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第83話、おまえが(私の)パパになるんだよ⁉(その9)

「な、何ですか、部長、『現代日本人としての主観』を捨てなければならないって?」




「大切なことだから、何度も言うが、世界というものは一つしか存在し得ないのだから、それが異世界転生によるものかどうかにかかわらず、今現在に異世界に存在するとしたら、その人物は現代日本人ではないのはもちろん、『現代日本から異世界転生してきた転生者』ですらなく、()()()()()()()()()()でしかないのだよ」




「ええっ、で、でも、さっき部長自身、異世界転移はともかく、異世界転生は実現できると、おっしゃっていたではありませんか?」


「いいや、私はあくまでも、()()()()異世界転生と同じ状況が生じることはあり得るので、現在のWeb小説はけして全面的に間違ってはいないと言っているだけで、そもそも異世界転生とかタイムトラベルとかいった非常識なことは、けして実現できるとは思っていないよ?」


「ちょっ、異世界転生が絶対になし得なくて、どうやって既存の『異世界転生』作品が存在し得るって言うんです⁉」




「簡単なことさ、各作品の主人公はけして『現代日本人の転生者』なぞでなく、ただの『異世界生まれ』に過ぎず、例えば、生粋の異世界人の女の子があくまでも彼女自身『本好き』だったからこそ、本作りに乗り出したのであり、生粋のスライムが最弱のモンスターでありながら強くなろうと思ったからこそ、最強になれたのであり、単なる異世界の少年でありながらどんな困難な問題でも解決してやろうと、不屈のチャレンジを繰り返したからこそ、『死に戻り』の力を手に入れただけなのであって、彼らは別に『現代日本人』とはまったく関わり合いは無く、ただ単に不断の努力の結果、まさしく『天才だけにもたらされることになる閃き』として、『集合的無意識』を介して、『現代日本人レベルの、最新の科学技術等の知識』を手に入れることになっただけなのだよ」




「はあ? かの有名な、『本好きな上昇志向の強い女の子』や『好戦的なスライム』や『好戦的な少年』が、現代日本人と何の関係も無いですって⁉ それに『天才だけにもたらされる閃き』とか『集合的無意識』って、一体何のことなんですか?」


「集合的無意識とは、かの高名なるカール=グスタフ=ユングが提唱した心理学用語で、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってきているとされていて、よって当然特定の現代日本人である、『本好きなアラサー司書』や『ごく平凡な(負けず嫌いの?)男子高校生』等の『記憶や知識』も当然存在していて、それらが集合的無意識と何らかの形でアクセスを果たすことによって、異世界人の少年少女やスライムの脳みそに刷り込まれてしまえば、あ〜ら不思議、超人気作品における『異世界転生状態』と、まったく同じ状況を実現することができるって次第なのさ」


「なっ、他人の『記憶や知識』を脳みそに刷り込むことによって、事実上異世界転生を実現するですってえ⁉」


「だって、本人が異世界転生の事実を確認する判断基準なんて、自分に『現代日本人としての前世の記憶』があるかないかしかないだろう? まさに集合的無意識を通じて与えられた『現代日本人の記憶や知識』って、『前世の記憶』そのものじゃないか?」


「──!」


 そ、そうだよな。


 たとえWeb小説においては、『実現できて当たり前!』みたいな感じで行われているけど、異世界転生なんて物理的証拠の類いはまったく存在せず、自分自身のあやふやで非現実的な、『前世の記憶』だけが頼りなんだからな。




「とはいえ、この集合的無意識というものは、現在でも一定の西欧諸国において盛んに揶揄されているように、けしてオカルト的なものでは無いんだ。先程もちらっと述べたように、かのエジソンが言っていた『天才とは、99%の努力と1%の閃きとによって、成り立つのだ』そのままに、例えば『本好きな女の子』が、何としても異世界に読書の習慣を広めようとして、常に全力で死に物狂いになって、努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力した果てに、最後の最後で与えられる『閃き』こそが、偶然に集合的無意識にアクセスを果たして手に入れることができた、まさしく『現代日本レベルの印刷技術や製本技術等の記憶や知識』なのであって、何よりも異世界人自身の努力あってこその、ちょっとした『閃き』や『天啓』と呼ばれるものに過ぎず、あくまでも現実的なものでしかないんだよ」




 ──ああ、なるほど!


「確かに努力の結果としての『閃き』なんて、僕らの日常的にも十分あり得ることだし、まさにこれぞ『異世界転生を最も現実的に実現できる方法』と言われても、大納得ですね!」


 そしてこれは、現在焦点となっている、『未来からのタイムトラベル』にも当てはまるのだ。


 何せ『世界というものは現在目の前にある、この現実世界しか存在し得ない』としたら、タイムトラベルも異世界転生も、同じようなものに過ぎなくなるんだしね。


「そうかそうか、やはりすべては、会長の妄想のようなものでしかなかったんだ。結局彼女も何らかの理由で、集合的無意識へのアクセスを果たして、そこでまさしく彼女の妄想の産物的な、『未来の娘の記憶と知識』を自分自身の脳みそに刷り込むことによって、完全に『娘』そのものになり切ってしまっているだけなんだ!」


 そのように、現在の非常識極まる状況に対して、完璧かつ論理的に説明がついたことで、有頂天になって喜んでいたら、


 なぜか部長殿が、こちらのことを心底哀れむように、盛大なるため息をついた。




「……君、大変喜んでいるところに恐縮なんだが、すべては会長殿の妄想みたいなものであるということが、どんなに『恐ろしいこと』なのか、わかっているのかい?」




「へ? 恐ろしいこと、って……」




「言っただろう、集合的無意識なんていう、本来なら到底アクセスできないものにアクセスできるということは、それだけその者自身の『欲望』が絶大なのだと。──つまり彼女は、自分でも無自覚の深層心理的に、愛欲の念を抱いている君との『娘』を生み出すほど、君に心底恋い焦がれており、その執念が実ってついに集合的無意識とのアクセスを果たして、無限の可能性的にはけしてその存在を否定できない、『未来の娘の記憶と知識』を己の脳みそに刷り込んで、完全に『娘』そのものになり切って、まずは『自分』の存在を確固たるものにしようと、父親である君を性的に篭絡して、現在の自分である母親の身体を使って、『自分』を身ごもろうと画策するとともに、その結果君を心身共に独占しつつ、それでもなお君に手を出そうと企んでいる邪魔な『泥棒猫』どもを、『実力行使』によって、全員完全に排除しようと目論んでいるのだよ」

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