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第91話、おまえが(私の)パパになるんだよ⁉(その17)

「何ですって? シュレ○ィンガー准尉にしろ島○(ぜかまし)にしろ、半ズボンや紐パンを完全に脱がせてみるまでは、ショタ(♂)なのかロリ(♀)なのかは確定しないことこそが、現代物理学の中核をなす量子論の『本質』というものを、如実に示しているですと⁉」


 ──更に謎が謎を呼ぶ、驚愕の事実を知らされて、たちまち『異世界転生SF的考証クラブ』の部室中に鳴り響く、平部員である僕こと、あかさかヒロキ少年の声。




 しかし、当の発言者である美人部長こと、たつエリカ先輩のほうはと言えば、なぜだか非常に不本意そうな表情を浮かべていた。




「……いや、確かに前回の内容を端的に表している、非常に理想的な『説明ゼリフ』とも思われるが、そこは普通に、『密封された箱を開けるまでは、中の猫の生死は確定しない』でいいのでは?」


「でもやはり、本当は存在もしない思考実験上の猫なんかよりは、シュレ○ィンガー准尉や島○(ぜかまし)のほうが、インパクトがあって、こんなクソ面白くもない説明回を、真面目にちゃんと読んでくださっている、読者の皆様に対する『サービス』にもなるのではないですか?」


「何その、メタ丸出しの理論は? ──いや、言い出しっぺの私が言うのも何だが、そういう他力本願的な『引用』は、いい加減にしないとクドすぎるから、もうこの辺にしておこうではないか」


「……はいはい、わかりましたよ。──それで、何で『シュレディンガーの猫』の思考実験で言うところの、『密封された箱を開けるまでは、中の猫の生死は確定しない』ことが、現代物理学の中核をなす量子論の『本質』を示唆するとともに、『真に理想的なチート主人公の創出』さえも実現してくれることになるんですか?」


 何だかんだと寄り道をした挙げ句に、ようやく本題へと軌道修正を試みたところ、ここに来て再び真剣な表情となる、相変わらず胸元オープンなナイスバディの部長殿。




「実はな、『シュレディンガーの猫』の思考実験のもう一つの、あまりにも有名な論点エピソードとして、提言者のエルヴィン氏は、量子論に則るとすると、箱を実際に開けてみるまでは、()()()()()()()()()()()()()()()、箱の中には、『毒ガスで死んでしまった猫』と『いまだ生き続けている猫』とが、()()()()()()()()()ことになると、述べているのだよ」




 ──はあああああああああああああああああ⁉


「元々一匹しかいなかったのに、箱を開けて再確認するまでは、死んだ猫と生きた猫が同時に存在することになるって、そんな馬鹿な⁉」


「うん、そうだな、当のエルヴィン氏も、そう言っていたよ」


 へ?


「だから最初に言ったろう、そもそもこの『シュレディンガーの猫』とは、エルヴィン氏が量子論を否定するために考え出した思考実験だと」


 ……そういえば、そうでした。


「さっきも言ったが、これは『あくまでも可能性上の話』に過ぎず、字面通りに本当に『死んだ猫と生きた猫とが両方同時に存在する』わけではないのだが、例によってお馬鹿なベテランミステリィ作家を始めとして、SF畑以外の門外漢のプロの作家どもが、よせばいいのに量子論SFブームに便乗して『シュレディンガーの猫』に手を出して、自作の中に、生きているのか死んでいるのか判断不可能な、『半透明な猫』(w)を登場させたりしていたけど、おまえは小学生か? プロだったら、最も頭を使って小説を書けよ⁉」


「──いやだから、むやみやたらと各方面に、ケンカを売らないでくださってば⁉ ……それでその、『あくまでも可能性上の話』ってのは、どういう意味なんです?」


 そういえば最初から、これこそがネックになってたような気がするけど。


「実はだね、『シュレディンガーの猫』の思考実験の対象となったのが、量子論においてもコペンハーゲン解釈という派閥の理論なのだが、これはこの世のすべての物質を構成している物理量の最小単位──つまりは万物の基になる最小単位である、『量子』なるものが、たった一瞬後の形態や位置すらも予測することができないことから、量子というものは常に一瞬後の無数の『未来の可能性の量子自身』と重なり合った状態にあるとしているのだよ。これぞ『重ね合わせ』と呼ばれる量子特有の現象であり、かの量子コンピュータの作動原理ともされているのだが、無数の量子が重なり合っていると言われても、あまりに抽象的でイメージできないから、これを簡略化してよりわかりやすくしたのが、『シュレディンガーの猫』の思考実験における、『死んでいる猫と生きている猫の二重的存在』というわけなのだよ」


「ああ、なるほど、あの、『猫と毒ガス発生装置を一緒に箱の中にぶち込む』とかいった、動物愛護団体真っ青なわけのわからない実験は、小難しい量子論とかいうやつを、何とかわかりやすくさせようとしていたわけなんですね?」


「そうそう、そういうこと。とかくこのコペンハーゲン解釈における、『量子というものは常に無限の可能性が重なり合っている』という論説は、あまりにも突飛すぎるだけで無く、難解かつ抽象的であり、エルヴィン氏のような天才的学者を始めとして、あまり人の理解や賛同を得ることに成功しているとは言えなかったのだよ」


 うん、確かに。そもそも『量子』というのが一体何であるかについても、イマイチ理解できていないのに、その一瞬後の形態や位置が予測できないとか、未来の無数の量子が重なり合っているとか言われても、『もう僕、わけがわからないよ』としか言えないよな。きゅ〜。(※某魔法少女の使い魔的邪悪な宇宙生物は、こんな鳴き方はしない)


「それでな、ここからがまさに、Web小説──特に、異世界転移や転生系の作品に関連することになるのだが、エルヴィン氏のような量子論否定派だけでは無く、当然のごとく量子論推進派の中においても、量子論をもっとわかりやすくしようとする動きがあったのだ。──これぞまさしく、『多世界解釈派』という一派を中心としてな」


「多世界解釈って、もしかして、我が国のSF小説家やラノベ作家やWeb小説家が、パラレルワールドや異世界が存在していることの理論ベースにしているという、あの科学雑誌『新たなる豚の書(ニュートン)』大推薦の理論のことですか⁉」


「そう思うだろう? 実は違うんだなあ、これが。多世界解釈とはあくまでも、さっきの言ったように、同じ量子論の抽象的で難解なコペンハーゲン解釈を、より具体的にわかりやすく()()()()()理論なのだよ」


「へ? コペンハーゲン解釈を、言い直したって……」




「君にも理解しやすいように、量子そのものではなく、『シュレディンガーの猫』のほうを例に挙げると、コペンハーゲン解釈量子論においては、一つの箱の中に死んだ猫と生きた猫とが、同時に重なり合って存在していたのを、多世界解釈量子論においては、『猫が死んでしまった世界』と『猫が生き続けている世界』とが重なり合って存在していて、箱を開けた時猫が生きていたら、この世界が『猫が生き続けている世界』であることが確定して、『猫の死んでしまった世界』のほうは()()()()()()()()ことになってしまうそうなんだ」




 ………………………………………………………。


「せんせー、何を言っているのか、全然わかりませーん」


 こういう時は、素直に白旗を揚げるのが吉だ。知ったかぶりしても、何も得はしないであろう。


 案の定部長殿のほうも、いかにも「しょうがないなあ」といったふうに苦笑しながらも、懇切丁寧に解説を始めてくれた。


「……やれやれ、それではもっと単純明快な例を挙げるとするか。例えば、君の目の前に分かれ道があるとしよう、この段階では君には右に曲がる未来と左に曲がる未来とがあるが、それは()()()()()()()()()()()()、君が『右に曲がった世界』と『左に曲がった世界』とがあるようなもので、実際に右に曲がれば、当然その時点で、君が存在しているのは『右に曲がった世界』として確定して、『左に曲がった世界』は最初から存在していなかったことになるってことなのさ」


「あーあーあー、何となくわかりました。これって極当たり前の『可能性の話』をしているだけですよね。部長が何かにつけ『可能性の上では』と注釈を付けていたのは、このことだったんだ。つまりここで言う『世界』とは、『未来の可能性』というものを、あくまでも仮定の上で、『形』にしたようなものだったんですね!」


「そういうこと。まさにコペンハーゲン解釈においては、『量子の未来の可能性は無数に重なり合っている』と言っているところを、多世界解釈においては、いわゆる平行世界的な『多世界』と呼ばれる無数の世界が、重なり合っているかのように置き換えることによって、より具体的にわかりやすくしたわけなんだよ」


「じゃあ、別にSF小説やラノベやWeb小説で言うところの、過去や未来の世界やパラレルワールドや異世界のことを、言っているわけでは無いんですね?」


「もちろん、そのままズバリに、『実は平行世界は、ちゃんと存在しているんだよ〜ん』とかいった、おバカ理論では無いんだが、それとはまた別の意味合いにおいては、過去や未来や異世界等の存在()()()を示唆していることも、また事実なのさ」


 出たよ、またしても、『可能性』が。


「……多世界解釈が、平行世界の存在可能性を示唆しているって、どういうことなんですか?」


「さっきの『分かれ道』のたとえをもう少し複雑にすれば、まさに『ギャルゲの選択肢』そのものだと思わないかい? すなわち、ギャルゲにおいてどの選択肢を選ぶかによって、それ以降の『分岐シナリオ』が変わるように、この現実世界においても、人が何らかの選択をしようとするごとに、可能性の上では未来においては、無限の世界が存在しているようなものでもあるんだよ」




 ──っ。


「ちょっと待ってください、ギャルゲって、もしかして⁉」




「そう。君もさぞかし不思議に思っていたであろう、『未来の君の娘』を名乗る人物が複数いたことを。しかしこれは別に、おかしくも何ともないのだよ。──なぜなら多世界解釈的には、君がこの夏の終わりにつき合うことになる女性の候補の数だけ、未来にはそれぞれ異なる『君の娘』が存在している世界が、生じる可能性があるのだからね」

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