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第3話 『本能』

「ケ、ケイトさん…?」


あまりの視線の鋭さに、思わずたじろいでしまう。


「なぁ、メア。頼む…。」


そういって、彼女はだんだんとこちらに近づいてくる。

最強の種族の放つ威圧感は、まるで従わぬものを殺してしまうような雰囲気を纏ってこちらに襲い掛かる。

弱者としての本能が脳内で、けたたましく警告を鳴らし、全身を震え上がらせる。


(舐めさせないと、死ぬ)


僕は震えながら、おずおずと彼女に手を差し出す。

彼女はゆっくりと僕の前にひざまずき、両手で僕の手を取り、自らの口元へ運んだ。

恍惚とした表情で開かれた口から覗く犬歯は、すでに凶器にしか見えなくなっていた。

ゆっくりと、ゆっくりと彼女の口の中に入っていく。

スローモーションのように感じるほど、僕は自分の指が食べられていく光景を目から離せずにいた。


――ヌルっ


パクリと食べられた指先は、彼女の口内の生ぬるい体温を伝えてくる。

彼女の舌が、傷の入った指先を重点的に舐めまわす。ザリっとした感触が、生々しい。

だが、それとは反対に、女の人の口に指を突っ込んでいる状況に、少しの背徳感を覚え、背中のあたりがゾクゾクする自分もいる。


「あ、あの」


なんだか、良くないような気がして思わず口から出た言葉に、彼女はハッとしたようで、すぐに指から顔を外し、こちらを見上げる。先ほどの殺気交じりの雰囲気はもうなくなっていた。


「す、すまない。どこか、我を忘れていたようだ。大丈夫だったかい?」

「いや、僕は大丈夫です…。っていうか、ケイトさんのほうが心配なんですけど…。」

「うっ…。」


そう言われた彼女は今になって、自分の行動を思い出したのか、顔に手を当てて恥ずかしがる。

隠れていない耳や首は真っ赤になっている。


「メア君の血の匂いが一瞬したと思ったら、もう、舐めたいとしか思えなくなってしまったんだ。それくらい、いい匂いがしたんだよ…」

「僕の血がですか?」

「ああ、今まで嗅いだことがないくらい。」


彼女は顔を隠したまま、もごもごと話す。


「と、とりあえず。手を洗ってきてくれ。」


そう促されて、手を洗い、今の状況を仕切りなおす。


どうやら、僕の血は人を狂わせるほどおいしいらしい。まぁ、人というか吸血鬼だけど。

インキュバスとしての特性なのだろうか。しかし、確認しようにもインキュバスの参考資料なんて少なすぎる。昔の本に書かれていたりするのだろうか。そもそも、インキュバスの血を飲んだことがある人はいるのか?っていうか、僕は今、彼女に血をなめられたのか…。


「しかし、メア君の血を飲んでから、体の調子が凄くいいような気がする。血のおいしさと、体の活性化には何か関係性があるのだろうか。それとも、しばらく飲んでなかったからか?それとも、魔力量との関係が?……」


考えを巡らせている彼女をよそ目に、僕は自分の指先を見つめる。先ほどの光景が頭から離れないのだ。

これから、自分の指を見るたびにあのことを思い出してしまうのか。

そう思うと、思わずため息をつきそうになる。


そんな時、玄関のほうからコンコンとノックの音が聞こえてくる。

ブツブツと考え中の彼女に代わって、ドアを開けに行く。

ガチャっと開けると、そこには制服のようなものを着て、帽子をかぶった瑠璃色の綺麗な羽の生えた女性が小さな紙包みを持って立っていた。


「ケイトさーん。お届け物で…。ややっ!ケイトさんじゃなくて、イケメン君であります!なんでケイトさんの家からかっこいい人が出てくるでありますか?」


どうやら、彼女は郵便局の配達員のようだ。


「ここはケイトさん家でありますよね?…あなた様はケイトさんとどういう関係でありますか?」

「え、えーと。居候みたいな感じです。」

「なるほど、そうでありますか。」


何と答えればよいかわからず、曖昧な返答をしてしまう。


「あぁ、気づかなくてごめんね。」


いつの間にか、後ろにいたケイトさんがサインをして荷物を受け取る。


「では、失礼するであります。」


配達員さんは敬礼をして、空へ飛び立っていった。

一瞬にして、遠くに行った彼女を見送り、ドアを閉じる。


「そういえば、王都にいる知り合いに送るように頼んでいたんだった。忘れていたよ。」

「何を頼んだんですか?」

「ふっふっふ。これだよ、これ。」


そういって、彼女が包み紙を破ってこちらに見せてきたのは、一冊のやや分厚い本だった。


その表紙には「世界百景」と書かれていた。














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