第三話 セイの初勝利
きゅ~!
ポト
スライムに巻き付いたセイが更に力を入れると、スライムはゼリー状の身体は形を保てずに崩れ落ち、体の中心に会ったコアだけがその場に残ったのだった。
「やった、やったあああ!!」
セイがやっとスライムに勝ったのだった。
あの苦々しい初戦闘から半月ほど経ち、既にオメルガービ公爵領に入っていた。
もう数日中には領都に付くだろう。
そんな中で、やっと勝てたのだった。
セイは体力もなく一日にスライム相手に三回程戦いを仕掛けれればよかった方だが、今では十回もスライムに巻き付いて攻撃できるし、攻撃時間も長くなった。
移動速度も俺の歩行に並走できるほど早くなった。
本当に。
「本当に大変だった」
「そうですね。確かな成長だと思うっすよ」
そう言って一緒に喜んでくれたのはこの旅で唯一俺の護衛騎士 ロムとそのポーレル テットだった。
一緒に喜んでくれるのは素直にうれしい。
ただ、一つ思う所があるのだ。
いつもはどんなに長い間巻き付いても倒せなかったスライムを、今回は十秒ほど締め付けるだけで倒せてしまったのだ。
今までの戦い方と何も変わらない。
それにセイも何か大きな変化があったわけではない。
だとすると、もしかしてスライムの方に何か違いがあるのだろうか?
「ロム、今回のスライムと今までのスライムって何か違いがあるの?」
よく思い出して見ると、セイが倒したスライムは緑色だったのに対して、今まで倒せなかったスライムは灰色だった。
もしかして、スライムは色々と種類が分かれているのではないだろうか?
もしそうだとすれば、今までのは防御力が高かったとか特色があってもおかしくはない。
「どうなんですかね? でも、スライムはスライムじゃないっすか」
確かにスライムに色々な種類があっても、所詮はスライム。
ちょっと違いはあっても最弱の部類には変わり無いか。
「それより、スライムのコアを上げなくていいんですか?」
「そうだった」
俺はスライムのコアをセイの口元に寄せると嬉しそうに食べるのだった。
初めての戦闘があった日にテットが倒したスライムのコアをいつの間にかセイが食べていたのだ。
それも嬉しそうにだ。
美味しいのか俺も一つ口にしてみたが、味以前に固くて人が食べれるものではなかった。
魔物の本にはスライムのコアはすり潰して畑にまくと作物の育ちがよくなるとか、ポーション等の薬品作成の材料に使われるらしいがポーレルが食べるなんて書いてなかった。
「まあ、セイは偏食なのかもな」
きゅ~
まあ、セイが嬉しそうならいいか。
それにセイは意外と大食いなのだ。
食事に俺が魔力を上げるとそのほとんど吸い上げてしまうのだ。
本来ポーレルにちょっと吸われるくらいなら問題ないらしいが、セイの場合だと吸う魔力が多く、吸われた後俺が魔力切れでほとんど動けなくなってしまうのだ。
テットみたいな大きなポーレルが吸っても倒れる事はないらしいのだが。
セイが大食漢なのか、俺の魔力量が少ないのか。
仕方なく、肉や魚、果物等、色々と与えてみたがそのどれもがお気に召さなかったのだ。
スライムのコアのように好きなものが見つかってよかった。
日に日に魔力を吸う量の調節が上手になったのか、倒れてから動けるのが早くなったのは良かった。
だが、それでも辛かったし、お腹をすかせたままではセイが可哀そうだったしな。
「いっぱい食べろよ」
きゅ~
テットが以前倒してくれたスライムのコアを追加で上げると嬉しそうに喜ぶのだった。
「次はローデリック様っすね」
「何が?」
「スキルっすよ」
「……あ」
ロムの言葉で思い出した。
そう言えばポーレルとの契約後に何かしらのスキルを貰えるのだ。
セイに掛かりっきりだったので自分のことをすっかり忘れてしまっていた。
どんなスキルを貰ったんだろう?
「スキルってどうやって発動するんですか?」
「え!? そう言うのって教会のやつらが、いや、お貴族様はお抱えの家庭教師がいるのが普通だから」
「なるほど、教えを乞うタイミングや人材が無かったんですね」
「まあでも、簡単ですよ」
そう言うとロムは拳をおもむろに突き出した。
すると、その拳から衝撃波が発生し直線状にあった岩を砕いたのだった。
「『空弾』って呼んでます。基本剣や盾で戦ったりするんですけど、そうなると普通は遠距離攻撃に対応できなくって。でも、このスキルのおかげですげえ助かってるっす」
「発動の方法は?」
「う~ん。自分の場合だとお腹に力を入れて、拳を突き出すのが発動キーですけど、人によって千差万別ですから、同じようにしても発動しないと思います。それに、ローデリック様自身がもう知ってるはずです」
俺がもうすでに知っている?
どういうことだ。
「ポーレルとの契約時に刷り込まれるんですよ。ほら、集中して。こうすればいいってわかるはずっす」
う~ん。
なんとなく分かるような、分からないような?
とりあえず動いてみるか。
えっと、右手と左足をこうして、次に左足を…………。
「踊りですかね?」
「そう言うスキルのようだ」
踊りというよりは前世で言う舞のようだが。
とりあえず一通り踊ってみよう。
……
…………
………………
「いつまで続けるんですか?」
「一通りやってみようと思ったのだが、これはもしかしたら終わりがないのかもしれないな」
踊っていて気づいたが、途中で踊りがループするのだ。
長い時間踊り続けたが終わらない。
「ん? 結構な時間踊っていたよな」
「そうっすね」
なのに息切れどころか汗一つしていない。
多少運動はして体を鍛えていたが、所詮子供が一人でやったこと。
踊りよりも舞のようにゆっくりと体を動かすほうがきついと話を聞いたことがある。
「どうなっているんだ?」
「まあ、試してみるのが早いっすよ」
そう言ってロムは石を一つ投げてくるが、ずいぶん遅く見える。
難なく投げられた石を掴むが、それは手の中で粉々になってしまったのだった。
「軽い石を投げたのか?」
「特に選んで投げたわけではないですが、ならもう一個」
ロムは固そうな石を選んで投げてくれる。
それを難なくつかむが、やはり手の中で砕けてしまったのだった。
「身体強化系のスキルっすね」
ロムの言う通りだと思う。
それに、予想ではあるが踊った時間に比例して強くなるのではないか?
「あ」
効果が切れた。
時間は五分くらいか。
「使い勝手が悪いな」
舞う時間は他は何もできないだろう。
つまり、無防備になるのだ。
その間に攻撃されればひとたまりもないだろう。
それに。
「疲れた」
身体を使った分は疲労という形で残るらしい。
それに、手も痛い。
きゃああああああああ!
「え?」
「誰か襲われてるっすね」
そう言いながらロムは馬車を動かす準備をする。
俺は急いで馬車に乗り込む。
そしてロムは、声の方とは逆へ馬車を動かしたのだった。
「ちょっと、助けに行かないの!?」
「行くわけないっすよ。面倒ごとは避けたいですし、もし俺が戦闘に出たとしたら、坊ちゃんを守るのは誰っすか!」
それはそうだが。
でも。
「どうにかできないか?」
「……」
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