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第89話、おまえが(私の)パパになるんだよ⁉(その15)

「……悪魔って、一体」


 僕自身も所属している『異世界転生SF的考証クラブ』の部室にて、美人部長のたつエリカ嬢から、かつてこの世界は一匹の悪魔によって、誰もがたった一つの『最初から定められた運命』のもとに、まるで小説の登場人物のように、『最初から定められた人生』を送らされていたと聞いて、心底戦慄した。




「──ああ、悪魔と言っても、別に珍しくも何ともないよ、いわゆるミステリィ小説なんかに、馬鹿の一つ覚えみたいに出てくる、『名探偵』のようなものなんだから」




 ………………………………………は?


 しかもその上更に、平部員の僕を翻弄するようにして、予想の斜め上へと論理を飛躍させていく、マッドな先輩であった。


「な、何ですか、昔の世界を物理学的に支配していた悪魔の正体が、ミステリィ小説の名探偵みたいなものって⁉」


「昔の物理学者たちは傲慢にも、未来というものへ至る道筋は一つに決まっているから、おりこうさんの物理学者である自分たちが、その時点で明らかになっている各種数値(パラメータ)を、物理学的な各種『公式』に則って計算するだけで、未来におけるすべての事象を正確に予測できるとか、ほざきやがったんだ」


 ……何、だと? いわゆる『未来予測』を可能とするなんて、昔の物理学者って、エスパーだったのか⁉


「しかし、しょせん彼らは、そもそも計算に使用するための『数字』である、地球上におけるすべての物質の各種数値(パラメータ)──すなわち、質量や位置や運動量を全部把握することなんて、到底不可能なことに気づくことのできない、『おりこうさん』の振りした『アホの子』でしかかったわけだ」


 あ。


「しかも当然のことながら、その瞬間の各種数値(パラメータ)は、まさにその瞬間の一瞬だけで把握しなければ、当然計算を開始することすらできないのだから、地球上すべての物質の各種数値(パラメータ)を、一瞬で把握しなければならなくなるのだが、そんなことなど現在における、最高性能のスーパーコンピュータだって不可能だろう」


 ……そりゃそうだろうな。


 まず、そんな計算処理速度能力を有するコンピュータなんて、未来永劫実現しないだろうし。


 そもそも、地球上のすべての物質のデータなんて、どうやって調べるんだ? しかも一瞬で? すべての物質に自己申告でもさせるのか? 例えば石ころとかの無機物にも?


 ……ほんと、今も昔も『学者』なんて名乗るやつらは、馬鹿ばっかりだよな。




「もちろん、当時も一般常識を有する学者以外の人々から総ツッコミを受けてしまい、正論で迫られて逆ギレしてしまった学者どもは居直って、とんでもないことを言い出したんだ。「──だったら、地球上のすべての物質の質量や位置や運動量を、一瞬にして把握できて、一瞬にして物理計算のできる、「悪魔的存在」がいればいいだろうが⁉ おりこうさんの数学者である、僕ちんピエール=シモン=ラプラスの名を取って、「ラプラスの悪魔」って名付けたるでえ!』とな」




 はああああああああああああああああ⁉


「ナニソレ⁉ そんなこと言い出したら、『何でもアリ』になっちゃうじゃん! 文字通り『何でも』チート能力で解決しようとする、御都合主義のWeb小説かよ⁉」




「おお、さすがは、我が後輩、いいことを言った! まさにその通りなんだよ! この『ラプラスの悪魔』ってまさしく、『たった一つに定められた「すべての真相」に至るまでの結末を、あらかじめ創造主であるピエール氏同様の「作者」によって教えられているくせに、さも自分自身の計算能力による「名推理」によって、常に未来予測そのままにあらゆる難事件を解決する、ミステリィ小説やWeb小説等の創作物における、「名探偵」そのもの』とは、思わないかい?」




 ──‼




「あーあー、そうだそうだ、まさしく単なるミステリィ作家の、代弁者であり走狗イヌであり狂言回しであり操り人形でしかない、ミステリィ小説における『名探偵』キャラ、そのものではないですか⁉」


 そういえば、ベストセラー(w)ミステリィ小説に、『ラプラスの喪女』だか何とかっていう作品があったよな。


「つまり、昔の物理学者は、現在のミステリィ作家レベルの知能しか無かったわけなんだよ。…………あ、いや、むしろ現在のミステリィ作家のほうが、昔の物理学者レベルの知能しか無いと言うべきかな? 何せこの量子論を中心とする現代物理学に支配されている時代において、わざわざ『ラプラスの何とか』というタイトルにするまでも無く、『ラプラスの悪魔』そのままの時代遅れの御都合主義的、異世界転移系Web小説のチート主人公そのままな、『名探偵』キャラなんて創出し続けているのだからね」


 おい、いくら正しいからって、出版界やWeb小説界を問わず、全方面にケンカを売るのはやめろ!


「とはいえ、このように現在においても、超有名ベストセラー作家(w)を始めとする、ほとんどすべてのプロのミステリィ作家どもに支持されているように、当時の学界においても、常識的な否定派を黙殺するほどに、賛成派のほうが多数を占めていたのだよ」


「ええー、仮にも物理学者が、悪魔の存在なんかを、マジで信じていたんですかあ?」


「学者などという常識知らずのアホどもは、自分の学説の正しさをでっち上げるためには、悪魔に魂を売り渡すことすらためらわないのさ。──かつてイギリスの某首相が、敵国の世紀のカリスマ独裁者に対して、政治家としての勝負に勝ちたいばかりに、東方の赤い悪魔と同盟を結んで、ヨーロッパ中を戦火で燃やし尽くしたようにね」


「……アホばっかりですね、昔の物理学者も、現在のミステリィ作家たちも」


「おそらく、将来において、『ラプラスの悪魔』的な存在が現れるとでも、思っていたんじゃないか?」


「は? 悪魔が将来、現れるって……」


「これは我々現在のSF関係者も、『同罪』というか『同じ穴の狢』になってしまいかねないのだが、例えばSF小説やラノベやWeb小説等において、それこそ悪魔や神のごとく礼賛されている、未来の超コンピュータ(w)である、量子コンピュータが実現できれば、『ラプラスの悪魔』そのままの計算処理能力を可能とできると、見なす輩もいるわけなんだよ」


「……あー、確かに、一時期SF小説界隈において、とにかく量子コンピュータさえ登場させておけば、『何でもアリ』が可能になるのがお約束って作品が、山ほど存在していましたよねえ」


「本当は量子コンピュータというものは、ラプラスの悪魔に代表される古典物理学とは、対極的な存在であり、むしろ『何でもアリ』を否定する立場にあるんだけど、残念ながら、ミステリィ小説の名探偵やWeb小説のチート転生勇者等を鑑みるまでも無く、小説家という者は、とかく自分の作品の主人公を、文字通り()()()()()()『決定論』的なスーパーマンにしがちだからなあ」


 そ、そうか、ストーリーから何から勝手に『決定』できる小説家だからこそ、主人公を『何でもアリ』のスーパーマンにできるわけで、それは物理学的には時代遅れに過ぎない、御都合主義なインチキ以外の何物でもないってわけか。


 一応素人とはいえ、Web小説家の端くれである僕としては、身につまされる話だよなあ……。




「ふふふ、そんなに深刻そうな顔をする必要はないよ、すでにっくき『ラプラスの悪魔』は、退治されてしまっているのだからね。──それも、たった一匹の猫によって」




 ──なっ⁉


「世界の未来すら予測できるという悪魔が、たかが猫一匹に退治されたですってえ⁉」


 あまりの予想外の言葉に、もはや我を忘れてただわめき立てるしか無い僕に向かって、目の前の美人上級生は、不敵な笑顔で更なる謎めく言葉を言い放った。




「──そう。その名も、『シュレディンガーのねこ』。我々SF関係者にとっても、真に正しい『チート主人公』を生み出す道しるべを与えてくれる、救世主的存在なのだよ」

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