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第2話 『種族』

次の日の朝、目覚めてみても昨日と同じ木の天井がそこにあった。

やっぱり、昨日のことは夢ではないのか。

久しぶりに柔らかいベッドで寝たからか、体の調子はいい感じだ。


毛布を畳み、ドアを開けて周りを見渡す。

右の廊下は突き当り、左の廊下の先には階段があった。

トコトコと階段を降りると、ケイトさんが調理場で何かを作っているのが目に入る。

彼女も、階段が軋む音に気付いたようで、こちらを振り返る。


「おはよう、メア君。昨日はぐっすり寝れた?」

「おはようございます。おかげさまで、体の調子もよさそうです。」


それは良かった。と彼女は微笑み、食卓に座るように促す。

笑った時にちらりと見える犬歯に、なぜかドキッとしてしまう。


「さて、ご飯でも食べながら、色々と話そうじゃないか。」


そういって、 ケイトさんも食卓に座る。

一緒に朝食をとりながら、僕たちはお互いのことについて話し出す。


「昨日は、私の名前しか言わなかったからね。改めて、私はケイト。種族は、ちょっと珍しいやつなんだ。」

「珍しい種族ですか?」

「そう、実は私…吸血鬼なんだ。」


思わぬ自己紹介を聞いて、飲んでいた水を吹き出しそうになる。

聞き間違いではないだろうかと、自分の耳を疑ってしまう。


「きゅ、吸血鬼って…。この世で最も強い種族の一つって言われてる、あの吸血鬼ですか?」

「あぁ、その吸血鬼だよ。」


彼女はこちらの反応をおかしそうに笑って言う。


「僕、初めて見ました。って言っても、村から出たことないので、当たり前なんですけど…。」

「ふふっ。まぁ、インキュバスの君のほうがよっぽど珍しいけどね。」


それはそうだろうけど。吸血鬼が珍しい種族なのには変わりない。

吸血鬼は数がすごく少なくて、生態もよくわかっていないけど、はるか昔の人間対魔族の戦争で凄い活躍をしたって本に書いてあった気がする。本当かどうかは、わからないけど。


しかし、ここで僕はあることに気付く。


「あれ?昔読んだ本に『吸血鬼は血を吸って生きている』だとか、『日光を浴びると灰になる』とか書かれてたんですけど。今、普通にご飯食べてますよね?僕が森で倒れた時も、まだ太陽が出てる時間だったような…。」

「あぁ、よく言われるよ。その間違い。」


ふぅ。とため息をつきながら、彼女はあきれたよう言う。


「別に、私たちは血じゃなくても生きていけるよ。まぁ、血が美味しいと感じるし、血を飲むと体が活性化するからさ、きっと、昔の吸血鬼たちが、血ばっかり飲んでいて、そういった間違った解釈が広まったんだろうね。」


「日光にいたっても、ちょっと日に焼けやすいくらいさ。まぁ、ひりひりするのは嫌だから、日傘とかは差してるけど。だからって、灰になるなんて。どこの誰が言い出したんだろうね。」


まぁ、吸血鬼の数が少ないから、しょうがないけど。と彼女は付け加える。


「血を飲んだことってあるんですか?」


僕は好奇心に勝てず、率直な質問を投げかける。


「もちろんあるよ。種族によって、美味しい、不味いの差が激しいんだよ。」

「一番おいしかったのは?」

「そうだなぁ、エルフとか悪魔とか、魔力の多い種族は美味しいと思うな。」

「血を飲みたいって、欲求はあるんですか?」

「普段はあんまりないけど、匂いを嗅いじゃうと、どうしてもね…。」


「あ、、ごめんなさい。不躾に、質問責めしちゃって。」


ふと、自分が食い気味になっているのに気づいて、恥ずかしくなる。

彼女は構わないよと笑ってくれているが、自分の顔が熱くなるのを感じる。


「ところで、私は旅行が趣味でね。」


そんな僕を見かねて、パンっと手をたたいて、彼女は話題を変えて話し始める。


「今まで色んな所に行ってきたんだが、なにせ一人で行ってるもんだから、土産話を話せる人がいなくてね。」

「旅行ですか。僕、旅行どころか、村から出たこともないですよ。色んなところに行くって、なんだかちょっと憧れます。」

「よかったら、私の話を聞いてくれないか?」


そういうと、彼女は今までの旅行の話を止まることなく話し続けた。

とっくに朝食は食べ終わり、二人で片づけている間も、家の案内をされている時さえも、彼女の土産話は終わらなかった。


だが、彼女の話が終わったのは、突然のことだった。

彼女が旅行先で「写影具」という魔道具で撮った写真の束を、僕がパラパラとめくっている時だ。


「痛っ。」


紙の端で、僕はスパッと指を切ってしまったのだ。鋭利なもので切られた一本の傷からは、じわっと血が出てきていた。


しかし、それよりも怖かったのは、先ほどまで、楽しげに話していたケイトさんの口が止まり、瞳孔が開いた眼で、じっとこちらを見ていたことだ。

いや、こちらというよりも、彼女の眼は、僕の指先の一点を見つめていた。


嫌な無言の間が一瞬だけ二人の間を通った。

先に沈黙を破ったのは、彼女の思いがけぬ一言だった。


「メア…その血……舐めていいか?」














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