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第82話、おまえが(私の)パパになるんだよ⁉(その8)

 ──『世界』というものは、この現実世界ただ一つしか、存在していないって。


 ……………………。




「──ちょっ、何てこと言い出すんですか⁉ そんなんじゃ、現在話題の焦点になっている、『未来からのタイムトラベル』どころか、今やWeb小説界における最も人気のイベントである、『異世界転生』や『異世界転移』すらも、全否定するようなものじゃありませんか!」




 本当にこのままじゃ、どこかのアマチュア作家が、Web小説界にいられなくなるぞ⁉


 しかし僕の慌てぶりなぞ何のその、冷徹に更なる『現実』を突き付けてくる、美人部長殿。


「えっ、何、その反応? 私は極常識的なことを言っただけだけど? それとも君はこの現実世界以外に、未来の世界や過去の世界や異世界が、厳然と存在しているとでも言うつもりなのかい?」


「──ぐっ」


「それにそもそも、会長殿が未来人であるのは、『単なる彼女の妄想』だと決めつけたのは、他ならぬ君自身ではないか?」


「──ぐぐっ」


 そ、そりゃあ、僕だって『タイムトラベル』や『異世界転生』なんて、現実にはあり得っこないと思っているけど、それを頭ごなしに全否定したんじゃ、何かと角が立つじゃないか、各方面に対して!


「ああ、大丈夫大丈夫、別に私は『タイムトラベル』や『異世界転生』の実現可能性を、完全に否定しているわけじゃないから。……残念ながら先に全否定した、『物理型タイムトラベル』と、それに準ずる『異世界転移』は別にしてね」


「えっ、だってこの世界以外に、未来の世界とか異世界とかが無かったら、『タイムトラベル』や『異世界転生』は、必然的に実現不可能となるではありませんか?」


「いいかい、よく思い出したまえ、私はあくまでも、『今現在()()()()()()世界しか存在していない』、と言ったのだよ?」


「……はあ」


 それがどうした、同じことじゃないか?




「──さてここで、いわゆる『異世界転生』系作品における、代表的な導入部を諳んじてみようではないか。まず、暴走トラック等にはねられたりして死んでしまい、わけのわからない謎空間で神様的存在から、転生することを勧められたりチートスキルを与えられた後に、気がつけば異世界において赤ん坊やある程度成長した異世界の人間として目覚める──といった具合だけど、この間ずっと当事者にとっては、『現在目の前にある世界』は、常にただ一つであるとは思わないかい?」




 ──‼




「これはタイムトラベルについても言えることなのであって、同じように事故に遭って死亡したり、あるいはただ単に眠り込んだり気を失ったりして、ふと気がつけば、『戦国時代の下級武士や商人』や『未来人』になってしまっていた場合、当人にとっては、『現在目の前にある世界』は常にただ一つでありながら、しっかりとタイムトラベルを実現しているではないか?」


「えっ、たとえ世界はただ一つだけだとしても、『タイムトラベル』や『異世界転生』は実現できるわけなんですか? だったら何でわざわざ、そんなことを言い出したのです?」


「もちろんそれは何と言っても、Web小説やラノベやSF小説における、『御都合主義』を全否定するためなんだ。これは『精神体型タイムトラベル』の解説の時も否定しておいたけど、常に複数の世界が確固として存在しているなどと言った、非現実的なことがあり得ない限りは、タイムマシンw等の絶対にあり得ない『未来の便利道具』で、現代と未来とを好きなだけ行き来したり、同じくそこら辺のホームセンターで手軽に買える『現代の便利道具』で、濡れ手で粟の大儲けをしようとする、ダメダメWeb小説にありがちな、自分の肉体どころかホームセンターの大量の物質を伴って、これまた好き勝手に現代日本と異世界との間を行き来する、物理的な『異世界転()』なんて、絶対実現できないってことなのさ」


 ──やめてえええええええええ!


 もう、たったそれだけのセンテンスで、大手出版社と大人気Web作家を、完全に敵に回しているじゃないの⁉


「……いや、でも、それはあくまでも、タイムトラベルや異世界転生を行っている、当事者の『主観』のみの話であって、例えば今回の『おまえが(私の)パパになるんだよ⁉』騒動イベントについて言えば、確かに会長の『娘』の主観的には、未来からこの現代へと『精神体のみでタイムトラベル』をしようと、常に世界はただ一つでしょうけど、我々のような第三者から『客観的』に見れば、もし彼女が本当に『未来人』であるとしたら、少なくとも世界というものには、『現代』と『未来』との、二つがあることになるではありませんか?」


 そのように理路整然と反論を突き付けてみたところ、自説を否定されたはずの部長殿は、何と喜色満面に頷いた。


「──おおっ、さすがは我が唯一の愛弟子! まさにその通りだよ!」


「あっさり認めやがった⁉ しかもいつの間にか、勝手に愛弟子なんかにされていた!」




「確かに私が今述べた説は、完全に現実的なタイムトラベルや異世界転生の実現方法の一つとは言えるが、あまりにも『詭弁かつ極論的』とも言えるんだ。何せこれは『夢と現実との逆転方式』とも呼び得るもので、世界というものが一つしかあり得ないから、タイムトラベルや異世界転生を経験するごとに、()()『現代』や『日本』のほうこそが、単なる夢のようなものとして消え去ってしまうと言う、ある意味世界的な『焼き畑農業』みたいなもので、論理的に正しいとは言え、まさにあまりにも詭弁かつ虚論過ぎるからな」




「……ああ、まあねえ、Web小説等の話に限って言えば、異世界転生してしまった途端、現代日本が消滅してしまうなんて、現代日本人である読者の皆様は、誰一人納得なされないでしょうよ」


 そのように僕が、至極当然な感想を述べた──その刹那であった。




「──そう、そこなんだよ、その『現代日本人としての主観』こそを捨て去らない限りは、真に論理的に正しく真に理想的な、『異世界転生』作品は、実現できないのだよ!」




 ………………………………は?

 本日中に次話を投稿いたしますので、よろしくお願いいたします。

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