Oblivion Screen - 断片Ⅰ
「───おや、目が覚めた様だね?」
目が覚めた。重い瞼を開く。眼前には白衣姿の若い男が佇みながらこちらの様子を窺っていた。
いつからの眠りで、いつ振りの目覚めなのかは分からない。
記憶が綺麗に剥ぎ取られている様な感覚だ。
思い出そうにも記憶の源にアクセス出来なくなっている。さも、元々記憶など存在し得ぬかの様に。
「気分はどうだい?───と言ってもそう良いものじゃないとは察するけどね」
白衣の男は眼鏡の縁をくいっと上げる仕草をしながら口元に笑みを浮かべている。
記憶の大半が失われているのだとしてコイツの事は覚えている。
シオンとか言う名前の変態科学者で俺の身体を使って様々な投薬実験を行っている。
その実験とやらのお陰で俺は全裸で診療台に手足を拘束されている訳だ。
「流石に君は別格だね『素晴らしき友』。昨日の劇薬は魔獣種に対してもかなりの致死性があったと言うのに驚きだよ」
このイカれた変態科学者は俺を『素晴らしき友』と呼ぶ。生憎『友』と言う単語が理解し切れないのでこちらもさして気にしていない。更に言うならシオンの投薬実験とやらも俺からしてみたらさしたる問題ではない。
何を投薬されようとも痛みを伴う事はないのだ。
コイツの言う劇薬とやらがはたして危険性を秘めているのかも現在となっては怪しく感じてしまう程だ。
……だが、おそらくコイツの言っている事は嘘ではないだろう。
シオンの被写体は何も俺一人ではない。
現在に至るまでに何人も見てきた。投薬後に踠き苦しむ似た様な奴等を。俺の数少ない記憶の中にはそんな光景が在る。
「さて、『素晴らしき友』よ。我が研究所での人体実験は以上だ。想像の遥か上をいっていたよ君は。どうやら君は『人』の姿を模った『化物』らしい」
そう言って微笑みながらシオンは注射針を俺の腕に押し付ける。徐々にまた何かが体内に流れ込んでいく。
別に構わない。興味はない。投薬が何であれ、この命が絡め取られようと、別にさしたる問題ではないのだ。
生ある意味など俺にとってみればちっぽけなもの。
すぐに強烈な眠気が襲ってくる。『人』の身体とは不便なものだ。
重くなった瞼を俺は再び閉じる。
目の前を暗黒に染め上げながら俺は堕ちていく……。
「……おやすみ『素晴らしき友』。そして、我等が《組織》へようこそ───」
変態科学者の声が微かに聞こえ、意識は完全に闇へと沈んで消えた……。




