お使いと準備
なんだと・・・さっきまで夜だったはずだ・・・っ!
目を覚ますと俺以外は全員起きていた。あれだけ酒を飲んで何ともないのは普通なのだろうか、それともやはり父さんが酒に弱過ぎるだけなのだろうか。お酒について謎は深まるばかりだ。
「おはよう」
「おはようございます」
下へ降りると、ショーンが洗い物をしていた。テーブルには俺の分の食事が用意してあった。
「今、スープを温めますのでしばらくお待ちください」
やはり、ショーンはヒュームの身の回りの世話をしているのだろう。そのストレスを世話で解消するとは、どういう仕組みなのだろう。人の業とは不思議極まりない。
食事を終えると、ショーンに買い物と採集を頼まれた。ヒュームが実験に使いたいらしい。俺も武器を作りたかったが、今はポールとヒュームが作業場を使っている。俺は二人に声を掛けてから外に出ると、先に買い物をを済ませる。指輪のおかげで魔石が必要なくなり、体が軽くなり歩くのがとても楽だと感じた。食料品が主なものだったが、紙やインクなど研究用の材料も多かった。そして、次の文言がメモにあった。
”食べたいお菓子も買ってきてください”
ショーンは人の扱いがとても上手だと思う。そういって俺は、余ったお金でクッキーや日持ちの良さそうなお菓子を買っていく。ついでに今日食べたいと思ったケーキも買う。俺は街を後にすると、採集に向かった。今回の目的は”プラチナ”である。今まで溶けなかった金属の中でも期待値は一番高いものではないだろうか。というのも、一つの株で最大で取れる大きさがナイフを作れる程度の大きさだからだ。
魔法の剣として使うとクロムよりも威力が高いことが多い。その分溶かして剣を作れるなら、威力の底上げになりそうな気がする。俺としては威力の底上げより、どうやって攻撃を食らわずに相手を攻撃するかの方が死活問題である。ショーンが剣で盾を掴んだのを見て、あのまま手を刺せる気がして気が気でならない。今まで以上に手を引っ込める練習をすることにした。
そんなことを考えながら採集をこなしていく。取り方は簡単。適当なナイフを使って温めて、そのあと叩いて冷やして叩いて温めるを繰り返す。するとポキッと折れる。必要な分だけ取ると街に帰る。ケーキが俺を待っている。
工房に帰るとショーンが紅茶を用意してくれていた。俺はお使いを頼まれたものを渡していく。
「お菓子が・・・多いですね・・・。」
「ついつい、買ってしまった」
ケーキをパクパクと食べながら紅茶を飲み、至福のひと時を過ごす。暫くこんな日常も忘れていた気がする。しかし、カリンはきっと一人で寂しくしているに違いない。しかし、このケーキはうまい。ショーンの紅茶も至福である。カリンに食べさせてあげたいな。そうしてぼーっとしていると、手に持っているフォークが少し気になった。
なんの変哲もないただのフォーク、なのに何故か引っかかる。そう思って、さっきまで考えていたことを思い出すと、フォークもいいかもしれないと思った。ヒュームの二の前にならない様に、大きさを考えて作ることにしよう。そういってフォークを突き出してイメージしていると、ショーンに怒られた。
俺は二人におやつがあることを伝えに下の階へ降りる。すると、ポールが鎧を作り終わっていた。それはクロムより少し白みを帯びていた。その鎧に魔力を籠めて、炎を出したり、冷やしたりする。すると、鎧から突然棘が出る。満足したように元に戻すと、それを着たままこちらに来る。
「脱がないのか?」
そう聞くと、ポールがさらに重りを体につけながら答えてくれる。
「重さに慣れようと思ってな」
階段がミシミシと言っていた。そして、恐らく椅子が壊れたであろう音がした。俺は気にせずにヒュームに話しかける。
「おやつがあるらしいぞ」
「持ってきてくれ」
紙から目を離さないので、仕方なく持ってきてやる事にした。二階に上がると、案の定椅子は壊れておりポールは正座をさせられていた。床でケーキを食べている。椅子を壊してもケーキをあげるショーンの優しさには感服する。そう思って、ショーンを見ると椅子に座って紅茶を飲みながら下目にポールを見ていた。優しさなのだろうか・・・。そう思わずにはいられなかった。
「ヒュームが下で食べたいそうだ」
「かしこまりました」
そういうとショーンはまるで何事もなかったかのように、トレーを用意してケーキと紅茶を持っていく。
「あ、椅子を買ってきてくださいね。それと、ロバートも鎧を着た鍛錬の時は椅子に座らない様にお願いします」
ショーンがビクッと体を震わせて紅茶を飲む。何もなかったようで何かあったんだろう。俺は敢えて何も言わずにそのまま下の階へ行く。そうして、何か作ろうとしているとヒュームが声を掛ける。
「あぁ、武器を作るなら明日にしてくれ。今日は、そうだな。筋トレでもしておけ、ポールを目指せとは言わんがこれを来てトレーニングをして来い」
そういって指さしたのは鎖帷子だった。よく見るとそれに似たただの金網だった。俺はそれを着ようと人形から外そうとすると、かなり重たかった。何かが引っかかってると思いたかったが、純粋に重たかった。そうして、もたもたしていると、項垂れた様子でポールが上から降りてくる。何も言わずに人形からそれを外して俺に着せる。
足を踏み出すのも躊躇われるほど重たかった。
「鍛錬に励め」
ポールはそういうと、颯爽と扉を開けて外に出た。
椅子を買いに行ったのか。
ムキムキマッチョに・・・