第4話 『願い』
机の上に本を置き、二人でパラパラとめくってみる。
世界樹の都、地下遺跡、砂の海、、、本で読んだことのないものがその本には数多く載っていた。
世界にはこんなにきれいな場所があるのか。
きっと、あのまま村にいたら存在すら知らなかったであろう場所の数々。
(行ってみたい)
素直にそう思ってしまった。そう思ってしまうほど、村から出たことない僕にとって、その本の中の景色は魅力的に映っていた。
「どうだい?この世界ってすごくきれいだろ?」
「そうですね。いつか、一つぐらい行ってみたいです。」
「なーに、一つと言わず、全部回ってしまおうよ。」
「そんなお金ないですよ。できるのなら、全部回ってみたいですけどね。」
「ふふっ。お金なんて必要ないさ。行きたいって気持ち、それだけでいい。」
「ずっと、言いたかったんだが、私の旅行についてくる気はないか?メア君。」
その声を聴いて、本からバッと顔を上げる。いつの間にか、二人の距離は本に吸い寄せられて、先ほどよりも近づいていた。--ついてくる気はないか。その言葉を理解するのはこんなにも時間がかかるのか。頭の中で、ぐるぐると同じ言葉が回り続てる。
「やっぱり、会ったばかりの私とじゃ嫌?」
僕のあまりの返事の遅さに、ケイトさんは悲しげな声で追加する。その声でハッとした僕はすぐに、否定する。
「そんな、嫌だなんて、とんでもないです!でも、僕は魔力もないし、役に立たないし、お金も、道具もないんですよ…?」
「そんなこと気にしないでくれ。君とだから、行きたいんだ。」
なんの冗談かと思ってしまうが、ケイトさんの眼はまっすぐにこちらを見据えている。まるで告白のようなフレーズだが、それが心の底からの本心であることが、こっちが恥ずかしくなるほど伝わってくる。
「け、ケイトさんこそ、なんで会ったばかりの僕と何ですか?」
僕らはついこの間、出会ったばかりだ。なんで彼女がこんなにもこちらを信用しているのか、僕にはわからなかった。
僕の問いに、彼女は一呼吸おいて答える。
「君の血の味が忘れられない。」
彼女がこちらを見る目が、何か変わったような気がした。どこか背筋が凍るような眼だ。
彼女は、矢継ぎ早に話し出す。
「さっきメア君の血をなめた時から、私の体がメア君の血を欲してしょうがないんだ。さっきからずっと、私は我慢して、我慢して、我慢して、やっとのことで欲求を抑えているんだ。」
「お金も魔力も何もいらない、私の役に立とうだなんて思わなくていい。なんだって、いうことを聞こう。行きたいところに行かせてあげよう。だから…」
「もう一度、血を吸わせてほしい。」
よく見ると、握りこまれている彼女の手は細かく震えていた。我慢しようとして、めいいっぱい手を握って、爪を手のひらにめり込ませていた。。
傍から見れば、こんな状況を怖いとしか思わないだろう。
実際僕だって、こんな状況をおかしいと思ってるし、怖いとも思ってる。
けど、それと同時に、こんなにも強く他者から求められている状況に
喜びを覚えてしまっていた。
「そ、そんな、僕なんかの血でよかったら、いくらでも飲んでください。」
あぁ、求められるのって、こんなにも気持ちいいんだっけ。
僕は袖をまくって、手首を彼女に差し出した。
「一緒に世界を回りましょう。」
僕がそう言った時、彼女は微笑んで、僕の手首に歯を立てた。
最初のチクリとした痛みを境目に、文字通り、血の気が引いていくのを感じる。
ただ、僕はそれにすらも快感を感じていた。きっと、アドレナリンでも出ていたのだろう。
永遠にも、一瞬にも感じられるような時間が流れた。
手首から口を外した時、彼女は涙を流していた。
「メア君。こんなにも美味しい血を飲んだら、私は君のことをもう手放せないよ。」
――「好きだ。メア君。私のものになってくれないか?」
好き?
あぁ、この感情が好きということなのだろうか。
彼女がどんなことをしても、きっと僕は彼女を素敵だと思ってしまうだろう。
僕も、彼女のことが好きなんだ。
「はい。こんな僕でよかったら。」
僕はほほ笑みながら言った。
なんだか、メンヘラっぽいどろどろの恋愛劇になりそうですが、私は甘々な純愛が好きなので、頑張ってそっちの方向にもっていこうと思います。
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