九太郎、思い出す
次回は来週に更新できれば…
今回は青春のお話です!一話完結なのでぜひ読んで、評価または感想を下さい!
「昔のこと、少し思い出したわ!」
九太郎が優奈に向けて言うと、優奈はその細い目を糸のようにして睨み付けた。口は左側へと歪んでいた。
「私も暇じゃないんだけど?まあ、でも仕方ないなら聞いてあげる。」
(暇だからこのフロアに降りてきてるのだろう…)
と九太郎は心の中で思ったが、どつかれそうであったので心の蓋をそっと閉めた。
「なに黙ってるのよ、早くしゃべりなさいよ!」
(やっぱり聞きたいのじゃないのか?)
これ以上は本当にどつかれそうだったので喋り始めた。
「今思い出したのは高校の時の思い出。まず、思い出したのは土のグラウンド、そして白球をグローブで追いかけていた、そして毎週のように練習をしていた…」
優奈は不思議そうな顔をして、九太郎を見た。
「意外とあんた、青春してるじゃん。」
「そう、俺はそのチームのキャプテンだった。四番サード。パワーに特化したホームランバッターだった。いつも鷹の目のように俯瞰してグラウンドを見るのが得意だった。それを生かして時に周りの選手も動かしてたな。たしか筋トレとか素振りをメインにトレーニングしてたっけ…」
「どうせ補欠かと思っていたのにキャプテンだったんだ。しかも、体細いように見えるのに意外とパワフルなんだ。」
優奈は尊敬の目を少し向け始めているようだ。
九太郎はふっーと息を吐いて続けた。
「あと、恋もしてたな。相手は野球部のマネージャー。何度も何度も失敗してなんとか最後は付き合ってもらったなあ。その時は練習がからっきしになったのは覚えてる。顔は鼻とか口とかは思い出せないけど、目が大きくてかわいい子だったよ。誕生日にいいプレゼントとかもらったりしなぁ。」
優奈はなにも言わず、九太郎をまじまじと見つめていた。
「思い出してきたよ。あれは県の決勝。ずっとライバルだった高校、たしか相手は暁高校。ずっと戦ってきた、たしか名前は少し思い出せないけど、たしか、とがり、みたいな名前だったかな。」
優奈は黙って聞いていた。
「九回裏ツーアウト満塁、打てば優勝。そして一球目がボール、二球目は空振り、そして三球目。俺は大きく振った。そしてその球は、バックスタンドに刺さったよ。そして俺らの高校は甲子園行きを決めたんだ。」
優奈は胸が熱くなっていた。そして、九太郎にとっても同じだった。
「ありがとう、優奈、大事なことを思い出せたよ。俺にこんな青春があったなんて、」
そんなときだった。ガタッと音がして、階段から降りてくるものが見えた。
「誰?!」
優奈は声を高くして、振り向いた。自分ほ胸の熱くなった顔を他人に見せたくなかったのだろう。
降りてきたのは少し小太りの幽霊だった。眼鏡をかけていて、いわゆるオタクのように見えた。ボサボサの髪を掻きながら
「すまない、立ち聞きする気はなかったのだけど。」
独特な間合いで話始めた。九太郎は話の腰を折られたためか、
「いったいなんだよ。」
九太郎は苛立つように聞くと、
「ひとつ気になることがあって、それって、
パワプロじゃね?」
九太郎の中で氷がバキバキと割れていき、すべての記憶が甦った。パワプロについての。
その後、二人は自分の好きなパワプロについて話したことは言うまでもない。
そして、優奈が九太郎をどついて帰っていったことも言うまでもない。