳にもなってハートとか恥ずかしいよな、あはは…」
僕はそういって誤魔化そうとしたが彼は許してくれなかった。
さっさと食べてしまおうと思いランチョンマット代わりに弁当を包んでいた風呂敷的な布を広げるとそこにはメッセージカードが一枚入っていた。
『学校頑張って! お姉さんより』
僕はこれを高速で自分のポケットに突っ込んだ。
これを見られては言い訳も通用しない。このメッセージカードは僕への労りではない。僕を陰ながら弄くり回しているだけだ。
友達と弁当を食べるということでも予想したのだろうか。お姉さんには敵いそうにない。
僕は何食わぬ顔で弁当を食べ始めた。なるべく自然にしかし高速でそぼろの形を崩そうと努力しながら。
比の手は一向に進んでいなかった。
彼の手元にはコンビニで買ったであろう焼きそばパンが袋も開けられずにでんと鎮座していた。
彼の目は死んでいた。
「オレを騙す気だったな! お姉さんって誰だよ!」
流石はバレー部というべきなのだろう。動体視力は優れているようだ。
僕は半ば諦めつつも抵抗することにした。
「実は姉が弁当を作ってくれてるんだよ」
「嘘だっ! 自分のことをお姉さんなんていう姉が実在してたまるかよ!」
仕方ないので僕は現在親戚のお姉さんの家に世話になっていることを彼に話した。
彼は僕の弁当を穴が空くほど見つめたかと思うとすごく悔しそうな顔を浮かべた。
「オレの焼きそばパンと星慈の弁当交換しない?」
「絶対嫌だ」
僕がそう言うと彼は焼きそばパンを無表情で開けてモソモソと食べ始めた。
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