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第7話 『欲しいもの』

前回からだいぶ時間が空いてしまいました。趣味投稿でよかった。

カードを作り終え、冒険者ギルドから出てきたものの、ケイトさんがどこで調べ物をしているのかを聞くのを忘れていた。1人でギルドに行くことの不安と焦りで、作り終わった後のことを考えていなかった。

もちろん初めて来るこの町の地理に詳しいわけもなく、探しに行こうにも行けない状況である。


(下手すると、入れ違いになっちゃうからなぁ。)


しょうがないと思い、近くのベンチに座って待つことにする。きっと用事が終わったら、こちらに迎えに来るはずだ。こういう時は動かないのが最善だと本で読んだことがある。


背もたれに寄りかかって、ボケーっと空を眺めていると小さい頃に戻ったような気分に陥る。

小さい頃から空を眺めるのが好きだった。母に「魔力が使えないなんて知られたら恥ずかしいからあまり外に出るな」と言われていたから、村にいたころの娯楽なんて本を読むぐらいしかなかったのだ。本を読むのに飽きたら、窓の外の空をこうやって眺めて時間をつぶしていた。だんだんと形を変える雲を見ていたら、いつの間にか時間がたっていた。


(お母さん。今、何してるんだろ…)


僕を追い出せたことでせいせいしているだろうか。後悔はきっとしてないだろう。

自分でそう思って、悲しくなってきた。そんなことを思っていると、急に顔に影がかかる。


「無事にカードは作れたかい?」


上を見上げている僕の後ろ側からいつの間にか近づいていたケイトさんはヌッと僕の顔を覗き込んきた。


「はい、おかげさまで何とか。」

「それは良かった。」

「調べ物は終わったんですか?」

「あぁ、ばっちりさ。」


話しながら、よっこいしょっと立ち上がる。


「じゃあ、この後はどうするんですか?」

「そりゃあ、王都に向かうのさ。今の時間に王都に行く方法を調べておいたんだよ。」


調べ物はそのことだったようだ。


「どうやら、この町にはには王都までの直通魔導列車が走っているらしい。もう切符も買っておいたよ。」


そう言ってピッと立てた彼女の人差し指と中指には二枚の紙が挟まれていた。

彼女が言った魔導列車とは、人間族が開発した魔素で動く馬車のようなものだ。馬車といっても何台も連なっているのだが。本で読んで存在を知っていたが、実際に乗るのは初めてである。


「しかし、列車が出発するまでしばらく時間が空いていてね。この町の探索でもしないかい?」


好きな人にそう誘われて、断る人はいないだろう。

僕たちはこの町の探索をすることにした。


-------------------------------------


「どこか、見たいところはあるかい?」

「いや、特には…。」


ケイトさんが尋ねてくるが、僕は少し言い淀む。

村から出たことない僕にとって、今周りを取り囲んでいるほとんどが真新しいものなのだ。

本で読んで知っていることは多いが、実際目の当たりにするとはわけが違う。

本当は行ってみたい店の選択肢が多すぎて、逆に選べない。それを含んでの「特には」だった。

しかし、ふと一つだけ今のうちに欲しいものを思いつく。


「あっ。帽子が欲しいです。」

「帽子?」

「つ、角を隠したくて…」


今までは髪で隠していたが、髪だけでは頼りないと思っていたのだ。

風が吹いたときに見られてるんじゃないかと思ってしまう。

もちろん、隻角が災いを呼ぶという話はサキュバスの間での迷信なのだが、それでもコンプレックスというものは気にしてしまうものだ。

あともう一つ、この町についてから女性からの目線が気になるというのもある。なぜかチラチラとみられているような気がするのだ。そのせいで、角が見えているんじゃないかという不安が加速する。


「なるほどね。服屋なら私が欲しいものも売ってそうだし、行ってみようか。」


理由に納得したケイトさんと僕は服屋に入った。

いらっしゃいませと愛想のよい店員が出迎えるその服屋は、服だけでなく靴やカバンなども取り扱っているようだった。

僕は何個か手に取って実際に試着してみる。頭が隠れるだけで安心感が段違いだった。角が隠れれば、僕と人間族の差異はない。鏡で自分を見てみても人間族と区別はつかない。これで、魔法が使えなくても人間族だと思われるだけだろう。


「どうですか?ケイトさん。」

「よく似合ってるよ。じゃあ、店員さん。この帽子とあのマジックバッグを買うよ。」


そう言ってケイトさんが指さした先には、一つだけ目立った位置の棚に置かれてるカバンがあった。

あのマジックバッグというものは人間族が開発した魔道具で、中が空間魔法で歪んでおり、カバンの容量と関係なくものを入れることができる魔法のカバンである。空間魔法は使うのが難しく、魔力の相性が合う種族しか使えないため、このような商品を開発したらしい。しかし、その分作るのは難しく、値段も気軽に買えるようなものではない。

確かに、今の僕らはとても世界を回るような荷物の量ではなく、せいぜい1日、2日旅行できる程度の荷物しか持ってきていなかった。きっとケイトさんは最初からマジックバッグを買う予定だったのだろう。


(けど、あの値段を躊躇いもなく変えるケイトさんの財力って…)


Aランク冒険者の稼ぎが垣間見えたような気がする。しかし、あの値段を買えるほどのお金は持っているのだろうか。ほとんど手ぶらと変わらないケイトさんが大量の貨幣を持っているとは思えない。そう思っていると、ケイトさんはポケットからギルドカードを取り出した。

ケイトさんはギルドカードを店員に渡すと、店員は魔道具であろうものにカードをかざし、「お買い上げありがとうございます」とこちらに商品を手渡した。

どうやらギルドカードは支払いもできるようで、今までの依頼の報酬を情報化してギルドカードに入れているのだそうだ。。

ちなみにこれも人間族が開発したらしい。「人間族は魔力の代わりに知力を授かった」と魔族の間で言われている所以がわかった気がする。


外に出ると、もう列車の時間は近くなっていた。

駅に向かう途中で、広場を通るといい匂いが鼻孔をくすぐった。空腹に響く匂いだ。

見ると、屋台で二首鳥の串焼きが売られている。

ふふっと隣でケイトさんが笑う。


「いいよ。昼食にしようか。」

「え、なんでわかったんですか?」

「そんなに凝視してたらさすがにわかるよ。」


気付かないうちに屋台に目を奪われていたらしい。

メア君は可愛いなと頭を撫でられるのに、恥ずかしさを覚えつつ、僕らは串をほおばって駅へと向かった。



















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