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第87話、おまえが(私の)パパになるんだよ⁉(その13)

「──『未来からのタイムトラベラー少女たちによる、「るかられるか」の、ヤンデレバトルロイヤル主人公争奪戦』か、ふふふふふ、まさしく言い得て妙だな」


 僕自身いまだ半信半疑の、未来から来た『娘』たちの電波的打ち明け話を一通り聞き終えるや、その上級生は思わせぶりなしたり顔でそう言った。




 彫りの深く整った小顔の中で、黒檀の双眸を、意味深な笑みで煌めかせながら。




 毎度お馴染みの文化系部室棟の最上階にて、向かい合った机で頬杖をついて、僕のほうを興味深そうに見つめているのは、いつものごとくリボンタイ無しのはだけた純白のブラウスの胸元といった、ラフに着こなした制服姿で、常に何事にも動じないその表情とも相まって、大人びた雰囲気をかもし出している、我らが『異世界転生SF的考証クラブ』部長の、たつエリカ嬢であった。


「……他人事かと思って、よりによって『ヤンデレバトルロイヤル争奪戦』は、無いでしょうが? こことは別の世界とはいえ、あんなに何人も『僕の娘』が存在しているとか言われて、こっちとしてはこの上なく混乱を極めているというのに」



「ほう、これはまた、深刻なご様子だねえ。でもまあ、そんなにしかめっ面して途方に暮れるのは、まだ早いんじゃないのかい? せんすい先生たちが言っていることが、すべて正しいとは限らないのだからね」


「へ? それってどういう……」


「おいおい、忘れてもらっては困るよ? これまでも君との熱いSF談義の中で、散々言ってきたのではないか、『SF小説のようなことはあくまでも、SF小説の中でしか起こり得ない』と。──すなわち、まずはすべてを疑ってかからなきゃ、君自身もそのうちに、虚構フィクションの世界に引き込まれてしまうことになるぞ。むしろ今この時こそが、踏ん張りどころなんだ、頑張ってくれよ、『主人公』君?」


 ……あなたまで、僕のことを、そう呼びますか。


「つまり部長は、先生やアズサたちすらも、さんのう会長同様に、ある意味妄想状態にあるようなものだと、おっしゃるわけで?」


「と言うよりも、これも以前言ったはずだが、あくまでも我々現実(サイド)の現代人の観点に立って見れば、未来人なんてものは、本物であろうが単なる妄想上の産物であろうが、何ら違いはないわけなのだよ。つまり会長殿や先生たちが、自分自身を心から君の娘さんであると思い込んでいるのなら、君にとっても、まさしく娘そのものであると言っても、過言ではないのさ。──よって問題は、君自身が現在の彼女たちを、どう捉えるかであり、すべてを妄想と決めつけてこれまで通りの対応をするのもいいが、もしも彼女たちの『娘宣言』を認めるというのであれば、彼女たちのうちの一人だけを、『将来自分の娘を産んでくれる母体』──つまりは、『未来の嫁』として、選ばなければならなくなるって次第なのさ」


「……ええ。彼女たちも言ってましたよ、すべては僕の選択いかんにかかっていると。そう言われてみたところで、僕にはどうしたらいいのか、皆目見当がつかないんですけどね」


 そのように僕が悲痛に訴えるや否や、これまでのシリアスな雰囲気を一変させて、とんでもないことを言い出す部長殿。




「なあに、簡単なことさ、ギャルゲだよ、ギャルゲ。彼女たちも、いかにもそれっぽいことを、匂わせていたじゃないか?」




「──ぎゃ、ギャルゲ、ですってえ⁉」


「そう、まさに君はギャルゲの『主人公プレイヤー』そのものとなって、数多の『選択肢ヒロイン』の中から、真に自分にふさわしい相手を選び出して、そのルートを完璧に攻略していけばいいのさ」


「ちょっ、あなたまで、何を言い出すんですか⁉ それではもう、SF小説もへったくれも無いじゃありませんか!」


 SF蘊蓄大好き部長様としてはここはやはり、自分が生まれる前に実の父親を殺せばどうなるかといった、『タイムパラドックス路線』なんかを目指すべきなのに、それを実の妹をいかに攻略すべきかなどといった、『萌え路線』をひた走ったりして、どうするんだよ⁉




「いやいや、むしろ未来人とかタイムマシンなどいう、元来あり得るはずのないSF的概念を持ち込んできたりするから、現実世界のギャルゲ化現象なんかが起こってしまうわけなのだよ。本来現実世界においては、たとえ複数の女性が一人の男性を巡って恋のさや当てをしていようが、ラノベやWeb小説や漫画やアニメやそれこそギャルゲでもあるまいし、なりふりかまわず激烈な争奪戦や修羅場を展開することなぞ無いのであって、普通は女性同士の水面下における常識的な恋の駆け引き等でケリがつくはずなのであり、もちろん最終的に男性の愛を獲得できなくても、恋に敗れた女性自身の命に関わることなぞないのだが、ここに今回のようなSF的設定を持ち込んできて、未来からやって来た『娘』の精神体が母親の身体に憑依してしまっているということになると、万が一にも男性の愛を獲得できなかったら、将来における自分自身の存在そのものが消滅してしまうわけなのであり、まさしくそれは主人公プレイヤーに選択されなければ、それ以降のルートが完全に閉ざされてしまう、ギャルゲのヒロインそのものとも言えて、だからこそ彼女たちは文字通り命がけで、君の争奪戦を展開していくことになるってわけなのさ」




「SF的設定を持ち込んだから、現実世界がギャルゲ化したなんて、それはあまりにも論理が飛躍し過ぎるんじゃないですかあ⁉」


「だって、まさにそうではないか、現在の君を取り巻く状況というものを、ようく見つめ直してごらん。未来はけして一つだけではなく無限の可能性があり、その数だけ『娘』が存在し得る世界があるなんて、まさしくギャルゲの『選択肢』における、ヒロインごとのルート分岐そのものだし、逆に君がこの夏つき合う相手を決定して、いわゆる『分岐点』を固定化してしまえば、選ばれなかった『娘候補』たちと彼女らの世界そのものが消滅してしまうところなんかは、まるでゲームにおけるシナリオ分岐システムの残酷さを、浮き彫りにしたようなものとは言えないかい?」


 ……そりゃまあ、言われてみればそうなんだけど、何でもかんでもギャルゲに当てはめてしまうってのも、何か釈然としないものがあるわけでして。


「やれやれ、しっかりしてくれたまえよ、彼女たちが自身の未来を背負って闘っているのと同様に、君にはこの世界のこれからの運命がかかっているのだよ?」


「はあ? 世界の運命って……」


「君がシナリオ選択を誤らずに、真に正しい道を歩み続けていけば、現下のギャルゲステージそのものの状況も、元通りの正しい現実的姿に立ち戻らせることができるだろうが、反対に『娘候補』の諸君に取り込まれてしまって、バッドエンドへとひた走ってしまえば、この現実世界そのものが虚構フィクション化してしまいかねないってわけなのさ」


「現実世界そのものが、虚構フィクション化してしまうって、そんな馬鹿な⁉」




「果たしてそうでないと言い切れるかな? もうすでに相当なまでに、侵食が進んでいるのではないか? ──未来から来た娘の精神体。それによってあこがれだったお嬢様生徒会長を始めとする、幼なじみやクラス委員や従妹や美人教師といった、並み居るヒロインキャラからモテモテになる主人公。そして繰り広げられる、本来ギャルゲやラノベでしかあり得ないはずの、様々なラブコメイベント。絶えず変動し続ける『分岐点』の存在によって、くり返される歴史。ギャルゲの選択肢そのままに、世界の運命そのものを委ねられる主人公。その結果始まる、ヒロインたちによる苛烈な主人公争奪戦──。まさにこれぞ思春期の青少年の願望を具現化した、ゲームやラノベやWeb小説や漫画等によくある、虚構フィクションの世界そのままの展開ではないか」




 うぐっ。こうやって改めてリストアップされてしまうと、いちいち御もっともとしか、言いようが無いんですけど……。


「い、いや、やはり、おかしいですよ、この現実世界が、『ギャルゲ』そのものになってしまうなんて! そんなものはもはや、SFマニアならではの妄想的御託ですら無いでしょうが? ひょっとして部長ってば、最近流行りのゲームそのものの世界ばかりしか舞台にできない、異世界転生系のWeb小説を読みすぎたせいで、すでに完全に『ゲーム脳』になっているだけじゃないんですか⁉」


 そのように、ある意味まさしく『主人公』の役割を果たすかのように、この世界の現実性リアリティを守るために、中二病部長殿に食ってかかる平部員であったが、目の前の美人上級生の余裕の表情は、微塵も揺らぎはしなかった。


「おやおや、ゲーム脳はひどいじゃないか、これは量子論や集合的無意識論に則った、まさしく真に現実的な理論だというのに」


「ええっ? 量子論や集合的無意識論に則っているって……」




「そう、実はこの現実世界そのものが、元々ギャルゲのようなものであるからこそ、現実性リアリティをしっかりと維持しながらも、タイムトラベルや異世界転生等を実行し得ることも、けして否定できなくなるのだよ」

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