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魔王のダンジョンと勇者の物語  作者: ありした
魔王のダンジョン
15/20

馴染みの店

ムギューッ!

「ロバート!」


店に入るとカリンの母さんが駆け寄ってくる。そして、その勢いのまま抱き上げられ俺の体は宙に浮く。彼女の豊満な体に埋もれると、涙が出そうになった。気づかれない様に必死にこらえながら顔を埋め、暫く経つと床に下ろしてくれる。


「心配したよ。あんたの母さんから聞いたときは思わずビンタしちまった」

俺は思わず自分の頬をさする。

「それでもね、あんたの母さんは泣かなかったよ。あの子は絶対に帰ってくるって」

そういうと、俺の前を退き部屋の中を見せてくれる。すると、近所の面々が勢ぞろいしていた。その中に母さんと出来上がった父さんがいた。こちらを見ると母さんは小さく手を振る。それを見て父さんが俺の存在に気付き、足元に最大限の注意を払いながらこちらに来る。


「おかえり」

「ただいま」

そういうと、父さんは満足げな顔をして母さんの方に帰っていく。そして、母さんに自慢していた。

「ただいま一号は父さんが貰った!」

母さんはもう一度こちらに手を振ると、父さんと食事を食べ始める。


「お前たちが帰って来た時に自慢するために、話を通しておいた」

ヒュームが胸を張って俺たちに言う。

「無事お前たちが帰って来たなら、ただ酒を飲ませろと!」

俺には何の得もないのだが、カリンの母さんの料理はとてもおいしい。久しぶりにそれにありつけるのだから良しとしよう。


ヒュームに案内されて、食事を取っていると近所のおじさんが茶々を入れてくる。

「おかえり、ロバート。どこまで行ってきたんだ」

酒を飲み、笑いながら聞いてくる。

「聞いて驚け!炎の魔物を倒してきた!」

酔っぱらったヒュームが大袈裟に手を振り、拳を掲げる。

「ヒューム様、まだ魔石ギルドにすら報告していません。どうかその辺で」

ショーンの制止を振り切り、人を退かしてナイフを取り出すと仰々しくそのナイフを掲げる。

「刮目して見よっ!これこそが、その証である」


そういって、ナイフを盾に変形させる。先ほどよりふた周りは小さいが厚い片手用の盾を上に掲げる。よく見ると剣の先が変形していなく、とがったままだった。あの盾で突かれれば間違いなく怪我をする。しかし内側からは見えないのかヒュームがおじさん達にぶつけようとする。ショーンが慌てて止めようとするが、そのたびに振り向く。見事な間合い管理で盾にあたることはないものの、我慢の限界だったのだろうか剣を取り出す。


忘れていたがショーンも酒を飲んでいた。俺は心配しながら二人を見ていると、先ほどまで逃げ回っていたおじさん達が外野になって二人をあおる。

「いいぞー!やれやれー!」

「ぶちかませー!」

ポールを見ると、少し興奮しているようだった。大人というのは酒を飲むと皆こんな風になるのだろうか。そんなことに思いを寄せていると、見合っていた二人が動き出す。ショーンが剣を変形させながら突っ込む。そして、突然椅子が後方に現れる。


「ポール!」

ショーンがそう叫ぶと、待ってましたと言わんばかりにショーンの横に行く。するとショーンの剣は途中で3つに分岐して盾を掴んでいた。ポールがその剣を引っ張るより先に、ヒュームは手を放し出口に駆け出そうとする。

「逃がしません!」

ショーンは投げ縄を取り出して、ヒュームを捕まえると椅子に縛り上げた。


「わ、悪かった!おふざけが過ぎたのだろう?悪かった!だから放してくれ!」

「御自覚があるのでしたら、この後もいつも通りでございます」

そういうと、ショーンはヒュームと椅子ごとこちらにやってくる。そして、料理を切り分けると肝が冷えるようなだがしかし満面の笑みでヒュームに食べさせようとする。

「はい、あーん」

撫でるような、しかし冷めたような声でヒュームに言う。ヒュームは少しの間抵抗したが、ショーンの無言の圧に耐えきれず口を開ける。そして、料理を口に含むと幸せそうな顔をする。おいしかったのだろう。そのあとは、ヒュームからおねだりをするように口を開けて待っていた。それにショーンが料理を切り分けて与えていく。器用に酒も飲ませながら・・・。


俺がそんな二人を見ながらぼーっとしていると、ポールが声を掛けてくる。

「いつものことだ。魔法の成果を発表してはショーンに縛られておる」

そういいながら、ポールも酒を飲んで俺の方をずっと見ている。俺は食事をしながら周りを見渡すと、今度はおばさんたちがこちらを向いてざわざわし始めた。一部の男もざわついているようだ。

「この二人はどれくらいこのままなんだ?」

いまだに子供の様に与えられて、幸せそうな顔をしているヒュームを見ながらポールに聞く。

「暫くはずっとこのままだ。ヒュームが用を足したいと言うまで続く」

なるほど、では先に帰るとするか。二人の邪魔をしても悪いからな。俺は母さんの方に顔を向けると、ちょうど母さんもこっちを見ていたようで手を振ってくれる。俺も手を振って席を立つ。

「しばし待て、これだけ飲んでから行こう」


そういって、ポールが酒を飲み終わると俺たちは食事処を後にした。

はい、あーん

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