強い剣を求めて
まだだ、まだ壊れていないはず。
昨日と同じ所に座るとショーンが氷が入ったジュースを持ってきてくれる。
「昨日のお礼です」
「俺は情報料を払ったんだ。昨日はおかげで楽しい一日だった。魔法の粉も貰ったしな」
そういうとショーンは笑って昨日と同じ位置に立つ。
「で、用というのはなんだ」
俺がジュースを飲んでいるとヒュームが聞いてくる。
「魔石の粉の作り方を聞こうかと思って」
「魔石の粉なら今日あたりから魔石ギルドから売られると思うぞ。自分で作るより安かろう」
火事がたくさん起きそうで不安でしかないが、売られるというなら自分で作る必要もない。魔石ギルドには魔王討伐隊のことで寄るから、その時にでも買って帰ろう。
「そうか、それはいいことを聞いた」
ヒュームが物欲しそうな目でこちらを見ている。俺は財布を手に取る。するとヒュームが財布を凝視する。俺はその中から五千円取り出すと、ちょうど真ん中あたりに置く。すかさずヒュームが手を伸ばすので、手前に引いてみる。恨めしそうな顔をしている。
「魔石ギルドには後で行こうと思っていたからな。これは次の質問の後だ」
トントンっと手元の五千円をつつく
「鉄より溶けにくい物を溶かしたい」
そういうと、得意げにヒュームは言う。
「それなら、昨日教えたじゃないか」
そういいながら、手元の五千円から目を離さない。
確かに、昨日目の前で鉄を溶かされたがあの時自分でやってみたものの溶かすことはできなかった。何か秘密があるはずだ。
「昨日、俺がやっても鉄は溶けなかった。どうしてだ」
ビクッとヒュームの体が緊張を表し、目が泳ぎ始めた。しかし、定期的に5千円とショーンを見る。ショーンは目を瞑っている。俺は財布からもう5千円出すと、ヒュームが口を割る。
「魔力は収納による回復上限以上に溜めることができる」
そういうと、身を乗り出して五千円二枚を掻っ攫い、一枚をショーンに渡す。国家機密か。
ショーンが諦めた顔をしたあと、こちらに期待の目を向けている。残念だが俺も口は軽い方だ。
「まぁ、それだけではなく色んな事をしている。鍛冶ギルドの連中が溶かせない金属を溶かすことで魔法師ギルドの復権を狙っているのだ」
魔法師ギルドはヒュームが新しく作ったギルドだ。魔石を扱う道具は主に魔石ギルドが作っている。魔石ギルドのメンバーは寮制度も相まって滅多に街に来なく、その仕組みについては緘口令が敷かれているらしい。ヒュームとは大違いである。
「どうして復権したいんだ?」
「金がない!」
やはりか。
「ということで、まずは鍛冶ギルドに押し売りをしようと思っていたところだ。第一号はお前にしよう。ここに名前を書け」
そうして、販売者リストに名前を書かされる。
「新しい商品なのに五千円でいいのか?」
「生活費は国の口止め料で間に合っているからな。自由に使える金が欲しい」
口止め料がこんなに機能していない事例はそうないだろう。
「それに、お前はなかなか見どころがある。筋肉が少々頼りないが、それなりに丈夫らしいしな」
そうして、行きがけに見た張り紙を見せてきた。
「これにショーンと一緒に行ってこい。それがこれ以上請求しない理由だ」
「行かなかったら?」
「二十万円だ」
「是非とも行かせていただこう」
ショーンはこのことを知らされていたらしく、胸をさすりながら言う
「私一人で行かされるところでした」
この男に振り回されるショーンにとても同情する。
そんな俺たちをよそにヒュームが説明していく。
「この前も行ったがツテがあってな。魔王討伐軍というのは建前らしく、魔石採集が主目的らしい。地下一階には魔物はおらず、地下二階から魔物が出るらしい。その魔物を倒すと魔石に代わるらしい。原理は不明だが、魔物の再生も確認されている。そのサイクルが1日であること、また現状十階以降に行けないことから1日1チームの交代制らしい。魔石ギルドの寮も貸してくれるらしい」
「十階以降に行けないのはどうしてだ?」
そう聞くとヒュームがニヤニヤする。
「例の炎を使う魔物が居るからだ。普通の武器ではその奥には行けない。みぐるみ剥がされて一階に逆戻りだ。そういえば、魔石の収納庫の中身もすべて盗んでいくらしい。それと、全員明らかに死んだと思われる痛みを感じて気を失ったらしいが、気が付いたら一階にいたそうだ。一人は首を飛ばされたらしく虚ろな目をしていたな」
この男が楽しそうな眼をするときは碌なことがないと肝に銘じておこう。
ヒュームが語りながら一枚の紙を出してくる。そこには責任者としてヒュームの名前とチームメンバーとしてショーンの名前が書いてあった。
「申請書だ。チームは最低三人のためもう一人見繕え。それと、ダンジョン侵入後に拾得したものは責任者に所有権がある。一定量は上納の必要があるが、それは俺には関係ない。研究の為に必要と思ったものは片っ端から貰っていく。が、それ以外には興味はない。好きにしろ」
俺はショーンの下に名前を書き、それをヒュームに返す。それを今度はショーンが受け取る。
「今日中に申請すれば明日には行けるように手配してある」
ヒュームがそう言うとショーンは頷いて申請書を丸めて鞄に仕舞う。
「魔王討伐隊についてはこれで終わりだ。次は溶かせない金属を溶かす方法だったな」
俺はジュースを飲み干し、期待するようにヒュームを見る。
「溶かした金属に魔法の粉を振りかけると火が上がるのは知っているな」
昨日父さんが振りかけていた時に火が上がっていた。
「その火が自然に作る火より温度が高く、溶かせない金属が溶かせるようになる。実際に見せてやろう」
そういうとヒュームが窯の方へ移動していき、ショーンが準備をする。
少量の鉄と少量のクロムが用意され、鍛冶に使われる”地獄石”の筒が置かれた。父から聞いた話だと、この地獄石はどんなに熱しても溶けないらしいが衝撃に弱いらしい。小さいころに落としたら晩御飯を抜きにされた。この筒は蓋と筒で二つ一組になっているらしく魔石ギルドしか作れないらしい。蓋は手のひら大の円板で厚さは6cm程度だ。筒は先ほどの円盤でふたができる30cm程の高さで、流し込みやすいように注ぎ口が付いている。今回は二組用意してあり、一つは注ぎ口に砂時計のようなものがついている。
「まずは蓋を熱して鉄を溶かす。他の金属も温めておく」
そういうと二つの蓋を外して窯に入れる。鉄は溶けていくが、クロムは赤くなるだけで溶けない。
「そして、鉄が溶けたら一つ目の筒に二つ目の蓋をしてから魔石の粉を入れていく」
そういうと、蓋をして砂時計の口を開ける。ゴオォという音がして蓋から熱気が伝わってくる。注ぎ口から炎がチラ見している。それに合わせてクロムも徐々に溶け始めていた。そうしてクロムが完全に溶け切るとショーンが鋳型に注いでいく。注ぎ終わると後片付けを始めていた。
「まぁ、こんなものだ。尊い犠牲のおかげで適量がわかっていたので作るのは簡単だった」
聞いたところによると火事があっただけで死んでいなかったはずだ。
「お前にやるのはこの砂時計だ。まだ一つだけだがクロムを溶かすには十分だ。あ、鉄よりもクロムに粉を入れた方が温度が高いので気をつけろ。あと、入れすぎると固まらなくなるぞ」
そういうと、今回使わなかった筒を取り出して中身を見せてくれる。鉄と魔石の色が絵の具のように混ざっているが均一にはなっていない。ヒュームが魔石の粉を振りかけるとボッと火が上がった。
「今日の朝に試してみて、今までずっと火を当てていなかったんだが不思議なものだな。嵩も全く増えないところを見ると全部火になっているというところか」
そうして蓋をすると、砂時計を一つくれる。俺はそれを収納するとショーンを呼ぶ。
「じゃぁ、三人目を探して申請書を出してくる」
俺がそういうと、ショーンが扉を開けてくれる。そして俺たちは魔法師ギルドを後にした。
地獄石・・・。便利だ・・・。