魔法師ギルドの悪魔
挫けそうです。
魔法師ギルドの前に来ると派手な爆発音が鳴り、木製の窓から煙が出ていた。俺は意を決してギルドの扉を開けた。
「荷物ならそこら辺に置いといておくれ」
父さんと同じ位の年の男がこちらも見ないで口にする。
「魔法について質問があるのだが」
そう言うと男は近くにいた俺と同じ年頃の少年に目配せしたあと、作業に戻った。しばらくすると少年が席を用意してくれる。
「お初にお目にかかります。私の名前はショーン。以後、お見知りおきを」
自分と殆ど変わらない年の少年の堅い挨拶に驚きつつも、話を進めていく。
「魔法で剣を溶かすことは可能か?」
そう口にすると、奥でドンッと音がした。すぐさま先程の男が駆けてきて、ショーンは慌てて席を譲る。
「どうして、そんな事が知りたい」
男が重い口調で問いかける。
「目の前で剣が溶かされたからだ」
そう答えると、男は獲物を見つけたかのようにニタァと笑った。
「というと?」
男がそう言い俺は答える。
「その男は手で剣を掴み、剣を溶かした。魔法の類いだと思い、ここに来た。」
そう言うと男は大口を開けて笑い始めた。そして、急に真顔になったかと思えば口を開く。
「何処でそれを聞いた?」
男は手掴みは少々大げさだなと呟きながら答えを待っている。
「聞いたのではなく、この目で見たのだ。さっき言ったとおりだ」
「では、手掴みで剣を溶かすようなバケモノ相手にお前のような少年が逃げ果せたとでも言うのか?」
その言葉に苛立ちを感じつつも、その時を思い出し拳を握る。
「逃げたのではない。負けたのだ。」
そう言うと、男は好奇心の篭った目をこちらに向けてくる。
「では、お前は先遣隊から報告があった気絶してた少年か。吐血していたと聞いたが案外丈夫だな」
そう言うと男は席を立ち手招きをする。
「俺の名前はヒューム。まぁ、この名前だけは街に響いてるから顔だけ覚えてくれ」
ヒュームといえば魔法師ギルドの長で女垂らしであると有名である。そして、魔法師ギルドはある噂の為、とても危険視されている。
「一万円だ」
「・・・は?」
「魔石は高い。これでも赤字だ。実際に見せてやるから金を出せ」
詐欺師としても有名だった。取り敢えずお金を払うとヒュームは鼻の下を伸ばしていた。
「ショーン」
呼ばれると用意していた剣を俺に手渡す。
「お確かめを」
持ったところ重さは鉄の剣であり、振っても、床に当てて剣を鳴らしても鉄の剣だった。そうしてショーンに剣を返す。
そして、ヒュームが窯の近くへ行き目を瞑ると、蝋燭の火のようなものが現れた。ショーンはその小さな火に剣先を付ける。
10秒ほど剣先を炙っていると、ひと粒の雫が床に落ちた。ショーンの汗である。あの体制は相当キツイのだろう。そうして気を取られていると小さな火が消えていた。
「どうした?」
そう聞くと、ヒュームが顔をしかめて言う。
「見てなかったのか。もう一度やるか?一万円だ。」
「いや、いい。見たところ一瞬では溶かせないみたいだからな」
そう言うと、ヒュームは声を上げて笑いながら言う。
「期待してくれるな。俺も所詮人の子よ。そんな事できるわけあるまい。しかし」
そう言うと剣先を指差す。僅かだが剣先が溶けていた。そう、ほんの僅かである。
「これが、一万円で出来る最大限だ!」
ヒュームは誇らしげに胸を張っていた。
「さっきからお金の話が出てくるが、魔石が関係しているのか?」
そう言うと、今度はショーンが答えてくれる。
「さっきは赤字なんて言いましたけど、何も失ってはいません。でも、最近悪評が広まって取引が少なかったのでありがたく頂戴します」
「情報料だ!無知なる少年に魔法の偉大さを説いたのだ。お釣りが来る」
そうヒュームが言うのでついでに質問をしておく事にした。
「これだけの火でたとえ剣先といえど溶かせたのはどうしてだ?」
「例えるなら、ツルハシとハンマーだな。同じ重さでも、ツルハシの方が深く抉る。難しく言うなら同じエネルギーでも局所的に出した方が効率がいいということだ」
得意げにヒュームが教えてくれるのでどんどん質問する事にした。すると、魔法陣というものがありそれが、エネルギーを纏める役割をしているのだと言う。そのお陰で魔石をいくつか使えば先程のようなことも出来るらしい。そうして、魔石をまた保管しておけば回復するとの事だ。そういえば、魔王と言っていた男のグローブにも似た模様があった。
「それにしても、一瞬で剣を溶かすか。大盤振る舞いだな!」
ヒュームが楽しそうに話してると、ショーンが苦笑いをしながら言う。
「先遣隊の話だと氷の柱もあったとの事ですから、底が知れないですね」
魔法で剣を溶かせる事が分かった。なら次に聞くことは決まっている。
「溶かせない剣は作れるのか?」
「炎の魔法に対抗するように氷の魔法を使えば、理論上は可能だ。だが、先遣隊の魔石を使ってもダンジョンにいた炎の魔法を使う魔物に溶かされてしまったらしい。石の剣でも作ってみようと、先程は魔石を爆破していた所だ」
貴重な魔石を爆破してこの男は何をしているのだろうか。
「砥ごうとしたんだが、研げないのでムカついて爆破してやった。という訳ではなく、打製石器だ。砥石を作るために粉々にしたやつもあるぞ」
そう言うと楽しそうに魔石を爆破していく。全く叩いてないので破製石器に名前を変えたほうが良いんじゃないだろうか。
「何処でそんなに魔石を手に入れたんだ?」
そう問いかけると
「先遣隊が持って帰ってきた」
「師よ。国家機密です。」
まるで漫才のように国家機密が漏洩した。
「魔石採掘場の管理人にツテがあってな。市場に回る前に融通してもらった」
「師よ。事実ですが、違法です」
今度は不法行為が露呈した。
「あ、あー。お腹が空いたな!飯でも食べよう。カリンちゃんのお店に行こう」
「師よ。カリンさんのお店は3日ほど前からお休みされています」
カリンの話が上がり、悔しさがこみ上げて来る。
「カリンは魔王に攫われた」
そう言うと、二人とも驚いていた。そして暗い顔をしてヒュームが言う。
「悪かったな。詫びと言ってはなんだが、この魔石の粉をやるよ。食べるなよ。不味いからな」
「お腹が空いたからと言って魔石の粉を食べるのはヒューム様だけかと」
そう言って二人は笑っていた。ありがたく魔石の粉は貰っていく。
「魔石の粉を食べてどうなったんだ?」
そう聞くとショーンが答えてくれる。
「それはそれは、まさに地獄の業火と形容すべき炎に包まれておいででしたね」
ヒュームが誇らしげに胸を張っていた。
「焼かれている状態で街を駆け回るものですから、この通りギルド加入者は私だけに」
なるほど。悪魔の実験だの囁かれるわけだ。
「あれ以降魔法の調子が良くてな、全員に飲ませようとしたら辞めていった」
悪魔の実験は実在した。
果たして、ショーンにお小遣いは渡るのか!?
大金を手にしたヒュームがこのあと向かう先とは!?
次回、家に帰ります。