第90話、おまえが(私の)パパになるんだよ⁉(その16)
「……真のチート主人公を生み出してくれる救世主、『シュレディンガーの猫』、ですって?」
──ナニソレ、カッコいい!
「何か、ヒトラーユーゲントの制服を着た、半ズボンの猫耳ショタ美少年を彷彿とさせる、ステキワードですね!」
「うむ、私としてはヒトラーユーゲントよりも、『ドイツ幼女団』(実在)というキラーワードのほうが、そそられるけどな」
「あ、でも、たった今Webで調べたところ、准尉はショタであるだけではなく、可能性的には、ロリでもあり得るそうですよ? ……何ですかこの、『可能性的には』って」
「何だと⁉ それは初耳だっ! ──うむ、後で詳しく述べるが、量子論的には確かに、『シュレディンガーの猫』を名乗る者が、ショタであるとともにロリである可能性も、けして否定できないな!」
「へ? 量子論て、ショタとロリとの、どちらが正義かを問う、理論なわけなのですか?」
「いやむしろ、ショタとロリとのどちらともが正義であることを実証する、ステキ理論と言えよう!」
「はあ」
……すみません、うちの『異世界転生SF的考証クラブ』には基本的に、部員はバカしかいないのです。
「──まあ、冗談はそのくらいにしておいて、『シュレディンガーの猫』というものが何であるのか、ごく簡単に説明しておこう。その昔エルヴィン=シュレディンガーという理論物理学者が、あくまでも『論理的に非常に曖昧すぎて、しかも何かと中二……もとい、超次元的かつ難解すぎる』量子論を否定するために考案した、いわゆる『思考実験』のことであり、かいつまんで言うと、『箱の中に猫と毒ガス発生装置とを一緒に密閉した場合、その結果猫が死んでしまったかどうかは、箱を開けるまではわからない』というものなのだよ」
………………………………………は?
「あ、あの、部長」
「何かね、赤坂君」
「箱を開けるまで、猫が毒ガスで死んだかどうか、断言できないって、それって、当たり前のことを言っているだけではないのですか?」
「うん、この上も無く、当たり前のことに過ぎないねえ」
「──それのどこが、『真のチート主人公を生み出してくれる救世主』的な理論だと、言うんですか⁉」
「……やれやれ、忘れてもらっては困るよ、物理学において、『当たり前』のことを言うことが、どんなに特別なことであるかを」
「えっ………………って、あ、そうか! 物理学って昔から、『ラプラスの悪魔』とか『決定論』とかのように、ミステリィ小説の『名探偵』やWeb小説の『チート主人公』そのままな、非常識なことばかり言っていたんでしたっけ⁉」
「その通り、この『シュレディンガーの猫』問題を、古典物理学の『決定論』に則って論じ直すと、猫の生死は箱を開けるどころか、箱の中に毒ガス発生装置とともに閉じ込められる以前から、文字通り『決定されている』ことになるのだよ」
──!
そもそも箱に閉じ込められる前から、猫の生死が決まっているなんて、そんな馬鹿な⁉
「どうだい、古典物理学の『決定論』的考えが、いかに非常識であるか、痛感できただろう? それなのに現在においても、素人のチート転生勇者系のWeb作家はおろか、ミステリィ作家を始めとするプロの小説家までもが、いまだにこの『決定論』の呪縛に囚われているんだから、哀れな話だよな」
そうか、名探偵に代表される小説の『主人公』キャラたちは、作者によって最初から『勝利』が約束されているんだから、それに重ねてチートスキルなんかを与えられて、何百話もWeb連載が続いている中で、全編無双し続けたりすれば、読者としたら興ざめだよな。
「あ、でも、何でそんな『極当然なことを言っているだけ』でしかなく、どちらかと言うと、現在のチート主人公礼賛のWeb小説界の風潮を否定する立場の理論が、『真のチート主人公の創出』などといった、非常に重大なることを成し得るのですか?」
「ふふふ、お待ち遠様、まさにここでこそ、『シュレディンガー准尉は、ショタなのかロリなのか』問題が、登場してくるわけなのだよ」
「べ、別に、そんな問題、待ちかねていたわけじゃ、ないんだからね⁉(そわそわ)」
「ところで、君、疑問に思わなかったかね? 確かに箱の中に閉じ込める前から、猫の生死が決定されているのはおかしいけれど、例えば箱を開ける『寸前』であれば、すでに猫の生死は決まっているんじゃないのかと」
「? そりゃそうでしょう、何を当たり前のことを言っているのですか?」
「それが、『当たり前』では無いんだよ、少なくとも量子論においてはね。実はエルヴィン氏が、量子論を否定するために、シュレディンガーの猫の思考実験を考案したのも、この一点にあるんだ。──何と、この思考実験においては、実際に蓋を開けて観測するまでは、猫の生死は確定しておらず、生きている可能性も死んでいる可能性も、両方あり得ることになっているのだよ」
…………は。
「──そんな、馬鹿な! 箱に入れる前とか閉じ込めてすぐとかならともかく、箱を開ける寸前に至っても、猫の生死が決まっていないなんて、そんな馬鹿なことがあるわけないでしょうが⁉」
「だったら、もしも君の目の前に、実際にシュレディンガー准尉がいたとして、君にはその外見から、本当にショタなのか、あるいは原作者自身もほのめかしているようにロリなのか、判別することができるというのかね?」
「へ?…………いやいや、たとえ同じ『シュレディンガー』だからって、理論物理学上の思考実験と、漫画のキャラクターとでは、話がまったく違うのでは?」
「同じことだよ、いくら君だって、実際に准尉の裸を見たことがあるわけではあるまい? つまり君が准尉の半ズボンを脱がすまでは、あくまでも可能性の上では、准尉はショタであるとともにロリでもあり得るのだよ」
「……うう〜ん、まあ、そう言われてみれば、わからないでもないですけど、それって『詭弁』とか『極論』とかと、呼ばれるものではないですかあ?」
「ふうう……。まさか君が、そこまで頑固だとはね。──よろしい、やはり具体的な例でもって、わからせてやろうではないか。さて、ここに一冊の、『艦○れ』の同人誌があるのだがね」
「──っ。そ、それって、『島○』の、十○禁本では⁉」
「これはまだ未開封の新品だから、こうしてビニールに包装されているが、君がこれを最後までちゃんと読み通すと約束するのなら、最初に目にする権利を与えよう」
「します、します、約束します! 島○の同人誌を、隅から隅まで熟読することなんて、『艦○れ』提督にとっては、当然のことでしょう!」
「では、どうぞ(ニヤリ)」
「げへへ、こうやってエ○同人誌の包装を破いている時って、何か女の子の衣服をビリビリ引き裂いているような感じがして、いいですよね〜(ゲス顔で)……………………って、な、何じゃ、こりゃあ⁉」
「おや、どうしたんだい? ページを開いてすぐの冒頭部で、すでに目を皿のようにしたりして。そんなに刺激的なシーンでも、見つけたのかな?」
「ちょっと、部長、これって、どういうことなんですか⁉ この島○って、ついているじゃないですか!」
「当然だろう、それは、『島○くん』なのだから」
「し、島○、くんって……」
「これぞまさに、『艦○れ』きっての人気キャラである島○を、そのロリカワな外見と、あざといまでに扇情的なコスチュームはそのままに、少年化を果たした、二次創作ならではの、男性か女性かを問わず全マニア垂涎の的の、超ハイブリッドキャラなのだよ♡」
「──いやいやいや、少年化って、外見上(一部を除いて)、まったく変わっていないではないですか⁉」
「そこが、『同人誌マジック』と、言うものだよ。公式設定的にはけしてあり得ないことでも、二次創作だったら、どんなむちゃくちゃなアホ設定でも、実現できるってわけなのさ。何せ同人誌とは、マニア自身の『夢の具現』に他ならないのだからね!」
同人誌だったら、『何でもアリ』って、そんなんじゃ、あんた自身が散々否定してきた、『決定論』と同じじゃないか⁉
「くふふふふ、さあさ、どうした、最後まで、ちゃんと読んでくれるんだろう? まさか我が『異世界転生SF的考証クラブ』の部員ともあろう者が、約束を違えることなぞあるまいな?」
「くっ、この鬼畜部長が…………ッ。いいだろう、読んでやろうではないかっ!」
「さすがは、私が見込んだ男、安心しろ、読み終わる頃には、君は『新たなる扉』を開くことになるだろうw」
「ふざけるな! 私はけして、おまえなんかには、屈しはしない!」
「……私は、女騎士を襲っている、オークか何かか?」
【15分ほど経過】
「さて、どうだったかね、赤坂くん?」
「──いやあ、いいですねえ、島○くんって!(すごくいい笑顔で)」
「そうだろうそうだろう、君なら必ずわかってくれると思っていたよ」
「最初のうちはやはり、そこはかとなく違和感を覚えましたが、部長がおっしゃる通り、外見上はほとんど島○のままであり、そのエロ可愛らしさは微塵も損なわれておらず、そのくせ実はショタ美少年であることこそが、むしろ背徳なまでのエロさを感じさせるし、特に男たちからもてあそばれることで、屈辱感に苛まれながらも、身の内から湧き上がる快感には抗えず、次第に喘ぎ始めるシーンの色っぽさと言ったら、もう♡」
「くくく、そうともそうとも、元々『艦○れ』二次は、超人気の『ショタ提督』を始めとして、ショタキャラ化はお家芸とも言えるのだからな」
「ああ、いいですよね、『ショタ提督』って!」
「あはは、君もすっかり、『ショタ艦』の虜だねえ」
「こんなことだったら、もっと早く、『島○くん』とか『ショタ艦』を、ネットで検索していれば良かったですよ」
「おやおや、別に『ワード検索』するまでも無く、君はすでにネット上で、『島○くん』を始めとする『ショタ艦』と、出会っていたかも知れないじゃないか?」
「ふへ? それって、どういう…………」
「君もすでにたっぷりと思い知らされたように、島○と島○くんとでは、外見上まったく違いは無いのだ。だったら君が今までネット上で見てきた、二次創作イラスト──特に、まとめサイトなんかで、ストーリーどころか題名すらも付いてない、『一枚絵』の島○は、実は島○くんであった可能性もあるとは思わないかい?」
──‼
「──そう、実はこのことこそが、『シュレディンガーの猫』を始めとする、量子論そのものの『本質』というものを、如実に示しているのだよ」




