大きなゴブリン
戦闘中に戦利品を拾わなくていい、勇者フレンドリーなシステム!
階段を降りていくと、先ほどと同じように木の箱が用意してある。ショーンがそれを開けてくれる。それは先ほどより大きいがやはり三個だけ用意してあった。それぞれ一つずつ持っていくと中に入っていく。今度の部屋は最初から明るかった。そのため部屋の真ん中に存在するその大きなゴブリンに誰もが気づき戦闘態勢を取る。
そのゴブリンは胡坐をかき座っている状態で、俺の腰の高さほどの背丈を持っていた。ゴブリンがこちらに気づき、立ち上がるとその頭は俺より上にあがりポールと並ぶ。その体は厚い脂肪に覆われているが、鎧の類は着けておらずその右手には大きなこん棒を持っていた。
コンコンとゴブリンがこん棒で床をつつくと、突然こん棒を握りしめ振り上げる。そして何もない床に向かって思い切り叩きつける。床が少しだけ窪み、ところどころ割れていた。ゴブリンはそこに右足で踏み入り、半身を取ると雄たけびを上げる。その声は空間を振動させ割れた石がコツコツと音を鳴らしながら踊りだす。
階段を探すが見当たらない。魔物をある程度倒さないと出現しないということは、今回はこいつを倒さない限り階段は現れないということか。俺は覚悟を決め剣を握りなおす。ポールはこちらを見ると、用意していた槍を仕舞い代わりにクロムの大きな盾を取り出す。
「あれくらいの威力なら、受け流せるだろう。その隙に首を刎ねろ」
ポールはそういうとゴブリンに向かって走っていく。それに気づいたゴブリンがこん棒を上に構える。俺はポールの後ろについて走る。ポールがゴブリンの間合いに入ると、思いっきりこん棒を振り下ろす。ポールはそれを横に避けながら、盾を使い受け流す。
俺はポールに向けこん棒が振り下ろされたのを確認し、ゴブリンの懐に入り込みゴブリンの右足の付け根に左足を乗せて剣を首筋に向けて真横に振る。その刃は確かに首を一刀両断にした。しかし、ゴブリンは霧散することなく俺を睨み、左手で俺を捕まえようとする。俺はその手から逃れようとポールの方に飛びのく。
すると、つららがゴブリンの左腕ごと胸を貫いた。それは先ほど見たものより二回りは太く、太ももくらいの太さがあった。ゴブリンが膝をつき、つららが消えるとようやく霧散し、階段が現れる。
「私もいる事を忘れてもらっては困ります」
ショーンがそう言いながら俺たちの横を通りながら階段に向かっていく。最初からあの一撃だけで倒せたのではないだろうかという位の魔法に少々悔しさを感じた。
「やはり、胸が弱点ということなのだろうか」
ポールが難しそうな顔をしてながら言っていたので、槍を持っていたことを思い出し聞いてみる。
「もしかして、お前もあれをひと突きで倒せるのか」
「あぁ。さっきの槍でひと突きだった。しかし、首を刎ねても死なないとは厄介この上ないな」
二人して俺を囮にやりたい放題である。俺は少し不貞腐れながら、ショーンの後について階段を降りていく。
階段を降りながらショーンが話しかけてくる。
「先ほど、ポールがおっしゃていた弱点の話についてです。先ほどのゴブリンは人に似ているため、首でも倒せるのではないかというのを二人で話していたのです」
やっぱり、示し合わせてあったことだったのか。まぁ、誰もけがをしなかったのだから良しとしよう。
「というのも、この後の魔物が防具類を装備し始めるため魔力の消費が激しいのです。少しでも減らせればと思ったんですが仕方がありません」
さすがはショーン、奥の手は最後まで取っておくということなのだろう。
話をしていると、階段が終わり木の箱が見える。ショーンがそれを開けると三つの小さな魔石があった。それは親指と人差し指のわっかをギリギリ通るくらいの大きさだった。各々それを一つずつ取ってき、仕舞っていく。ショーンは少しだけ嬉しそうだった。反対にポールは少し不服そうな顔をしていた。俺は特に何も思わず仕舞う。
そうして三人ともドアの前に立つと、装備を取り出していく。俺とポールはクロムの剣を取り出す。ポールは片手用の盾も身に着けていた。ショーンの方を見ると弓と矢筒を取り出していた。三本矢を右手に持つとこちらを向いて頷いた。俺はドアに手を掛け開くとポールが入る。ショーンが扉を閉めると。部屋が明るくなっていく。
今回は壁で道ができている部屋で、同じくT字路になっていた。その分かれ道と俺たちとの間に、鎧を着た腰までの高さのゴブリンが、分かれ道に近い所にいた。こちらに向かって歩いていた途中らしく、顔を上げてこちらを確認すると一目散に逃げだした。
「私が」
俺が足に力を入れて踏み込もうとしたとき、ショーンが一言口にして矢をつがえる。力を籠めて弦を引き、指を放すとそれはまっすぐゴブリンに向かっていく。その途中で矢じりから炎が上がり、矢を包み込む。その矢はゴブリンの心臓を後ろから貫いたらしく、貫通したと同時にゴブリンは霧散して消えていた。分かれ道の少し手前、恐らく向こうからは見えないであろう場所に矢は刺さり炎が消える。
グギャッ!